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第11話 新人VTuberの迷宮相談

 投稿する前に、ノーラは文章を二度書き直させた。戦力も征討も隷属も、すべて消えた。残ったのは短い三行である。


【個人勢】本物の迷宮を配信画面に作りたい


1: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:04:12.38 ID:t3Qm9xB0v

新人VTuberとして活動を始めたい。

女性型のガワを用い、いずれ本物の迷宮を配信画面内へ造成する予定だ。

必要な機材と人員を教えてほしい。


2: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:05:48.71 ID:k8Ls2fH4w

本物の迷宮とは。


3: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:09:17.46 ID:6dNr0aY7j

全部一人でやろうとして半年溶かした人間が通ります。

機材の前に一つだけ。それ、何人でやるつもり?


4: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:10:02.29 ID:Wp5jz1C3q

壮大な話は後。予算と今のPC。上限を先に決めない奴は必ず全部盛りにして詰む。


 最初の紙へ、三森は「質問を分割する」と書いた。それから手元のパソコンを調べる。型番を探すだけで手間取った。結局、本体の裏に貼られた表示をノーラが読み上げた。


5: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:14:35.84 ID:t3Qm9xB0v

人員は眷属へ分担させる。

絵を描ける者へガワを作らせ、観測に長けた悪魔へ我の動きを写させればよいか。


6: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:18:41.95 ID:6dNr0aY7j

設定相談か実企画かはどっちでもいい。作業は消えないから。

描く、動くように分ける、機材と配信ソフトを回す。この三つは別物だ。

おれは全部やれると思って、絵だけ上手くて配信が止まる新人になった。


7: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:22:50.31 ID:0uKb4tG9m

この口調、前に異世界パーティで最も警戒すべき勇者を聞いてた人じゃない?


8: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:23:11.40 ID:k8Ls2fH4w

推しに会うためVTuberになるタイプの新人か。


 三森は七番を無視した。別の板で発言を覚えられているとは思わなかった。


 八番には反論を書きかけ、消す。事実ではある。ただし掲示板で認める必要はない。


 残ったのは四番だった。資産を管理するデミタスへ振り返る。


「どの程度まで使える」


「生活を崩さぬ範囲でしたら、初期の機材を揃える余裕はございます。ただし、迷宮全部をまとめて専門の方へ頼む余裕はございません」


「我が迷宮を安く見積もるな」


「価値ではなく、支出のお話です」


 デミタスは通帳の残高を示した。隣へ、この家で一月を過ごす額を並べる。


 米と灯り、水と暖。売る物のない者が、毎月これだけを差し出し続ける。


「税を納める側か」


「納める先が、生活そのものでございます」


 三森は数字を上から順に指で追った。額そのものは足りている。


 ただし、実を結ぶ保証はない。引き出した分だけ、田舎で静かに暮らす土台が削れていく。


 前世の造成では、掘れば掘るだけ迷宮が広がった。侵入者の装備も、倒した後は素材になる。


 ここでは、掘るたびに何かが減る。


「戻ってくる分はないのか」


「見てくださる方が増えれば、いずれは。ただし、いずれでございます」


 ノーラは自分の紙を二列に割った。


 左の列は、調べる。買う。繋ぐ。設定を直す。


 右の列は、絵を描く。モデルを組む。動きを合わせ込む。


「左は全部あーしで回せます。右はガチで無理っす」


「お前は器用ではないか」


「器用と専門は別なんで。障子は張れますけど、掛け軸は描けないっす」


 盆を運んできたミラが、二列の紙を横から覗いた。


「一人で全部やろうとして、鍋を焦がさない者はいないよ」


「我は焦がさぬ」


「昨日、湯を沸かしたまま忘れてたろう」


9: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:31:44.17 ID:t3Qm9xB0v

予算に上限を設ける。

まず女性型ガワと通常の配信を完成させ、迷宮は後から拡張する。

絵を作る者と、観測と演算を担う者は分けて探す。


10: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:32:50.64 ID:6dNr0aY7j

それでいい。城から建てるな。最初は一部屋で足りる。


11: 名無しさん@おーぷん 2026/01/12(月) 15:38:14.76 ID:0uKb4tG9m

デビューしたら見に行くわ。観測悪魔がちゃんと動くか気になる。


 三森は必要なものを一枚へまとめた。機材は買えばよい。厄介なのは人である。


「観測と演算に長け、未知の道具を恐れず、複数の術式を同時に扱える眷属か」


「だいぶ条件絞れましたね。てか、ほぼ答え出てません?」


 ノーラが契約記録を運んでくる。前世の眷属が、種族と職掌ごとに並んだ帳面である。頁をめくるたび、契約印が一つずつ薄く熱を持った。


 絵画と細工の欄には、候補が何人かいた。観測と演算の欄は事情が違う。能力の高い個体ほど、扱いに条件がついていた。


「深淵観測種のガズネ。全階層の同時把握が可能だ」


「いいじゃないですか。何がダメなんです」


「問いへ答える前に、必ず問うた者の死に方を告げる」


 ノーラが帳面から手を離した。配信のたび、視聴者の最期が順に読み上げられる。三森もその画面を想像してみた。


 数字は伸びそうだが、伸び方が違う。


 その下にも候補は並んでいる。契約の言葉尻を必ず取る者。報酬に生き物を要求する者。招けば、近隣の家畜が三日鳴きやまない者。


 前世なら、地下の一室へ閉じ込めて仕事だけさせればよかった。


 この家には地下がない。


 指を下ろすたび、候補が消えていく。欄の終わりまで来て、三森は最初へ戻ろうとした。その手前で、小さな契約印が明滅した。


『ようやく我の価値に気づいたか!』


 甲高い声とともに、目玉のような幼体が記録面へ浮かび上がる。翼は短く、角も演算環も育ちきっていない。


『その要件、我が満たす! 名を呼べ!』


 三森は、そこに記された名前を見て眉を寄せた。

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