一緒に食べられなくても、美味しい
サンがルーナーの胸くらいまで大きくなったのは、彼女が十二歳の春になった頃だった。
人間の世界だと、お金のある家は十二歳では学校に通って、お金がない子は、働きに出るらしい。気付いてはいたけれど、人間の価値を決めるのはお金らしい。
サンは最近、就職活動で、いろいろな店に行った話をしてくれた。働ける店さえ、契約金を先に積める子供の方が有利という知識も、ルーナーはその時初めて知った。
友達が住む世界の残酷さに、恐れ慄いたルーナーは、先祖代々使いもしないのに溜め込んでる、金貨のぎっしり入った隠し部屋を前にしばらく悩んだほどだ。
ただ、こんなものをあげたら、今までの関係も壊れるような気がする。ルーナーはサンが嫌いではなかったので、その関係を壊さないように、大きな決断は避けるようにしていた。
その日の夜、サンは踊るように、ルーナーの家に入ってきた。
「春から、私は本屋さんで働くのよ。すごいでしょう? ルーナーが字を教えてくれたおかげ!」
満面の笑みで笑うサンを見て、ルーナーはあんなものをあげなくて良かったと思った。
サンが働くようになってから、ルーナーの日常も少しだけ変わった。サンは朝から夕方まで働く。そこから家族が帰ってくるまでの二時間だけ、ルーナーの屋敷に来てくれる。今までより一時間だけ、サンに会えるのが遅くなる。しかも、サンは働いている。
無職の引きこもりとしては、正直尊敬しないといけないレベルで凄いことだと思った。
ルーナーは何十年もまともに使われてない、キッチンの中を見渡した。
両親が生きていた時は、知り合いの人間たちに血を抜いた豚や牛の料理をおもてなししていた。だから、道具は揃っている。庭にもまだ生きている、保存食として生かしている鶏が数羽いるはずだ。
死んだ鳥が好きなサンのために、ルーナーは包丁を研ぎ出した。
「何てことなの! 鳥の丸焼きなんて、初めて見る!」
(調理方法が、それしかわからなかったからね)
本当に塩を振って丸ごと焼くだけでいいのか、ルーナーにはわからなかったけれど、サンの反応を見る限り悪くはなさそうだ。
自信なさげに食堂のテーブルの隅に置いていた料理は、嬉しそうに料理を掲げたサンの手によって真ん中に移動された。
ここまで喜ばれると思っていなかったルーナーは、サンの嬉しそうな様子をじっと見ることしかできなかった。
さっそくフォークを鶏に突き立てて、そのまま丸ごと口に運ぶ。到底一口では食べられない大きなそれを、丸ごとかぶりつく。斬新なテーブルマナーにルーナーは思わず笑ってしまった。
サンは口に入れた肉を咀嚼しながら、ルーナーを見る。昼間の空のような瞳を輝かせて、サンは満面の笑みで笑った。
「友達が作った料理は、本当に美味しいのね! 一緒に食べれないのが、残念だわ」
ルーナーは笑ってしまった。まだ、人と一緒に食べると吐いてしまうという嘘を信じているようだ。
「なんだ、そんなことまだ信じてるの?」
「どういうこと? ルーナーは人とご飯を食べると緊張するんでしょ?」
「……僕は食事はしないよ。血液だけ飲めれば良いから」
ルーナーは、少し言いづらそうに言った。人間に自分の食事事情を伝えるのは、少し、いや結構気まずい。だから、気にせずにサン一人で食べて、と、サンを促そうとした。
サンは食事の途中でいきなり立ち上がる。最近わかったことがあるけれど、サンが閃いたように目を大きくして手を叩いた時は、大抵良くないことを考えている。
サンが手を叩く音がした。
「なら簡単じゃない! 血液を鍋で煮てスープにしましょ! それを隣で食べれば良いのよ!」
「サン、待って、待って」
(勘弁してくれ)
勝手に人の家のキッチンに入ったら、基本的に家主は良い顔をしない。サンの家族は、この無邪気な女の子に、教えてないことが多すぎる。ルーナーは食堂を出て行こうとしたサンを必死で止めた。




