6.【閑話】聖女の境遇
<ティサ視点>
私の名はティサ・フォーリング。
フォーリング侯爵家の長女です。
多分どこにでもいる貴族令嬢だと思います。
周囲からは天才だ、神童だ、我が家の天使だと持て囃されてますが身内贔屓が過ぎます。
私の人生は困ったことに5歳の生誕の儀を境に大きく変わってしまいました。
それと言うのも儀式の最中、私は神様から聖女に認定されてしまったからです。
直後教皇の野心に満ちた目と手が私に狙いを定めました。
『あのまま教会の管理下に置かれる可能性は十分あったのよ』
とは母の言です。
もしそうなっていたら聖女教育と称して洗脳に近い躾けが行われていた可能性もあったそうです。
そうならなくても教会の威信を高めるための道具にされていただろうと。
ですがその魔の手は私に届くことはありませんでした。
『待った!』
鋭い声と共にその手を払い除けたのは一緒に儀式に臨んでいたラート第5王子。
同い年とは思えないその堂々とした後姿に心から安堵を覚えました。
王子は教皇に賭けを持ち掛け、何をどうやったのか見事教皇を打ち負かしてしまいました。
後日聞いた話では教皇はその時に打った頭の後遺症と『神に背いた男』というレッテルにより失脚したそうです。
さらに儀式の最中、怪しい香を焚いていた事も発覚しどこかに幽閉されたという噂も聞きました。
いえ教皇はどうでも良いです。
とにかく聖女になってしまった私は控室に戻ってすぐに人生が大きく変わった事を理解しました。
それまで母に付き添って行ったお茶会などで顔見知り程度に知っていた同年代の子供たちが我先にと群がって来たのです。
彼ら彼女らは教皇ほど醜悪ではありませんが貴族特有の嗅覚で『聖女とお近づきになっておくと得だ』と嗅ぎ取ったのでしょうね。
その人達をなんとか押し留めつつ王子はと辺りを見渡せば早々に帰ろうとしていました。
(王子は聖女に興味ないの?)
先ほども私に『大変だね』と声を掛けられましたし、あまり聖女に価値を感じていないのかもしれません。
それから間を置かずに大人たちが講堂から出てきたのでその場はお開きに。
聖女についての王家との話し合いはまた後日となりました。
家に帰ったらまず部屋着に着替えてから居間へ。
これから家族会議です。
両親の表情は、決して明るいとは言えません。
「最悪の事態は免れたがこれからが大変だ」
「まさか私達の娘が聖女に選ばれるなんて」
最悪の事態と言うのが教会に軟禁されることです。
ただそれを免れたといっても10数年後に待ち受ける魔王降臨とその討伐に私が向かう事には変わりありません。
きっと何度も死を覚悟するほどの絶望的な旅になるのでしょう。
本当にどうして私が選ばれてしまったのか。
神様に恨みごとの1つも言っても許されると思います。
唯一の救いは、私の事を思って心を痛めてくれている両親の存在です。
本来なら家族の中から聖女が誕生するのはとても名誉なことでお祭り騒ぎになってもおかしくありませんでした。
ガチャッ
「やあティサ。聞いたよ聖女に選ばれたんだって。なんてめでたいんだ!
知らせを聞いて職場から飛んで帰ってきてしまったよハッハッハ~」
「めでたいのはお前の頭だ、こんのバカ息子が!!」
「ごふぉっ」
ノックもせずに飛び込んで来たお兄様がお父様の滑り込みアッパーで吹き飛びました。
伸びたお兄様がメイドたちによって引き摺られて退場していくのを無言で見送りました。
ふぅ。
まぁ避けられない未来に絶望しても仕方ありません。
「それにしても第5王子には助けられたな」
「えぇ本当に。あの場で私達はおいそれと動けませんでしたから」
その理由は教会の権威を恐れての事。
侯爵家とはいえ教会と敵対すればかなり厳しい未来が待っているのは想像できます。
あの場で動けたのは国王陛下と公爵家などごく僅かだったでしょう。
それでも教会との関係悪化を恐れて動かなかった可能性もあります。
唯一、まだ貴族社会のしがらみを理解出来ず正義感だけで動いても許されたのが子供達。とりわけ王子だったと言う訳です。
そう考えると王子の行動は本当に英断だったと言えるでしょう。
そしてそこから考えられる今後の展開は。
「私は第5王子と婚約することになるのでしょうか」
「いや、残念ながらそうはならないだろう」
「そうね。仮にティサが望んでも今は無理よ」
私の予想は即座に否定されてしまった。
教会から距離を置いたので反対に王家に擦り寄るというのはありそうだと思ったのですが。
「その理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「一言で言えば教会の手をはね除けたのが王族だからだ。
これでもし聖女を王子の許婚にしたら、方々から王家も聖女を権力を振るうための道具としか見ていないと言われてしまうだろう。
そうなれば教会に恩を売ろうとする者たちが『聖女はやはり教会で保護すべき』と主張し出すのは目に見えている」
「それと『勇者と魔王』の物語は覚えているかしら。
第1章から第4章まで、あれは異なる勇者の実話を元に描かれているのだけど、その内の3人の聖女は勇者と結婚しているの。残り1人も賢者と。
やはり共に死地を潜り抜けた仲間とは友情や愛情が芽生えやすいのでしょうね。
だから少なくとも勇者が見つかるまでは婚約は控えた方が良いわ」
『勇者と魔王』はこの世界で一番有名なおとぎ話。
きっと私の事も誰かが面白おかしく物語にしてしまうのでしょう。
でも勇者かぁ。
「王子が勇者だったら良かったのに」
「確かに王子の振る舞いは勇者的ではあったが、勇者もまた聖女同様に一目で分かるというし、何より王子本人が名乗り出なかった所を見ると違うのだろうな」
そう上手くは行かないですよね。
「あとは聖女として今後何をしていけばよいのでしょうか」
「勇者パーティでは主に魔法による支援がメインになるはず。
だから今まで以上に魔力操作と治癒魔法、防御魔法の練習をしていくことになるだろうね」
その言葉の通り翌日から魔法の鍛錬の割合が多くなった。
あとお茶会の申し込みが山のように来ているようですがまぁ下心満載なのでほぼ全てお断りしています。
それと第5王子の噂を聞いたのですが、最近は騎士団ごっこに夢中らしいです。
普段は利発な分、子供らしい姿に周囲の大人は安堵しているとか。
なんとなくですが、本作は本編数話+他者視点の構成で進みそうです。
本編の進みが遅かったら他者視点を減らします。




