太陽のない夏
ここ数か月、曇り空が続いている。野菜の育ちが悪くてなかなか手に入らないらしい。サンの悩みを聞いたルーナーは、屋敷の無駄に広いだけで使いもしない花壇に野菜を植えることにした。深夜に作業をして、日が出る前に止める。
初めてできた野菜を見せた時は、スカイの結婚で落ち込んでいたサンが久しぶりに悲鳴をあげて喜んでくれた。カブは初心者でも育てやすくて、とても助かった。紙袋に入れて家に持って帰ってもらう。
「晴れ間がないからかしら、お兄ちゃんが結婚しても会えないわけではないのに、なんだか元気が出なかったの」
「人間にとって太陽は必要なものだからね」
「なんだか病気になる人も増えてるらしいわ、ルーナーも、気をつけるのよ」
(僕より君が気をつけないと……)
念のため忘れられた森の場所を確認しておこう。カブのスープをサンに出しながら、久しぶりに元気なサンの顔を見て笑った。元気がないサンは苦手だ。もうすぐで成人になるサンに、カブ以上のプレゼントを選んで元気を出してもらう。
ルーナーは職場の愚痴や、近所の人の話をしながら楽しそうに食事をし出したサンに、追加で最近作り方を覚えたアップルパイも差し出した。
もちろんサンは悲鳴をあげて喜んでくれた。
もう春も終わって夏になるはずだ。なのに、全然暑くならない。曇り空のままだ。いつもよりも早く日が暮れたので、ルーナーは庭に出て野菜の様子を見た。日光不足からか、アスパラガスは痩せ細っていた。
気候異常なのだろうか。吸血鬼にはなんの問題もない。でも、サンは人間だ。人間はすぐ死ぬし、すぐ病気になる。アスパラを抜く手を止めて、暗くなった屋敷の外を見る。
そういえば、蝉も鳴かない。煩くてかなわない害虫だったのに、その声が鳴り響かないことが、ルーナーの不安をことのほか煽った。
「サンは、成人したらどこに行くの?」
「安心して、この家の近くよ。職場が変わらない限り、この街にいるわ」
ルーナーも晴れ間がないことに影響を受けているらしい。最近ひどく不安になることを見透かしてか、サンはルーナーの不安を解消するように笑った。
「なら、庭を拡張してサンの食糧を育てないとね」
「ルーナーが許してくれるなら、家を出たらここに住もうかしら」
ガチャン! アスパラガスのグラタンをテーブルに落とした。ホワイトソースが溢れる。
「熱かった!? ルーナー火傷してない?」
「いや、サンがここに住むって言うから」
急いでルーナーの手を確認したサンを凝視しながら、ルーナーは言葉にすることで、サンの発言の意図を理解しようとした。サンは天気のいい空色の瞳を輝かせて笑う。
「家賃は払うわ!」
(……そう言うことではない)
聞いていいのかわからなくて、グラタンをサンに差し出しながら、ルーナーはサンの様子を伺う。サンは満面の笑みでスプーンを握っている。
五年間変わらない無邪気な様子に、ルーナーはため息を吐いた。何も起こらないけれど、生物学上はルーナーは男だ。自分の家族として甘えるにしても、警戒心は持って欲しい。
そう考えて、ふっ、と笑ってしまった。吸血鬼とも友達になれる人間が、男というだけで警戒できるとは思えない。
「何笑ってるの?」
「いや、家賃はいくらにしようかなって考えただけ」
「友達なんだから割引してよー」
ルーナーは知っていた。自分の作ったグラタンを美味しそうに食べるサンを見て、自分の家事スキルは、吸血鬼の中でも上位に入ること。サンは結婚して、いずれルーナーの元を離れることも。
でも、ルーナーが作ったグラタンを食べてるこの瞬間は、いつでもルーナーの側にある。笑いながら、大切な時間を増やせるように。
(明日は夏野菜の収穫をしよう。そして成人のお祝いも盛大にしないと)




