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最後の吸血鬼は、太陽を取り戻す  作者: さかさき まる
第二部 太陽を探す吸血鬼

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14/33

太陽があるべき場所に、何もない



 ルーナーの朝の日課は、カーテンを閉めることだった。朝日が入る前に家の中の至る所のカーテンを閉める。ここ数年は、外の様子を見るために、薄暗くなる頃には開けるようにしていた。


 今日はサンの誕生日だ。


 異変に気づいたのは、閉めていたカーテンにもう一度手をかけた時だった。時計の針は、朝を指している。


 窓の外は、暗いままだった。


 カーテンを開ける。庭は、月の光だけを受けて、青白く沈んでいた。空には、雲もない。ただ、何もなかった。太陽があるべき場所に、何もない。


 ルーナーは、しばらく動けなかった。


 異常事態を理解したあと、すぐとった行動はサンの家に行くことだった。ルーナーの家から歩いて三十分だが、吸血鬼が急げば五分もかからない。脚に力を溜めて跳躍する。

 月が空に浮かんでいる。月明かりを頼りに、ルーナーは崖を下った。砂利が飛び散り、ルーナーの頬を切り付けた。

 しかし、ルーナーの頬は一瞬、血がでて、そのまま塞がった。


 崖を降りたら、また脚に力を溜める。手前の木に掴まって、その勢いのまま次の木に掴まる。葉っぱや枝が、勢いよく動くルーナーの腕や顔を傷つけたが、やはりすぐ塞がった。

 ルーナーは五分もかからず、サンの家まで着く。息さえ乱れていない。

 以前と変わらず、そのドアには鳥の模様が刻まれてる。ノックを三回する。

 様子を窺ってみるが、中の人が生活している気配はない。

 ルーナーはサンにあげた懐中時計とお揃いのものを、胸ポケットから取り出して確認した。時刻は朝七時だ。もう、人が起きて生活しているはず。

 ルーナーはそのまま扉を開けようとして、鍵がかかっていたので、やめた。裏手に回る。そこには窓があったはずだ。

 窓のカーテンは、開いていた。部屋は暗いので、中の様子は分かりづらい。室内は物音ひとつしない。嫌な予感がして、心臓が脈打った。ルーナーは長くした爪で、窓の鍵の部分のガラスを切り取った。手を入れて鍵を開ける。

 窓を開けて、身体を捩じ込んだ。そこはサンの部屋だった。ベッドには、身動き一つ取らずに横たわる、サンがいた。


 ルーナーの、血の気が引いた。


「サン! サン!」


 すぐさま駆け寄り、サンの身体をゆする。反応はない。ルーナーは、サンの口元に耳を当てた。


「息は、してる……」


 心臓の音もしている。ドクンドクンと鼓動を刻む心臓の音を聞いて、サンの頬に手を当てた。暖かい。


 サンはまだ生きている。


「なんで起きないんだ。どうしてだ」


 先ほどよりも強くゆすった。それでもサンは一切反応しない。生きているのに起きない。

 太陽が消えて、何か病気にでもなったんだろうか。ルーナーは迷いもせずに爪を出して、自分の指先を傷つけた。その血をサンの口元に入れる。吸血鬼の血液は、それだけで怪我や病気を治す。


「どうか、起きて、サンお願いだ、サン!」


 しかし、サンは起きなかった。ルーナーは、世界が崩壊したかのような錯覚を覚えた。眩暈がする。動悸もひどい。これは一体なんの悪夢なんだ。

 サンを強く抱きしめながら、ルーナーは自分がずっと震えていたことに気がついた。




 サンの家には、もう一人見知らぬ女性がいた。キッチンでは、朝ごはんの準備をしていたらしい。女性は作業の途中で倒れたような格好になっていた。

 ルーナーは、サンの面影がある女性をキッチンの横にある部屋のベッドに寝かせる。その女性も、抱き上げてもなんの反応もなかった。

 早くこの異常事態を解決しないといけない。おそらく太陽の消失と関係があるはずだ。眠ったまま起きないのは、サンのこの女性だけなのか、人間全員が眠っているのか、動物やルーナー以外の種族も眠っているのか。

 サンの家から急足で出た。林からはフクロウの鳴き声が聞こえる。耳を澄ますと、小川から魚が跳ねる音も聞こえた。

 大きく息を吐いたルーナーは、サンの家にきた時以上に急ぐために、大きく跳躍したのだった。




 王国の首都は、ルーナーの屋敷から馬車で三時間ほどのところにあった。その距離をルーナーは一時間ほど駆け抜けて、到着した。


 ルーナーは一度足を止めて息を吸う。この場所に来たのは、数百年前、両親が死んだ時以来だった。


 首都に入るために必ず通る門は、不自然に開いたままだった。数人の兵士たちが、倒れている。その前には数台の馬車が列を成したまま停まっていた。

 ルーナーはその異様な光景を一瞥すると、門を飛び越えた。大通りに連なる店の屋根を飛び越えて進んでいく。道ゆく人々は、いきなり倒れたような格好で地面に伏していた。

 ルーナーの目的は、王宮だった。あそこの研究所は人外のことや、こういう異常事態の対策をしているはずだ。今回、いきなり太陽が消失する前に、何か月も異常気象が続いた。サンが、体調を崩す人間が続出しているとそう言っていたから、おそらく何かしらの原因がわかるはずだ。

 この異様な眠りが、サンにどれだけの影響を与えるかわからない。ルーナーは、はやる気持ちで、さらにスピードを上げる。

 王宮の門は、首都の中心にあった。屋根から屋根に飛び移り、門の前に降りる。

 鉄と金の装飾で組まれた門は、見上げるほどの高さがあった。左右対称に配された双頭の獅子の彫刻が、門柱の上から睨みを利かせている。普段なら衛兵が二列に並び、槍を交差させて格式を示しているはずの門だったが、今はその衛兵たちの姿もなかった。

 ルーナーは王宮に入って行った。普段なら疲れ果てるほど走り続けているが、今は一切疲れが感じられない。

 王宮の回廊も、下働きだけでなく、身分が高いであろう人間が全て倒れている。ルーナーの足音だけが響き渡る廊下は、すでに消えた蝋燭しかなく、昼間近いはずなのに薄暗かった。

 中庭に出た。空には月だけがある。月の光を反射している池には、赤い魚が何匹も泳いでいた。池の横を通ると、すぐに白い建物が見えた。扉を開けようとして、鍵がかかっていることに気づく。

 ルーナーは足を振りかぶって蹴り開けた。静寂が支配していた空間に、破壊音が響く。周りが壊れるのも一切気にせずに、早足で階段を登る。ルーナーの記憶では二階の右奥、そこに異常事態の研究室があるはずだ。


 室内は三人の男性が倒れており、書類も散らばっていた。ジャケットの胸に付いているペンのバッチを一瞥する。これは、研究者の証だ。数百年前から、この証は変わらないらしい。

 倒れている男性を足で蹴り、退かす。ルーナーにとって、研究者は害虫くらいうるさくて悍ましい存在だった。優しくすることはできない。

 落ち着かせるために息を吐いたルーナーは、手当たり次第に書類を漁る。曇り空について、この害虫たちはずっと研究していたようだ。その中に、数か月で赤子の死亡率が増えてる――という一文に、手が止まった。

 いや、これは関係ないはずだ。サンは眠っているだけだから。ルーナーは首を振って、再度書類を読み漁った。

 作物の不足、太陽の光が弱まっている。一か月毎に太陽の光量が減っている。


 その一文を読み、手を止めた。


 合わせて、人外種族の活動範囲が広がっており、特にドラゴンの目撃情報、多数。――ドラゴンの討伐を検討する必要がある。人類は、太陽を奪われてはならない。



「――ジン?」


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