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最後の吸血鬼は、太陽を取り戻す  作者: さかさき まる
第一部 太陽が嫌いな吸血鬼

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吸血鬼なんて、なるものじゃない



 ルーナーの最近の深夜の日課は、他の人外社会について調べることだった。ルーナーの屋敷は両親のそのまた前から使われていて、書物も多くある。実はここにある図書室のラインナップは、王国図書館にないような物も揃ってたりする。

 先祖代々、吸血鬼は引きこもりで根暗な性分なので、外に出ないでできる娯楽に目がない。


「あった、人外大全だ。これは、興味がなくて読み飛ばしてたから、ゴホゴホ!」


 時間が腐るほどあったけれど、掃除はしなかった。それを今になって後悔している。ルーナーは、ランプの光が当たってキラキラと光る埃を睨みつける。


(ここに、他の種族の就職状況が書かれているはず。みんながみんな、社会に出てるわけではないんだ)


 埃が落ちた床にそのまま座る。本棚に寄りかかりながら、ページをめくった。紙が擦れる音が響き渡る。

 人外として一番有名なのは、ドラゴンだったりする。彼らは人外の存在を統べる王みたいな物だからだ。何よりこの世で一番長寿で、強い。ただ、ルーナーはドラゴンが嫌いだ。傲慢な奴らはすぐに相手を見下すから、相手をすると疲れるのだ。


「ドラゴンは、と」


 ドラゴン。人外の中でも最古の系譜に属するとされる種族。空、火、水、氷など、生まれ持った属性によって性質が大きく異なり、群れを作らず、一頭ごとに広大な縄張りを持つ。

人間はおろか、他の人外種族さえ、正面から戦って敵う相手ではないとされる。その圧倒的な力ゆえに、人外の中では古来「王」として扱われることが多く、実際に人外全体の意思決定に関わってきた個体も存在する。

寿命は千年を優に超えるとされるが、正確な生態はほとんど解明されていない。人前に姿を現すことは稀で、目撃例のほとんどは、遠方から見た影か、伝承の中にしか残っていない。


(つまり、働いてないな。まあ、ジンを見る限り働いてるとは到底思えない)


 ルーナーは次のページをめくる。一番人間社会に馴染んでいそうな種族を探そう、ルーナーはページの半分を掴んで、そのまま読み飛ばした。


(あ、あった。狼男)


 狼男。満月の夜、あるいは強い感情の昂りをきっかけに、人の姿から狼、または狼と人の中間の姿へと変化する種族。変化した状態では、人間はもちろん、他の人外をも凌ぐ膂力と俊敏さを持つとされる。

群れを作る性質が強く、単独で生きる個体は少ない。仲間意識が非常に強く、一度「群れ」と認めた相手には、血の繋がりの有無を問わず深い忠誠を示す一方、群れの外の者には強い警戒心を抱く。

人間との混血が生まれることもあるが、狼の血が薄まると、変化の力もまた弱まっていくと言われている。


(魔女ってまだいるんだっけ)


魔女。人外の中で唯一、生まれつきの種族ではなく、後天的に力を得た者たちの総称とされる。薬草、呪術、契約――力の得方は個体によって様々で、体系だった伝承がほとんど残っていないのも、この種族の特徴のひとつである。

姿形は人間とほとんど変わらないため、正体を隠して人間社会に紛れて生きる者も多い。ただし、力の代償として何かを失う――寿命、記憶、あるいは大切な誰か――という話は、複数の記録に共通して見られる。

血族で群れることは少なく、多くは師弟関係、あるいは固い絆で結ばれた少数の仲間内で生きるとされる。


「元、人間なんだ……そういえば、忘れられた森に魔女の薬屋があるって父さんが言っていたような……」


 万が一、サンが大きな病気になった時に買いに行こう。ルーナーは、狼男や魔女が真面目に働いている現実から目を逸らす。


(それにしても、吸血鬼か……)


 吸血鬼。血を糧として生きる種族。不老不死に近い性質を持ち、老いによって死ぬことはないが、太陽の光を浴びることで、体組織が急速に崩壊し、死に至る。この弱点ゆえに、生涯を夜に限定して生きることを強いられる。

かつては容姿の美しさを武器に、人間社会に紛れて生きる個体も多かったとされるが、血を求める性質が人間に知られて以降、迫害の対象となり、その数を大きく減らした。

群れを作らず、血族単位で静かに暮らすことを好む種族だったため、迫害による被害からの回復も遅く、現在では絶滅に近い状態にあると考えられている。


「また、血を飲まれた人間の中で、稀に吸血鬼に適合するものがいる」


 そう、吸血鬼なんて、なるものではない。ルーナーは、ゆっくりと本を閉じた。



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