No053 アイリの野望、領主編 「花火兵器といろんな思い」 アイリは旅に出る準備をする。 8歳5月、
アイリが忙しいのは全く変わらない。
これで戦争に出て長期戦になったら領運営はどうするのだろう。
今までは少し心配していた。
官吏院に任せておけば、ほぼ間違いなくアイリの指示したことは実行される。
あらかじめ指示しておけば・・。
ここにきてマサノブが来たのは大きい。
臨機応援に対応してくれる可能性が出てきたからだ。
ただ、アイリのような発想は期待するほうが無理である。
新しいことは無理でも今ある状態を維持することは可能だ。
この日、アイリが来ているのは、火薬工舎の花火職人のところだ。
花火大会まではまだかなりあるはずだが・・。
鉄砲の試作で爆発力による弾丸発射というのを検討していた。
その時、発想を変えて一方向に火薬の力を向けることを並行して考えた。
いわゆるドラゴン花火のようなものだ。
それを考えているうちにロケット花火に発想が移った。
以前、花火職人とドラゴン花火の話をしていた。
類似のものは出来ているので、
それをロケット花火のように噴射して飛ばすことが出来ないかという話だ。
答えは出来るだろうと判断された。
アイリは新兵器の一つとして火箭や火薬槍と言われる武器を考えている。
その原型がロケット花火だ。
古代中国でも作られたその兵器は何故か衰退してしまった。
もしそれが発展していたらミサイルはもっと早くにできていたかもしれない。
確かに残された記録を見る限りでは、
どう見ても雨が降ったら使えないなどと思う弱点は見られる。
後世に資料だけ作られたとされる意見もある。
考えた人はいるが実現できなかったという意見もある。
実際使用された記録があるが、あまりにも誇張されていた。
アイリは、考えたが実用に至る成果がなかったと考えている。
ようするに作ってみたけど思っていたより使えないじゃんというやつだ。
これが衰退の理由だと考えた。
現代の知識と火薬技術で復元されたものがあるがそれは充分使い物になる。
ならばその弱点になったと思える部分を工夫と改善で補えばいいだろう。
現在アイリが検討しているのは、射出力の向上。
どうしても今ある火薬では力が足りない。
火薬だけでは飛翔の途中で力尽きてしまう。
飛翔したら明後日の方向に飛んでいく場合もある。
古代で考えられたそれは、まさしく気ままなロケット花火だ。
大型投石機並みの距離は飛ばしたい。できればそれ以上が望ましい。
狙った場所に行かなければ兵器としての役には立たない。
一方で鍛冶工舎には、ペットやソファー考案時に作らせたバネがある。
バネはいろんなものに使えるはずだと思っていたのだ。
馬車や荷車の緩衝用にも板バネなどを使った。
アイリが兵器検討で注目しているバネとはスプリングのことだ。
今アイリは、このバネの利用と火薬の力で射出力を上げようというのだ。
そこで両方の職人に検討をさせている。
空母のカタパルトのようにバネで発射し火薬の力で飛翔する。
弩のような弦では燃えてしまうので金属バネの利用を考案したわけだ。
発明出来れば投石機に変わるロケット砲の完成になる。
古代中国で存在していたのなら禁忌には触れない。
投石機の飛距離を伸ばそうとすると大型化して重量が増してしまう。
移動力が必要な侵攻作戦では、出来るだけ小型軽量化して
飛距離を我慢することになる。
カタパルトの試作とロケットの試作これが今アイリの課題だ。
そこで、具合を確認している。
火薬量を増やすと重くなる.
燃えて飛んでいるうちには軽くなるのだが
重いと発射時にかなりの火薬の力を使い、飛翔効率が悪くなる。
花火師にはバランス比率を検討してもらっている。
それともう一つが、爆発だ。
打ち上げ花火のように飛翔先で爆発してほしい。
これが出来れば花火大会でも使える。
要するにロケット花火の先端に花火玉があるようなものだ。
炸裂弾のような殺傷力は求めていない。
どこまで行っても打ち上げ花火モドキでいいのだ。
それだけで混乱した敵の力は半減する。
今は製紙工舎があり紙が大量に用意できるので花火玉の類似品は作れる。
アイリの事業がここでも役に立つ。
この試作の完成は花火大会で見ることが可能だ。
だから花火大会のかなり前である今からそれを進めている。
カタパルトの形状は筒形で考案している。
先端が玉形状ならそれが一番安定するからだ。
射出時に方向を定めやすくするために。
ある程度の長さを持つ筒状の発射台を考案した。
イメージは多連装ロケット砲。
古くはロシア軍のカチューシャなどがその原型だ。
発射台の角度を変えるカラクリを使えば、角度により距離も変わる。
巻き取りカラクリを使いバネを縮めストッパー解除で発射する。
カラクリとはアイリが考案した歯車の組み合わせによるギミックである。
筒の底には、スプリングを入れてその上に円形の鉄板を乗せる。
筒には穴の開いた縦溝を作っておき、
上から入れたロケットの導火線をそこから出すようにしておく。
筒の竪穴から出ている導火線に火をつけて、バネで射出すればいいだろう。
最初はバネの力で飛び出し、後は火薬の力で飛翔し最後は爆発する。
以前の様々な武器や兵器と同じように作っては試す。
この先これが繰り返される。期限はあと3か月。
アイリは、東への進行時に槍兵を使った包囲殲滅戦をした。
槍衾で周りを囲んで逃げ道をなくす方法だ。
今回は出来れば逃げる敵兵を作って戦力を削りたいと考えている。
東へ行った時と違い、戦闘準備が出来ているであろう敵が相手だからだ。
そううなると敵は農民兵が多い。数は揃えられるが領民である。
占領後の政策に大きな支障が出るのは間違いない。
それもあって包囲殲滅用の槍兵は戦力から外して編成しなおした。
槍兵は防衛戦でも大きな力が発揮できる。
混乱させ乱戦にしてしまえば、掃討戦であっても逃げられる。
降参しない兵が多かったのに逃げる兵はいた。
味方の武官がいると農民兵は簡単に降参しにくい場合もあるのだろう。
だから混乱させ、逃げるチャンスも与えるための方法をいろいろ考える。
騎馬兵の運用も同じだ。これも殺傷力より混乱させるために有利になる。
刀兵は敵兵の装備を見て、農民兵かどうかを見分けることが可能だ。
重点的に装備の良い者を狙わせる。
早めに農民兵の戦意を無くさせないと、
こちらがその気がなくても相手をしなければならなくなる。
そうなると必然的に双方の被害は増える。
この先の相手はスキル持ちがいるような気がする。
先行して領民を扇動させても、どれほどの効果が得られるのかは不明だ。
戦い方も今までと違う可能性がある。
アイリは敵が謀略系のスキル持ちである場合も考えて
自領内での変な噂の発生は押さえている。
もちろん何もしなくても、そんな扇動は領民が相手にしないだろう。
それだけ、アイリは自分が思っているより人気が高い。
しかしスキル持ちの警戒は必要だ。
短期間で勢力が増すなど危険極まりない。
相手の上を行く必要があるから、考えられる最良の方法を取る。
最低だが、領主の暗殺も場合によっては仕方ない。
今までは失脚させる程度で済んでいたのが、どうなるか分からない。
アイリの秘蔵の部隊、特殊諜報員には一般の工作部隊以外に
スキル持ちを多く採用している。
内政官や指揮官向きではないが個人技の高いスキル持ち。
以前同行した諜報に特化している者だけではない。
他にも様々な技能スキル持ちがいる。
アイリは以前も言っているが、理想は忍者部隊だ。
アイリの鑑定でしか見えないスキルを
個々に合わせ、より効果的に訓練させた特化兵ともいえる。
一般女性であったメイド隊を一流の兵士に育て上げたアイリである。
オタク歴女というのは信念に基づいた行動をさせると怖い。
本当に忍者部隊が欲しいと思ったら邁進する。
それが架空の存在でも、実在にしてしまおうと努力する。
戦うメイドが欲しいだけで実現してしまうくらいに打ち込めてしまう。
抜刀隊でも同じだ。それが欲しいと思ったら努力する。
新兵器も直轄事業もただ単に前世知識があるから出来るわけではない。
前世知識があるだけで実現など不可能だ。
信念に基づく努力をいとわないオタクとしてのこだわりがそうさせる。
新兵器と共に並行して行われる
特殊戦闘集団の作成もいわばアイリの次への戦いの布石だ。
ただ当のアイリは言う「やりたいことをやっているだけ」だと。
そのうち本当に十勇士とか作ってしまうかもしれない。
こだわりで改名させて佐助だの才蔵だのと言わせる可能性はないとは言えない。
いや本当にそうしそうで怖い。
アイリの直轄領では人がどんどん集まってくる。兵だけではない。
移民であったり行商人や職人、様々な人材が増えている。
最近は忙しくて人物鑑定もできていない。
アイリは、花火大会までには帰るとそう言って周囲に仕事を指示した。
アイチ領以外の3領にも行って自由貿易郷や募兵の様子を見るためだという。
その為に、これまで必死に仕事に力を入れてきた。
実際には、まだ見ぬ人材を求めてアイリは久しぶりにオカザキを離れる。
長い旅になりそうだ。
出かけるときには、必ずメイド隊が行く。
今度は長期の視察だと言ったら側使えのサヤカも同行するという。
各地に居館があるから、そこで宿泊できる。
確かに、いてくれると助かるのには違いない。
そうしたら、オイチも行くと言い出した。
オイチは妹のところでサオリといればいいと思ったがどうしても行くという。
長旅は子供には無理だろうと思ったが自分のほうが年下だった。
しかも、オイチは一人で長旅をしてオカザキまで来た旅の豪傑だった。
これは断れないと知って一緒に連れて行くことにした。
馬車ではなく馬の旅だ。
サヤカは馬術を習って馬に乗れるが、オイチはまだ乗馬が上手く出来ない。
アイリの時みたいに、仔馬を与えて練習中だ。
一応旅の途中でも乗馬の練習のため仔馬も連れていく。
基本的には、サヤカとの二人乗りになった。
アイリは体が小さいのに長年一緒にいる愛馬に乗る。
仔馬だったのに、もう立派な大人馬になった。
特別な鐙を使っているが、そんな工夫より
愛馬が言うことを聞いてくれるからアイリは助かっている。
アイリは、愛馬のことを「赤兎馬」と名付けている。
決して赤くないし、足も速くない。しかも雌馬だ。
アイリは忙しくても馬の面倒を自分で見ている。
毎日は無理でも頑張って可愛がっている。
馬は頭がいいから主をよく見て懐く。
この関係が多分大事なのだろう。戦場に行くときは、いつも一緒だ。
赤兎馬に跨り、偃月青龍刀を持つ。ともになんちゃって仕様なのだが。
今回もそんなスタイルだ。関羽かよというツッコみはあえて受けて立つ。
お出かけセットも忘れない。
サヤカもオイチもお揃いのウサギ型のお出かけセットだ。
一緒に同行するのは、メイド隊の1軍と2軍までと言ったら。
残された連中は悲しそうにしていた。
戦争に行くわけじゃないから大人数の移動は無理がある。
3領を移動する時にアイチ領をまたぐので
1軍以外はその時にローテーションするという案で納得してもらった。
ローテに入れない下位の軍メンバーには我慢してもらうしかない。
上位へ上げてもらいたくて、より一層努力することになるだろう。
まずは、東に向かう、トヨハシに寄ってシズオカに入る。
いつも通り、両親と妹、皇王様と聖姫様に挨拶して出発した。
この後、2か月にわたる長い旅の始まりだった。




