8.謁見
新居に移って2日。
早くも王城から召喚状が届いた。
生誕の儀の件だろう。
「国王陛下。召喚により第5王子ラート・ディザスティ参上致しました」
「うむ、楽にせよ」
謁見の間にて久しぶりに陛下と向き合う。
親子とはいえお父様は国王。お忙しい身だ。
言葉を交わしたのだって年に数えるほどしかない。
「男子3日会わなければ刮目して見ろというが、まさにその通りだな」
「……」
「ラートよ。先に確認だがお前は勇者や賢者ではないのだな?」
「はい。勇者にあるという印はこの身に付いていませんし賢者が授かるという魔導書もありません」
昨日のうちに改めて勇者伝説について確認しておいたんだけど、勇者、賢者、聖女それぞれにそれと分かるものがあるそうだ。
勇者は胸に肉体を強化する魔法の印が刻まれ、賢者には特別な魔導書を呼び出せるようになり、聖女は天に祈ることで珍しい光の魔法を扱えるらしい。
ちなみに僕は光の魔法を扱えない。いまいち魔力を光に変換するというのが分からないのだ。なので明かりが欲しい場合は火の魔法を使う事になる。
「昨日、教会から抗議文が届いた。
『聖女は教会に預けよ。さすれば生誕の儀での愚息の行いは特別に不問に処す』とな。
即刻『愚息などと呼ばれる者に心当たりはない』と言って蹴り飛ばしてやったがな」
はっはっはと豪快に笑う陛下。
「最近の教会、正確には神聖教会の言動は目に余っていてな。
どこかでガツンと掣肘を加えようと思っていたのだ。
しかし教会に味方するものも多い。
私であっても勝手は出来なかった所にこれだ。
だからあまり大きな声では言えんが『よくやった!』『実に痛快であった』ぞ」
大きな声で言えないと言いつつ謁見の間に響き渡っている。
どうやら相当鬱憤が溜まっていたようだ。
「それでだな。今日わざわざ呼び出したのは他でもない。
生誕祝いも兼ねて何か褒美を与えようと思うのだが、お前が喜びそうなものが思い浮かばなくて直接聞こうと思ったのだ。何が良い?
あ、先に言っておくが聖女を許婚にしたいというのはダメだぞ」
「いえそんなことは望みません」
聖女に選ばれた彼女はただでさえ大変な責務を負わされたのだから、せめて結婚相手くらいは好きに選ばせてあげたいと思う。
いやでも侯爵家の長女だって話だから聖女関係なく難しいかもしれないな。
そこは彼女の家族が考える話か。
で、僕の欲しいもの?
将来の夢を考えれば足りないもの欲しいものは幾らでもあるのだけど、その中で自力で手に入れるのが難しく、ここで陛下におねだりしても問題ないものは……あ。
「それでしたら陛下。
少人数で構いませんので私直属の騎士団が欲しいです」
「ふむ、騎士団か。
元々護衛の騎士は付ける予定はあったのだが。
よし、では予定していた倍の人数にしてやろう」
「ありがとうございます」
これで今回の謁見は終わり、かと思ったのだけど陛下はまだ何かを考えながらじっと僕を見ている。
なんだろう。
「あいつは魔導士にしてはどうかと言っておったが、この胆力、騎士団長向きかもしれんな」
「??」
「いや気にするな。子どもの未来を案ずるのは親の宿命というものだ」
「はぁ」
謎の呟きを聞きながら謁見の間を出た僕はその足で応接室の一つに向かった。
そこで待っていたのはお母様。
「こんにちはお母様。そのお美しい姿を見れて嬉しいです」
「あらお上手だこと。……ふぅ」
「どうされました?」
「いいえ。子供の成長は早いなと思ってしまって。
この分ならあっという間に一人立ちしてしまうのでしょうね」
僕の顔を見た途端、ため息をつくお母様。
王城を出てしまったからね。今後は会う機会が減ってしまう事だろう。
「大丈夫ですお母様。離れていてもずっとお母様の幸せを祈っていますから」
「それは親が子に向かって言う言葉よ。
一体誰が教育したのかしら……まぁいいわ。
それより陛下には何をおねだりしたの?」
「自分の騎士団を下さいとお願いしたら通常の倍の人員を配置してくださると言われました」
「そう」
お母様は当然今日僕が呼ばれた理由を知っていたようだ。
そして僕の答えを聞いたお母様は明らかに険しい表情をしながら僕の肩に手を置いた。
「よく聞きなさい。
騎士団の力を自分の力だと考えて思い上がってはダメよ。
また他国への侵略は勿論、軍事力を背景に他者を威圧してもダメ。
それは一歩間違えば王子であっても重罪と判断されて最悪死刑にだってなりうるわ」
「はい、肝に銘じます」
もちろんそんなことをする気はない。
僕が騎士団を求めたのはあくまで災害救助における人手だ。
人を傷つける目的で運用することはない。
「それと人数が増えたという事は管理が難しくなるという事でもあります。
騎士の中には気性の荒い人も居ます。
その人達をどう御していくか、私達だけじゃなく他の貴族たちも注目することになるわ」
王族として相応しいかどうかってことか。
僕が王位を継ぐことはまず無いだろうけど、王族と懇意にしておけば良い事は多くなる可能性が高い。
でも僕が役立たずの馬鹿だったら、宝船と思って乗ったら泥船で一緒に沈む未来もありえる。
だから今のうちから見定めておこうって話らしい。
「まぁそれは追々考えて行くとして。ね」
先ほどまでの緊迫した空気から打って変わってクスリと笑う。
どうやら王族としての話はここまでで、あとは家族の話のようだ。
「ラートはフォーリング嬢に思う所は本当にないのかしら。
あんなおとぎ話に出てくる勇者のように助けておいて、はいさようならって言うのはどうかと思うのよ。
フォーリング侯爵家からはまだ何も言ってきてないけれど私だったら10年後の成人まであなたの隣は空けておいて欲しいって申し出る所よ」
そう言うお母様の目はキラキラしていた。
以前恋愛ものの物語とか読み聞かせてくれたことがあるし、そういうのが好きなのかもしれない。
「お母様。僕は勇者でも賢者でもありませんよ」
「そうね。でも第4の可能性は残ってるんじゃなくて?」
「第4?」
「そう、勇者パーティは勇者と賢者と聖女、そしてあと1人を加えた4人パーティなのよ」
勇者パーティは4人。確かにどの物語にもそう記されていた。
でも王様に謁見するシーンでも魔王と戦うシーンでも出てくるのは勇者たち3人だけ。
あと1人はいったいどこで何をやっているのか。
具体的なことは出てこない。
「その第4の人物というのは何者なのですか?」
「分からないのよ。どの文献にも詳細は書かれていなくて。
でもだからこそラートにも可能性があると思うのよ」
あ、もしかしてそれが狙いなのかな。
敢えて記録に残さない事で、誰でも『自分も勇者パーティに入れるかも』と思わせる。
志がある人ならその4人目に入ろう、勇者の目にとまって仲間に入れて貰おうと努力する。
結果、他人任せにならずに子供達に夢と希望を持たせることになる。
ただ僕にその気はない。
「お母様。僕は勇者パーティに入りたいとは思っていません。
魔王の脅威から国を護るのが王族としての僕の役目ですから。
出来れば魔王の討伐だって勇者に頼らずとも騎士団で達成するのが理想だと思うのです」
たった4人に世界の命運を託すのは国を預かる者の考えることじゃない。
それに騎士団で全てを解決出来れば聖女のあの子も危険な目に遭わなくて済むだろうし。
僕は僕なりの方法で魔王と対峙しようと思う。




