第41話 小さな主催に大手は来るか
送信から二時間とたたずに、デミタスの端末が鳴った。
「マスター。一通、お返事が届いております」
椅子の脚が床を鳴らした。
「読め」
「配線ミナト様。冒頭は、ぜひ参加したいです」
「承諾である! 最初の一人を得たぞ。直ちに祭典の日を決めよ」
「その下に、確認したいことが十二個ございます」
デミタスが画面を向けた。本番前に入力情報と遅延を試したい。自分のチャンネルから何が取得され、アバターへ何が反映されるのか知りたい。
丁寧な文面のまま、要求は一つずつ具体的だった。
「問いにはラプラスが答える。ゆえに確定であろう」
『当然だ。取得入力はチャンネル識別子、公開登録者規模、配信開始状態、有効同時接続の段階値――』
「ラプっち、それ今全部言うとメール三通分になるんで」
ノーラが空中の目玉を横へ押しやった。返信管理表の一番上へ黄色い印を付ける。
「参加したい、まではオッケーっす。でも確認したいことがあるうちは、まだ確定じゃない」
「来ると書いてあるではないか」
「来る条件を聞かれてるんすよ。返すのは明日、人間が読める長さにしてから」
三森にとって、招待状は門を開く許可証だった。来ると言われれば、あとは門前で待てばよい。
現代では、門の手前にまだ何枚も扉があるらしい。
その一時間後、夜帳ヨルカが意味深な投稿をした。
夜帳ヨルカ @YorutobariYoruka ・ 6月19日
怖い場所から、正式な招待状をいただきました。
まだお返事の前なので、詳しいことは秘密です。
でも、逃げずに考えるところを見てくれていたのは嬉しい。
続けて鉄砦ガンジも投稿する。
鉄砦ガンジ @TessaiGanji ・ 6月19日
数字の上での強さが、狭い通路でも強さになるか試さぬか――との挑戦状が届いた!
差出人は伏せる! 返事もまだだ!
だが、壁は厚いほど燃える!
二人とも迷宮ミモリの名前は書いていない。書いていないが、伏せるには遅かった。
【一万人企画】迷宮ミモリから招待状が来たらしい
1: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:02:47.19 ID:Pwf8Ag8Le
夜帳ヨルカ「怖い場所から正式な招待状」
鉄砦ガンジ「数字上の強さと狭い通路の相性を試せとの挑戦状」
配線ミナトは今日の夕方「入って確かめないかというメールが来た」
三人とも差出人を伏せてるが、迷宮ミモリが複数人コラボやるだろ
2: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:03:02.66 ID:Wra8Ju1Wi
勇者来る?
3: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:03:10.24 ID:Qlf5Yh8Ry
あの技術で個人勢三人はもったいないだろ
大手箱から誰か引っ張ってこいよ
4: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:09:55.83 ID:Qku3Tz3Zh
ミナト1.8万
ヨルカ1.6万
ガンジ2.1万
ミモリ1.5万
見事に近いところで固めてる
5: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:10:31.07 ID:Mxz3Gq7Lx
初主催だから、断られにくい相手を選んだようにも見えるな
6: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:11:04.72 ID:Pgk3Pt9Ap
それ、規模が小さければ雑に扱っていいって前提になってないか
7: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:11:12.38 ID:Mxz3Gq7Lx
雑とは言ってない
企業勢より確認する相手が少ないのは事実だろ
8: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:18:40.95 ID:Aaz4Pi3Wt
個人でも立ち絵、音声、表示名を使うなら許諾は要る
会社を通さない分、窓口が短いだけだ
初回から企業五社と日程を合わせて事故るより堅実だろ
9: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:19:02.51 ID:Wra8Ju1Wi
正論で勇者の可能性を消すな
10: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:19:33.16 ID:Aaz4Pi3Wt
勇者は一人呼んで済む相手じゃない
四人組で企業所属だぞ
11: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:19:38.80 ID:Wra8Ju1Wi
四人とも来ればいい
12: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:19:44.27 ID:Ulz1Vd6Zw
初主催を殺す気か
三森はスレッドを上から順に読み、途中で指を止めた。
「大手が来ぬから価値がない、と書いてある」
「そう書く人は出るっすね」
「あの五人は、我が選んだのだぞ」
『招待理由は個別に記述済みだ。公開されていないだけで、存在しないわけではない』
「見せてやりたい」
「絶対ダメ。返事の前に中身を出したら、断りにくくさせる圧になるんで」
三森は端末を置いた。勇者が他人の主催へ客として出た配信を思い出す。あの時も、告知が出るまで参加者の名は伏せられていた。
13: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:33:29.61 ID:Qlf5Yh8Ry
そもそも大手に声をかけて断られただけかもしれないだろ
断られた話は誰も投稿しないからな
14: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:34:15.08 ID:Qku3Tz3Zh
呼べないことと、今は呼ばない判断は両立する
どちらにしても、受けると決めた人はまだゼロだ
15: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:47:12.44 ID:Loz5Lc3Dh
で、ゴリ子は出るのか
16: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:47:51.90 ID:Pwf8Ag8Le
ゴリ子は配信中に公式HPへログインしてる時だけ参加状態だぞ
運営が出場予定を組めるキャラじゃない
17: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 21:48:03.55 ID:Loz5Lc3Dh
じゃあボス不在で終わる可能性あるじゃん
ゴリ子のいない迷宮ミモリの大会に何の価値が
18: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 22:01:37.29 ID:Pgk3Pt9Ap
そこを含めて成立させるのが主催の仕事だろ
ゴリ子頼みなら失敗だ
19: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 22:02:19.86 ID:Qlf5Yh8Ry
守護神は来ない、大手も来ない
残るのは同じ規模の五人が仲良く迷路を歩く配信
20: 名無しさん@おーぷん 2026/06/19(金) 22:09:44.30 ID:Qku3Tz3Zh
小さい主催が、小さいまま一回目を完走できるか
今はそれで十分見たい
予想が参加者の名前へ届き始めた頃、ノーラが公式アカウントを開いた。
迷宮ミモリ @MeikyuMimori ・ 6月19日
複数配信者参加型の迷宮企画は、現在準備中である。
現時点で参加者は確定しておらぬ。
先方への問い合わせは控えるように。
予想だけで凸るのマジでやめてください。
「最後、また漏れておるぞ」
「こういうのは漏らした方が効くんすよ」
ノーラは通知を閉じた。
「これで、勝手に相手へ聞きに行く人は減るっしょ」
「我が勇者を招かなかったと、誤解されておる」
「招いてないじゃん」
「今回は、だ。永遠にではない」
「『勇者は今回呼んでないだけ』って公式で補足したら、勇者さんのとこへ人が行くんで絶対ダメ」
三森は口を閉じた。
デミタスが返信管理表を開く。丸が一つ、空欄が四つ並んでいた。
「本日届きましたのは、一通でございます」
「分かっておる」
端末を伏せ、しばらくして、また表を向ける。
「……通知とは、鳴らぬものだな」
シルカは画面の隅に、輪郭だけの五体を横へ並べていた。名前の欄はどれも空白のままだ。
「埋まったら描く」
「埋まる前提で描いておけ」
「それ、断られたとき悲しい」
ミラが湯呑みを置いて下がっても、三森は四つの空欄から目を離さなかった。
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迷宮運営記録
- 配信回:非配信回(直近:第67回)
- 次回配信:2026年6月25日(木)20:00
- チャンネル登録者:15,842人(+646人)




