太陽という名前をあげる
ルーナーがサンにあげたのは、ルーナーの両親が用意してくれた子供用の絵本セットだった。多分、常識的に、プレゼントにお古はあげるべきではない。
常識が偏っている自覚があるルーナーも、それくらいは知っていた。けれど、ルーナーはこれをサンにあげたかった。
家になぜかあった黄色のリボンをつけて、サンの誕生日の前日に渡したら、悲鳴をあげて喜んでくれた。相変わらずサンはいつもうるさい。
蝉も犬も、煩いものは嫌いだった。けれどルーナーは、悲鳴をあげて絵本を抱きしめ、くるくると回るサンを見て、時と場合によっては煩いのも悪くはないことを学んだ。
それから、毎日サンはルーナーに字を教わった。一年も経てば、サンが物覚えがいいとはいえないのは気付いていたけれど、ここまで酷いとは思わなかった。ルーナーは、初めて教師という職業に尊敬の念を抱いた。
(知らない人と話してはいけないと教わって、知らない家に入る子が、頭のいい子だとは思わなかったけど)
ここまでとは、想像できなかった。何度教えてもわからないその単語を思い出すために、サンは黄色に輝く髪の毛をぐちゃぐちゃに掻きむしってる。脳を刺激してるのだろうか。
ルーナーは、サンの良いところを結構知ってる。例えば、こういう原始的な行動をすることによって、自分の感情をルーナーに教えてくれるところとか、特に気に入っていた。
「サン、きみの名前は太陽って意味なんだよ」
「太陽? 私の名前はサンよ。太陽ではないわ」
「昔の言葉で、太陽って意味なんだ。きみにぴったりだね」
北風と太陽という、遠い昔の話を読みながら、サンの名前の意味を教えた。サンは複雑そうな顔をする。
「わたしはね、鳥が嫌いなの……食べるのは好きよ。生きてる鳥が嫌い。飛び立つ時の羽の音が怖いし、嘴でこちらを突いてきたら、痛いもの。だから死んでてほしいの。そしたら美味しいでしょ?」
(なんて理不尽な好き嫌いの判定なんだ)
唐突な話題の変更はサンのくせだ。多分脳みそを通さずに言葉にしているせいだと思う。ルーナーは、友達のその、支離滅裂な会話に付き合うのも結構気に入っていた。脳の刺激になって、老化を防げそうで良い。
「ルーナーは、太陽が、嫌いでしょ」
「え、あ、んーと。そうだね」
(嫌いどころか、天敵だ。僕の生命も脅かす)
信頼してないわけではないけれど、この致命的な弱点を、サンに言って良いかわからずにルーナーは言い淀む。
「わたし、ルーナーの名前が鳥だったら、名前を呼ぶのも辛いわ! どうしましょう。サンって呼ぶの嫌いよね?」
サンは立ち上がってルーナーに抱きついた。力いっぱいルーナーを抱きしめる。
「でもごめんなさい! わたし、サンってルーナーに呼ばれるのが好きなのよーーー!」
絶叫して顔をルーナーに押し付けてくる。サンの太陽みたいな髪の毛が、ルーナーの胸をくすぐった。あまりにもくすぐったくて、くだらなくて、ルーナーは吹き出してしまった。彼の赤い瞳から、涙が浮かぶ。
「な、何? 笑ってるの? 泣いてるの? ねえどっち!」
「サン! ふ、サン、ねえ、僕はサンって名前を一番呼んでるよ。もう、サンの名前が変わったら困るよ」
ルーナーは、初めての友達の名前が変わらないように、笑いながら説得をした。きみには太陽の名前が一番似合うよって。笑いながら、そう、何度も説得した。




