ぱーと1 美香の場合④
「梨香ちゃんいる?」
玄関の戸を勢いよく閉めると叫んだ。
「まぁ、なんです。女の子が大きな声出してぇ~。梨香ならいませんよ。」
「え~、出掛けたの?」
「うん、今日は遅くなるって~。」
「そうなの・・・ふ~ん」
キッチンでコップにジュースを入れて階段を駆け上った。
自分の部屋に入るとテーブルにジュースを置いてベッドにドカッと座った。
「もう、梨香ちゃんたら~。男の人なら男の人ってはっきり言ってよ。」
クッションを抱きしめながらつぶやいた。
結局、今日はカフェに入って、普通に話して私の小説を渡しただけだった。
また次回までに読んで、アドバイスしてくれるって言った。
市川さん・・・その人の名前は市川涼さんという。大人で優しくて・・・
しかも涼さんと同じ名前だし。
次の日曜日にも会う約束をしたから楽しみだな・・・って小説のアドバイスが楽しみなわけでって、1人で誰に言い訳してるんだろう。
それにしても市川さん、梨香ちゃんのこと褒めてたなぁ。いい子だって。
妹としては姉を褒められて嬉しいんだけど・・・
何か気になっちゃうな・・・
まさか、市川さんと梨香ちゃんって・・・
「美香、ご飯よ。」
下からママの呼ぶ声がしてきた。
「はぁーい。」
また梨香ちゃんが帰ってきたら聞いてみようっと。
どうせ、どうだった?って言われるだろうし。
「さっ、ごはん、ごはん。」
空になったコップを持って下に降りた。
次の日。
結局、梨香ちゃんには聞くことができなかった。
学校から帰ってくるころにはいるかなぁ。
また後で聞いてみよう。
「おっはよー!!ねぇねぇ美香。昨日はどうだったの?」
晶がにこにこしながら聞いてきた。
晶の家は私と同じ方向にあって、途中から一緒の為本屋の前でいつも待ち合わせしていた。
「晶の方はどうだったの?丸山くん達の応援に行ったんでしょ?」
「そう!!勝つことは勝ったんだけど、ぎりぎりー。和登ったら『お前ら!ここまで成長して~(泣)』なぁんて言っちゃってんの。レギュラーメンバーばっかりで試合してたのに・・・。引退して身体がダラダラしてるってことだよね~。」
晶が気難しい顔をする。
「まぁまぁ。皆受験もあるからしかたないよ。勝ったから良かったんじゃないの?それにしても何だかんだで、晶と丸山くんは仲良しだよね~。」
「はっ?なに言ってんの?ただの腐れ縁でしょ!」
晶の顔がさらに気難しくなる。
「ってか、そんなことより。どうだった?小説渡せた?アドバイスもらえた?」
「うん、いい人だったよ~。小説は渡したけど、アドバイスや指摘はきっと来週かな。」
「へぇ。じゃあ、読んどいてくれるってことだねぇ~。」
「うん、そう言ってたよ。」
「で、で?美人だった?りょうちゃんさんだっけ?畑山涼と名前がかぶってるって喜んでたじゃん。」
晶が興味津々に聞いてくる。
「うん。背も高いしかっこよかったよ。涼ちゃん“くん”。」
私がくんに力を込めて言ったけど、晶はそこはあんまり聞いていないみたいで満足気に言った。
「へぇ~。かっこよかったんだ~。良かったね。りょうちゃんく・・・ん・・・?えっ!?くん?・・・
お・男の人だったの~?」
「良かったじゃん。出会いだよこれは!fight美香。」
晶は私の背中をポンッと1回叩いてそう言った。
その後も市川さんのことたくさん聞かれたな~。
とは言っても、梨香ちゃんの彼氏?好きな人?となると話は別・・・
姉妹で揉めたくないし。
梨香ちゃんは何でも出来るし、頭いいし美人だし。自慢のお姉ちゃんだし。
勝つ自信は全くないよ。
「はぁ~、困っちゃったな・・・」
「何が困ったの?」
急に声がする。
「り、梨香ちゃん!?」
「さっきからずっと後ろから見てたけど、1人でぶつぶつ言ってるのがまる聞こえだよ。相田さん家の下の娘さんは変な子だって言われるよ。」
そう言って首をかしげた。
「ねぇねぇ、梨香ちゃん。」
「んっ?」
「市川さんって梨香ちゃんの彼氏?」
梨香ちゃんの服を引っ張る。
「えっ?なに急に。何でそんなこと聞くの?」
梨香ちゃんは一瞬びっくりした顔をしたけど、にやっとして言う。
「まさかあんた、涼ちゃんに惚れちゃった?」
「違うよ、ちがう!!」
梨香ちゃんのセリフが図星過ぎて慌てて否定する。
でも、そう否定しながらも自分の顔が熱くなってくるのがわかる。
好きっていうか、惚れるっていうか。
会ったばかりだし、いい人だなって思ってるくらいだし、まだ・・・
「ふ~ん。あんたが涼ちゃんにねぇ~。まぁ、涼ちゃんはいいやつだし、見た目もかっこいいし分かるけどね。」
梨香ちゃんがつぶやく様に言って、1人でさっさと歩いて行ってしまった。
「ちょ、ちょっと。梨香ちゃん待ってよ~。何で怒ってるの?」
「別に怒ってないし。」
振り返りもせずにスタスタ歩いていく。
もう、絶対に怒ってる
梨香ちゃんは小さい時から、怒ると大声出すとか叩くとかはなかったけど、徹底的に無視されるんだよね・・・
それが逆に怖かったりするんだよね。
やっぱり、梨香ちゃんは市川さんのこと好きなのかも。
姉妹で同じ人を好きなんてだめに決まってる。
私は市川さんのこと好きにならないようにしないと。
うん、市川さんは小説の先生。
私は何度も心の中で繰り返す。
そしてその日から梨香ちゃんとはあんまり話さなかった・・・。




