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第6話 異世界パーティを教えてくれ

 VTuberと書かれた項目を押すと、人の顔が並んだ。正確には、人に似た者たちである。獣の耳を持つ者。頭に角のある者。鎧を着た者。空中へ魔法陣を浮かべる者。


 絵のように整った姿が口を動かし、笑い、見ている側へ話しかけていた。幻術なのか、遠隔会話用の魔道具なのか。三森には判断がつかなかった。


 ただ、画面の向こうに意思を持つ者がいる。大勢の前で話している。そこだけは確かだった。


 どの顔の下にも、赤い印と数字がついていた。四千。一万二千。三百。時々、数字が音もなく増える。


「デミタス。ここに兵の数が書かれている」


「兵、でございますか」


「一万二千だ。この者は、それだけの手勢を従えて何かを待っておる」


 デミタスは湯呑みを置き、画面を上から下まで一度だけ見た。


「今この者の話を聞いている人数、という意味ではございませんか」


「見ているだけの者を一万二千も集めて、何をさせる」


「さて。それを見に来られたのでは」


 三森は数字の並びを送り続けた。四桁が並ぶ中に、時折ふた桁が混じる。同じ場所に立っているのに、集まる者の数は千倍も違った。


 検索候補に「異世界パーティ」という言葉が現れる。勇者、聖女、魔術師、斥候。その四人で動く一団らしい。


 この世界にも、勇者がいる。


 公式の紹介文には、よいことしか書かれていなかった。他所の迷宮の力量は、入口の看板では測れない。酒場で酔った冒険者から聞き出すものだ。


 三森は使い慣れた掲示板を開いた。


【初心者】異世界パーティ系VTuberのおすすめ


1: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:02:11.38 ID:7hK2wq0Fe

異世界パーティを名乗る者のうち、最も警戒すべき勇者は誰だ。


2: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:06:40.02 ID:q4Vd8sJ1n

一人ずつ見ても仕方ない。四人揃った時に何が起きるかを見る箱だ。


3: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:07:58.31 ID:Z2cf7Nu5k

その「四人だからいい」で毎回ごまかしてるだけだろ。

勇者は進行を外す。時間配分も守れない。周年の枠を三十分押した件、ここでは誰も触れないよな。


4: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:11:14.60 ID:q4Vd8sJ1n

>3

押したのは事実だ。あれは擁護しない。


5: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:11:52.33 ID:b9Xr3mT6p

古参があっさり認めるから荒れない板


6: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:15:47.05 ID:7hK2wq0Fe

進行の乱れは指揮の質に関わる。その回の詳細を知りたい。

また、彼女らは常にその姿でいるのか。勇者の武具は実物か。


7: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:16:20.77 ID:q4Vd8sJ1n

中の人の話は他所でやってくれ。ここは画面に出てる分だけの板だ。


8: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:19:05.43 ID:7hK2wq0Fe

承知した。他者の私領へ踏み込むつもりはない。


9: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:20:31.92 ID:5wJp1eR8d

先月から見始めた者ですが、言い方が独特なだけで、ちゃんと分かってる人ですね。


 三森は自己紹介の切り抜きを開いた。先頭に立つ勇者は、剣を下げた軽装だった。鞘は腰よりやや後ろにある。抜くたび肘が壁へ当たる高さだ。それでも柄へ手を掛ける仕草に迷いはない。


 聖女の法衣は白で、裾にも袖にも守りの印がなかった。あの生地では矢の一本も止まらない。魔術師の杖は先端の飾りばかりが凝っている。触媒を収める窪みがどこにもない。


 四人目の斥候だけは、話しながら常に半歩だけ体の向きを変えていた。逃げ道を切らさない立ち方である。


「装備は飾りだが、足の運びは本物だな」


 現代の町を歩けば、必ず振り返られる格好だ。だが異世界から来た者なら、おかしくはない。三森自身がそうである。画面の姿を偽物だと疑う理由はなかった。


 むしろ気になるのは、あれだけの武装で人前へ出て誰にも咎められていないことだった。この国は来訪者へ寛容らしい。


 三森は紙を引き寄せ、勇者の剣を書き写した。刃渡り。鍔の形。柄の巻き方。二度巻き戻して切り返しの拍を数える。片手で扱える重量の上限を割り出していく。


「デミタス。この反りは、どこの鍛冶の癖に見える」


「私は武具に明るくございません」


「山向こうの系統だ。刃元を厚く残し、先端だけ急に細くする。あれは湿地で使う者の打ち方だな」


 湯呑みが空になっても、三森は目盛りを当てる手を止めなかった。産地は、あと数回見れば絞れそうだ。


 会う日までに同じ物を用意できれば、手土産になる。


10: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:26:09.18 ID:Z2cf7Nu5k

おすすめだけ見て決めるな。機材が落ちて三十分なにも進まなかった回がある。


11: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:31:37.09 ID:7hK2wq0Fe

失敗の記録まで公開されているのか。貴重な情報だ。


12: 名無しさん@おーぷん 2026/01/08(木) 14:32:15.83 ID:Z2cf7Nu5k

そういう使い方すんな。


 指摘は無視した。成功した姿だけを並べても、追い詰められた時に何をするかは分からない。悪意が混じっていようと、記録は記録である。


 剣の紙を脇へ置き、新しい一枚へ四つの名を書いた。それぞれの下に空欄を作る。役割。実績。崩れた時の動き。


 前世で他所の迷宮を測る時も、同じ表から始めた。あの頃は間者を三人使い、報告が揃うまで半年かかっている。


「敵の内情が、座ったまま集まるのか」


「便利な時代でございますな」


「便利すぎて、罠を疑いたくなる」


 それでも三森は表の一行目へ、勇者、と書いた。


「まず、敵性勢力の編成を把握する」


「では、茶を新しくしておきましょう」


 空の湯呑みを下げながら、デミタスは画面の四人を一度だけ見た。


 長くなると踏んだらしい。

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