No054 アイリの野望、領主編 「シズオカ領の旅1」 トヨハシからハママツヘ 8歳5月~
ここから始まる旅の話は長いですが、後の重要人物がたくさん出てくることになります。
オカザキからトヨハシまで1日もかからず到着する。
以前、アイリは自由貿易郷どうしを最短で結ぶ街道を作らせている。
最近では橋も架かり移動速度を上げている。
アイリ曰く「バイパス線」らしい。
自由貿易郷には郡役場や官吏院などの重要行政施設がある。
もちろん、アイリ直轄事業の拠点だ。
だからアイリは、自由貿易郷の防衛には特に力を入れている。
アイリは、トヨハシ到着後すぐに官吏院へ行く。
東三河地区は、官吏院の長官に任命したカンドウ爺に丸投げしている。
アイリからの指示は、件数が多く難題も多い。
それを実行するのは、各行政ごとの実務管轄院の仕事だ。
その取りまとめを官吏院は行っている。
シズオカ領を得たのちのこと、真っ先に行政改革を指示した時に
一番近距離にいたカンドウ爺には、かなり無理をさせた。
せっかく育った部下たちも引き抜いて配置転換させている。
それはどこの官吏院も同じだと言える。
アイリが短期間で追加政策を行えるのも
これら官吏院とその下にある実務管轄院があるからだ。
この組織には、内務技能が高いものを各長官に配置している。
その下にも優秀な内政官がいる。
人事権は官吏院長官にあるが
アイリは鑑定によって直接人事に指示を出すことも多い。
どこからかアイリが採用した人物がやってきたりする。
能力が高く、素養があっても仕事を覚えさせるのは大変だ。
アイリは紙の生産が軌道に乗って本が作れるようになった時
官僚マニュアルなるものを作って配布した。
心がまえから始まり基本的な仕事の内容まで書かれている。
新人はまずこれを読むところから始まる。
アイリが3歳の時からカンドウ爺は側近を行ってきた。
一番付き合いが長い側近だ。
その時点で42歳、今はもう47歳になっている。
人生50年の世界ではかなり老齢である。
とはいっても60代も存在するから、人生50年も当てにはならない。
この国は定年制度がない、自分が引退を決めた時が定年になる。
「爺、久しぶり。元気にしてる?」
アイリはいつも通り気楽な挨拶をする。
「やや、姫。ようこそおいでなさった。」
カンドウは見る都度、大きくなっていくアイリを見ていつも嬉しそうにしている。
子がいないカンドウにとって、アイリは自分の孫のように感じている。
「年だから無理しないでね。厳しくなったらいつでも言っていいよ。」
アイリにとってもカンドウ爺は、祖父代わりの存在だ。
両親に贈り物をするときは、忘れずカンドウ爺にも贈り物を渡す。
「姫、何を言いますか、死ぬまで姫のために働きますぞ。」
顔を合わせると、こういった会話が最近多くなってきた。
アイリは、カンドウが引退したらオカザキの領主館敷地内に居館を作って
余生を過ごしてもらうつもりでいる。
「そうね、爺のおかげでこの領もずいぶん助かったわ。」
「ただ身体には気を付けてね。」アイリはカンドウを労わる。
「身体も心もいたって健康ですぞ。」
「姫のために働けるのは楽しくて、毎日大変だと思うことはありません。」
カンドウは、自分を見出してくれたアイリに感謝している。
しかも、アイリの側近の中で一番親しくしてくれるのがとても嬉しい。
「ところで姫、今回は長期での領内視察と聞いておりますが、
何かご指示があれば遠慮なく言って下され。」
ここに寄った理由が何かあるかもしれないとカンドウは思っている。
「いいえ、今日はこちらの居館に泊まり明日朝シズオカに向かうわ。」
「ここへは、爺の顔を見に来ただけ・・・ふふふ」
アイリはにこやかに答える。
「それは、とても名誉ですな。」カンドウもにこやかに笑う。
この日は、アイリのトヨハシ居館にカンドウを招いて一緒に食事をしながら
昔話に花を咲かせた。
そこに同席していたサヤカも昔を思い出して楽しく時間を過ごした。
他に同席したオイチとキチョウはアイリが幼児だったの頃の話を聞いて
目を真ん丸にしていた。
翌日の朝、見送りに来たカンドウ爺に別れを告げて
アイリは、シズオカに向かった。
シズオカに対してアイリはあまり良い記憶がない。
だから余計に足が遠のいていたのもある。
今回は、遠く離れたフジカワまで行く予定にしている。
まず向かうのはハマナ郡。
トヨハシからほどなくして目の前に大きな湖が見えてくる。
領地内で一番大きな湖、浜名湖だ。
オイチは、あれは海ではないのかとサヤカに聞いている。
東に来たことがないオイチは見るのが初めてのようだ。
サヤカも初めて見るから答えられない。
アイリは、昔は完全な淡水湖だったけど
地震があって南の方は海とつながっているところもあるよと説明する。
だから面白いことに北の方は淡水だが南の方は塩水だったりする。
そう話すとオイチは、すごく珍しいと面白がっていた。
浜名湖の北に迂回し浜名郡へと入る。
ここから先がシズオカ領だと教えた。
前世の県の線引きと異なるが、この時代のこの国ではここが線引きだ。
しばらく進むと、浜名郡の自由貿易郷であるハママツになる。
トヨハシからは、直線距離なら比較的に近いと言える。
しかし街道としては浜名湖を迂回するためその分遠回りになる。
天竜川の河口付近にハママツ郷がある。
しばらくは、ここにある居館が拠点だ。
アイリは自由貿易郷全てに居館を作ってある。
この日は、街を見る程度で明日から周辺の視察が始まる。
オイチは、オカザキと変わらないという。
自由貿易郷の区画配置は、その昔キヨスだった自由貿易郷が基になっている。
アツタと名前を変えてその時から幾分変わったとはいえ
オカザキ設立時のモデルにもなっている。
中心区と周辺の東西南北区は、確かにあまり違いは見られない。
オカザキと異なるのは、海が更に近いという点だ。
オカザキと異なる点として南の方に行くと港があるよと説明した。
翌日、サヤカとオイチは居館に留守番させるつもりだったが
やっぱりついていくという。
朝、官吏院にあいさつに出向き。
その後は、途中で食材の買い出しや必要な生活品を買い足しながら
各アイリ直轄公舎や工舎を回ることにした。
どこに行っても、領主のアイリだと分かると歓迎してくれた。
最初は、見た目幼女だったこともあり不思議にみられていたが
アイリを知っている幹部らが説明したようだ。
本人だと知ると大騒ぎになったところもある。
アイリ工房はオカザキだけでなく各自由貿易郷にもある。
アイリ肝入りの商品を試作制作する工房だ。
ここから、各工舎に量産化展開されるものも多い。
アイリ工房は地域によって特色があったりする。
人気商品の情報により方向性が変わったりするからだ。
地区の豊かさ度合いでも違いが出るし、土地柄という志向の違いもある。
オカザキだとアイリがしょっちゅう出歩くから
アイリの格好を真似する少女も多い。
ファッション関係はオカザキやアツタの流行が早い。
ここハママツでは、メイド隊が珍しいと人が集まる。
確かにメイド服は市販していない。
服は機能で選ばれるものが好まれるようだ。
何故か作務衣とアイリが便所下駄だという下駄は流行っている。
女性は着物にエプロン姿が多い。
洋装はまだニーズが少ないようだ。
だからメイド服を珍しがってみている。
この地では、作務衣も女性用にデザインアレンジした。
アイリ工房で作らせて、量産化しているところだ。
それを着ている女性も街中で見かける。
アイリ直轄工舎で働く女性に人気が有るからそこから広がりだしたのだろう。
確かに作業服だけど・・・。
まだ、アイリが領主になって間もないこの地では
やっと支援した産業や各種の事業が軌道に乗り出したところだ。
自由貿易郷も優先的に取り組んだがまだこれから発展するところになる。
区画配置などは同じでも、それぞれの規模が小さい。
アイリ工房の作品は、いわばぜいたく品が多い。
これらが、売れ筋になるのはまだ先の事だろう。
今は一般的な普及品に重点を置いている。
アイチ領では、学校が始まっているが、
まだこちらでは遅れている。
いろいろ時間的な差異が出るのは立ち上げ時間が異なるから仕方がない。
数年内には、すべての領が同じような水準になるだろう。
アイリは時々立ち止まっては、いろいろな人に声をかけている。
これは、人材スカウトをしているためだ。
中には、アイリが特に念入りに交渉する相手もいる。
アイリの今回の視察における真の目的は人材登用。
治療院に入った時、出入りの薬師を見かけるとアイリは声をかけた。
薬の納品に来たらしいその若い男は、
調剤技能ではなく、調合という技能を持っている。
何よりスキルを持っていた。精製スキル。
精製のスキルは世界事典によると応用範囲が広いようだ。
「科学者の卵、見つけた。」
アイリはよくわからない言葉を言うとその男を説得しだす。
医学者ではなく科学者というその意味は、火薬の材料にある。
よく聞けば薬を作っているのは師匠のようだ。
きっと師匠というのは調剤技能を持っているのだろう。
若い男は雑用を兼ねる弟子らしい。
多分知らなければ埋もれていた人材だと言える。
数日後、この男はアイリの紹介状を持ってオカザキへ向かった。
アイリの説得で火薬工舎の主格研究員に任命されたからだ。
若い男にしてみれば領主直々の任命で雑用係りから大出世である。
情報は既にオカザキへも連絡してある。
何を目的とするのかはよく言い聞かせたし、工舎にも伝えた。
少しでも、火薬調合の役に立てばいいのだが・・。
火薬素材の精製と調合を任せられる可能性があると
アイリは思ったから即行動に移した。
ハママツとその周辺を視察しながら課題をこなしていく。
新しいことに必要を感じる人材だけでなく
現在不足している人材や将来役に立ちそうな人材などを含めて
各所に配置させる。
時折見かける人物事典の黄色表示で悪人も逮捕する。
一度見たら逃げても地図にマーカーが出る。
アイリの支配域にいる限りは、アイリからは逃げられない。
アイチ領でも巡回の都度行ってきたことだ。
もちろん、組織内部に発見したら即刻処罰になる。
私腹を肥やす輩は、必ずいるといっていい。
世の中すべて善人なわけがない。
下手に力を持たせる前につぶしておくのが賢明だ。
こうして人材のスカウトや人事の見直しも行いながら
この地でも内政や事業の指示を行い。日々を過ごした。
アイリは、ここでの課題が終わったとハママツを立つことを決める。
次に向かうのは御前崎経由で焼津方面。
途中2か所の郡役場に立ち寄り周辺を視察。
その後、南下してオマエザキの港町と軍港を視察。
それが終わったら、北へ向かい郡役場周辺を視察。
3郡を一気に回ることになる。
最後に自由貿易郷のヤイズへ行く。
今度は、かなり長い行程になる。
海で行くと近いのだが鑑定が出来なくなるため陸路だ。
帰りは船で帰ってもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、メイド隊と側使えの二人に移動を伝えた。




