No045 アイリの野望、領主編 「敵軍との対峙、事の行き先。」 連携攻撃。 7歳12月、
アイリは現在、敵地で敵軍と対峙している。
7500の敵兵は手前の川を越えて、こちらに進軍している。
数で圧倒する気でいるようだ。
アイリは言う
「兵の半ばが川を超えたら攻撃開始です。」
これはよく歴史軍師が言う言葉だ。
アイリの布陣は、中央にアイリ本軍。
左に第五軍、右に第六軍
少数側であるオダ軍としては、
本軍を狙われたら終わってしまう失敗布陣だ。
通常であれば・・・。
アイリはこの日のために新兵器を持参している。
特殊軍船で運用した連弩と新型投石機。
これらは移動速度が遅い。
よってアイリ本軍は移動が遅かった。
その為に一番後方に位置していたのだ。
通常の弩と投石機を運用する場合
約200メートル基準で投射を行う。
これはある程度引き付けてからの距離となる。
最大射程はさらに100ほど多い。
しかし、連弩と新型投石機は連射が苦手だが
射程は、通常の物よりも超える。
基準運用は300メートルで充分効果を発揮する。
最大はそれよりも100多い。
ただ準備出来た台数は少ない。
その為、軍の編成は他の軍と同じ基準編成とした。
追加兵器としてこれらの他、アイリのメイド隊が加わる。
他にも新兵装の部隊を控えてある。
実数で言えば追加分だけ多い事になる。
しかし軍制により基準数1500としてある。
実際は1800程になっているのだ。
川までの距離は約300、それ以上近くに来たら200
基準投射射程に入る。
アイリのメイド隊は現在7軍編成。予備隊を正式編入した。
馬に乗り薙刀を使う。この国では珍しい騎馬隊でもある。
速度が出ないため騎馬突撃しても時代劇のような姿にはならない。
ただ言えることは馬とは凶器であるということだ。
いくら小型の山馬とはいえ、人より大きい肉の塊だ。
ぶつかったらかなり厳しいだろう。
アイリは鐙の改良で騎乗戦闘を行いやすくした。
どうせ足が遅いからと
馬の前側には馬鎧とアイリが名付けた鉄鎧がつけてある。
既にアイリの近衛兵化しており、充分戦力に数えられる。
そして新たな新部隊として、戦車兵が今回デビュ-となる。
これは、2頭立ての馬車だ。小回りは効かないが突進力がある。
中世ヨーロッパや中国の歴史で運用されていたものだ。
チャリオットとも呼ばれる。
馬車は3人一組で1人は御者役。残り二人が鎌槍を持つ。
鎌槍は敵の槍を絡め落とすように工夫された歴史の産物だ。
ここで運用するのは片鎌槍になる。
斧槍の斧の部分がやや曲がった槍形状になるものだ。
十文字槍は有名だが、あれの片刃仕様と言える。
今回戦場として選んだ地は平地が広く続く所。
逃げ隠れしにくい場所でもある。
アイリの各新兵器が、最大威力を発揮しやすい場所を選んである。
アイリの策とは、こういった新兵器だけではない。
今回の戦いは相手の心を折る戦いにする。
その為にわざわざ3方向に分けて進軍させた。
当然、北と南から包囲殲滅できる。
それらが狙うのは、川を渡り切らない後方半分の兵。
敵が川を半分が渡ったらというのは、そう言った意味もある。
前方に気持ちが集中するように
アイリが仕向けていたのもそういう理由だ。
たやすく敗れそうな中央めがけ進軍してくる相手は、
すでに北と南へ行っていた軍が近くまで来ているのに気が付かない。
全七軍による包囲殲滅。これがアイリの策だ。
アイリの役は、実はオトリだということになる。
「今です。投射開始!」既に準備していた新兵器から攻撃が始まる。
太鼓が鳴る。
遠方から川の中央付近へ投石が届く。
最前線にいる兵は矢の餌食だ。
それを超えてくる兵は通常型の投石機と連弩が襲う。
このタイミングで北と南から川を渡っていない敵兵へ
投石と連弩の矢が降り注ぐ。
混乱しているところへ弓兵の曲射が発射される。
川にいても川の前でも川の後ろでも遠距離攻撃を受ける。
アイリのいる僅か2000に満たない兵を狙えばいいと思っていた敵兵は、
突撃体制を取る前に周囲から襲われることになった。
7軍1万を超える兵力である。
数で圧倒していたはずが、いつの間にか数も負けている。
正面のアイリの軍から騎馬と戦車の突撃が始まった。
後に歩兵が続き、包囲を縮め出した。
アイリ軍を目指して突出していた兵は馬に飛ばされ戦車に突入される。
そこへ槍兵が取り囲み刀兵が隙から襲い掛かる。
しかし数が多いため、そう簡単に決着がつくわけではない。
完全包囲された状態で、投石と曲射が頭の上から降り注いでくる。
中央にいても石が飛んでくる。
何時しか敵兵は円状になっていた。
端にいれば槍と刀に、中にいれば石と弓が襲う。
逃げ場がない。
たとえ円から逃れても刀兵と騎馬と戦車が襲う。
包囲から逃げられないまま、円はどんどん狭くなる。
今回の戦いは、非情ではあるが降伏勧告はしない。
この国では当たり前の完全殲滅になる。
心を折るということは、他の心も折れる可能性がある戦い方になる。
それは目の前の敵兵士のことではない。
この領にいる領主やその元に集まる他の兵に対してだ。
またそれは周囲の領主に対しても効果があるだろう。
アイリは心を鬼にしてこの戦いに臨んでいる。
アイリに対して牙をむけば、こうなるという前例を作るために。
味方にも傷つく兵が出ている。
治療兵が対応しているが、それは増加していく。
しかしその何倍も敵兵は倒れていく。
傷つく程度ではなく・・・。
数が多い戦いは時間が長い。
たとえ決着がついているとしてもだ。
敵兵はすでに数百程度になっている。
アイリは急に戦闘を停止させた。
残っている中から一人を指さし
「あの者だけは助けておいて・・・。」メイド隊に指示を出す。
時間が止まり、静寂が訪れる。
敵兵の中から一人が救い出されるまでその時間は止まる。
何故アイリが止めたのか誰も気にしない。
アイリの命令に間違いがないと信じているからだ。
指揮官たちもこれには理由があると思っている。
傷を負った敵兵を助け出したメイド隊がアイリの元へその兵を連れてくる。
捕縛されたその兵を見てアイリは言う。
「捕縛を解いて、治療兵に怪我を見させてあげて。」
この後再び、時間が動き出し、やがて最後の時を迎える。
結果は序盤の段階でついていた。
この知らせを、わざわざアイリは諜報員を使って広げさせる。
織田軍と戦った兵7500が1日もかからず全滅した。
この情報は敵領内へと駆け巡る。
それと共に別の情報も流される。
織田軍に歯向かえば、皆こうなると。
この後たやすく2郡目、3郡目は陥落した。
抵抗はあったが、大量の兵はいなかった。
情報によると、領主と軍は5郡目にいるという話だ。
その軍は、きっと後詰で徴兵された部隊だろう。
アイリは先の戦いで農民兵がかなり少なかったことを鑑定で見ていた。
多分武官で構成されていたのだろう。装備もまともだった。
短い時間で徴兵を行ってすぐに前線配置は難しい。
それは唯一助け出した者からも聞いた。
この領の主戦力だったと。
となると次の軍は農民兵主体になる。
アイリは思う、「たぶん戦いにはならないわね。」
アイリは3つ目の情報を広げる。
織田軍は、領民や農民兵に関しては降参を認める。
4郡目の攻略が中盤に入った時、それは顕著に表れた。
5郡目にいた兵が勝手に解散しだしたと報告が入ったのだ。
これを聞いた後、4郡の攻略が終わった時点で
アイリは初めて、領主に対して使者を送る。
領主館は5郡目にある。
「皇王家を名乗るものを引き渡してください。」
これがアイリの使者の言葉である。
かなり上からの物言いだが、アイリは皇王直属の臣下で爵位持ち。
更に戦勝を続けている状況だ。
5郡目の郡境でそれが行われることになった。
相手は文句が言えない立場に追い込まれている。
ただアイリは領主を許すなどと言っていない。
言うことを聞いておけば逃れられるだろうと
相手が勝手に勘違いしてくれるだけだ。
使者が戻った翌日、それは速やかに行われることになった。
皇王家だというその人物を見てアイリは思う。
「最悪だ・・。」
限られた鑑定による情報。
技能、妄言。職業、無職。 どう見ても皇王家の血縁関係者ではない。
鑑定情報が限られるため詐欺師とは断定できないが、
口から出まかせの類だ。 しかも黄色表示。
領主は信じて騙されていたのか、知っていて利用したのかはわからない。
どちらにせよ、チャンスを活かそうとして牙をむいたのは変わらない。
皇王様によく話を聞いておくべきだった。
特殊諜報員からの報告から
こうなることが分かったのは、ここに来てごく最近のことだ。
何故これに気が付かなかったのか・・。
謎解きは、今にして思えば簡単だった。
皇王家には4人の血縁者がいる。
諜報院からの情報はこうだった。
次に4か所にいるらしいという情報。
1人は皇都近くの領、これは皇子様
2人目は北の領、これは聖姫様
3人目は西の領のどこか、これは皇王様
4人目は東の領、それがこの偽物
だとすると弟親王は?ということになる。
血族者が4人なら既にアイリが知っていた人物だ。
諜報院の情報は、他者から聞いた話が基になる。
直接本人から聞いた話ではない。
偽物がそう名乗って領主がそれを本物扱いすれば
聞いた話では、そこにいるらしいということになる。
しかも、皇王様以外で4人という話ではなかった。
これも聞いた話だから単に4人いるよと聞いたのなら
4人いるようですと言う話になる。
だいたい
皇王様自身が、所在地の人数にカウントされている時点で
おかしくなっている。
そして勘違いを発生させたもう一つの原因
皇王様が弟といった話。
実の弟とかどうかをはっきり聞いていない。
従弟を弟のように思っていたかもしれない。
もしくは、本当に後を任すつもりで弟にしていた。
これは継承ルールの穴だ。
ご自身が病になって、先が危ないと判断した場合。
歳の若い皇子様に任せるより
弟のように思える信用できる人物に任せるほうがいい。
そう考えていたとしたら、つじつまが合う。
皇子様成人後に直系にしたければ戻せばいいわけだ。
それを頼んでおくことで、このルールの穴が利用できる。
要するにリリーフを公認化させる方法。
何せ自分で決めれる立場だ。
ルールの穴とは皇王である立場であれば、変更可能であるというルール。
アイリ自身がそれを利用している。
男じゃなきゃダメだとか未成年じゃダメだとか
継承ルールに後付けした。
歴史上の正親町天皇は弟がいなかったはず。
もし、皇王様が類似の存在であるとすると
実の弟ではない確率が高いわけだ。
「疲れたな・・・ふぅ」
まだ戦いの最中だが、アイリはどっと疲れるのだった。
敵側の集団の中に、領主が隠れるようにいたのをアイリは見つける。
「ハタノ家の領主様ですね。」
アイリに自分の正体を言い当てられた人物は驚く。
「い、いかにも・・・そうである。」
アイリは責めるように言う。
「この人物が偽物だと知っていましたか?」
「?!」領主は固まってしまった。
アイリはこの領主の前で、偽物にいくつかの質問を出す。
皇王家の人間であれば知っていること。
偽物は一つもまともに答えられない。
そりゃ当然だ、偽物なのだから。
「これでわかりましたか?」
アイリは面倒だと思いながら領主に言う。
「偽物を使って、周囲の領主まで扇動し、戦を仕掛けようとした。」
これはアイリの言いがかり半分だ。
しかし半分は本当のことでもある。
領主は偽物だと分かってなかったのが態度でわかる。
「これは、皇王様に敵対する行為ですが、いかがするおつもりですか?」
「まだ戦うおつもりなら、これから一戦交えても構いませんが・・。」
領主は困った。
自分に大義名分がない、兵も集まらない、主力は全滅した。
目の前の小さな娘の後ろには、見たこともない兵装の敵兵が一万もいる。
相手側には大義名分があり、こちらは反乱したということになる。
自分は下手すると、この国の全領主から狙われる可能性もある。
アイリは領主を追い込んでいく。
「この失態を反故にする方法がないとは言えません。」
強い口調で言葉をだす。
「自ら領主の座を退けば、領地は、没収になりますが・・。」
「潔く退くなら、お命は助けましょう。」
叙勲証を見せる。これは皇王様からもらった直臣の証だ。
アイリの言葉は、皇王様の代理としての権限がある。
「皇王様には私の方から、その旨をご報告いたします。」
ここに至っては、領主に選択肢はない。
事実上の解任宣告だ。
これ以上事を起こすと謀反人、反逆者として処罰される。
長引かせるわけにもいかないだろう。領主はそう判断する。
「わ、わかりました。仰せの通りにいたします。」
そう言うとアイリに平伏する。
領主の部下もあわててそれに合わせて平伏した。
アイリはニコリと笑顔になる。
「よき御英断ですね。ふふふ」
こうして、この領主が直轄支配していた8郡は
アイリの直轄地として接収された。
偽物の人物の名は
ヒサヒデ(久秀)
松永久秀の完全なる同名者だ。
名前が完全一致というのも珍しい、帰蝶以来だ。
歴史のいたずらか、辻褄合わせなのか。
松永久秀に三好長慶が翻弄されていたということになる。
アイリが謎を解くきっかけになった特殊諜報員からの報告
人物の名は、ヒサヒデである。と
結果、アイリは血族でないと断定することになる。
しかも、松永久秀、領主が三好長慶、これで全て読めたわけだ。
アイリは年内にすべてのことを終了した。
あとは、聖祭日までにアイチに帰れるかどうか・・。
「うーん、間に合わないかも・・」
帰り道でアイリが悩むのは、ただそれだけだった。
東の領は官吏院に連絡した。
年明けから業務改革が行われるだろう。
東の地には、第三軍と第四軍を残した。
反乱分子への対処と残り2郡を所有する豪族への警戒のためだ。
情報を知らない連中が何をしでかすかわからない。
そして、アイリが唯一助けた人物。
単なる下級武官であった彼は
ヨシノブ(義信)18歳 スキルはない
武田義信の完全同名者だったのだ。
歴史上の武田義信は武田家の嫡子であったが廃嫡された。
義信の部下だったものが信玄暗殺を企てたためだという。
謀反事件だ。
異母弟の諏訪勝頼に織田信長の養女龍勝院を迎えて
誼を通じたという逸話がある。
勝頼は武田家を継いだ人物だ。
歴史上の義信自身は今川家から妻をもらっている。
これが今川家との同盟の証だ。
しかし、今川家が信長に敗れると
信玄は方針を変えて今川家と敵対することにした。
これが謀反事件のきっかけの様な気がしないでもない。
何らかの形で織田家と関係していたことを
アイリは歴女知識の隅で気が付いた。
歴史に翻弄された人物を、ほおっておけなく感じたのだ。
この世界は異世界だ。
本当の歴史人物であるとは限らない。
しかし、類似の存在はいる。
今回、東の領に来て
いろいろな同名人物を見て、その関係性を思うに
アイリは歴史というものの不思議さを感じたのだった。




