5.聖女の保護
連載開始すぐなのに申し訳ないのですが、
近く1月くらいお休みを頂くことになるかもしれません。
突然の聖女誕生に教会内は大騒ぎになった。
このままでは僕達の生誕の儀は中止になってしまうのだろうか。それは困る。
なので僕はこの式を取りまとめている目の前のおじさんに提案した。
「あの、先に生誕の儀を終わらせませんか?」
「な、何を呑気な。王子は事の重大さを理解しておられないのか」
「皆さんの反応を見れば多少は想像できます。
ですがそんなに慌てなくても聖女は逃げませんよ。
……あれ、逃げないよね?」
「え、あ、はい」
念のため光が収まりつつある少女に問いかけると頷きが返ってきた。
この様子だと彼女自身、何が起きているのかあまり理解していない様子だ。
僕も聖女についてはおとぎ話で聞いたくらいしか知らない。
たしか神様によって選ばれた存在で、同じように選ばれた勇者や賢者と共に4人で世界を混沌に陥れる魔王を討伐する宿命を背負わされるとかなんとか。
ちなみにここで言う魔王は北の魔族とは無関係だ。
そして彼女が聖女に選ばれたという事は、だ。
(近々魔王が現れるのか。厄介だな)
魔王はいわば生きる災害みたいなものだし、何か良いものを残していくという話も聞かないので早々にお帰り頂きたいものだ。
その魔王フラグが立ったから大人たちは慌てているみたいだけど、今の僕らは式が優先。
僕は率先して立ち上がって子供達全員に後ろ、大人たちの方を見るように指示する。
ほらお膳立ては出来ましたよ。
「ごほん、あー、新たな子供達の誕生に心からの祝福を!」
「「祝福を!」」
大人たちの言葉に僕達もお辞儀をして返す。
よし、これで式は終了だ。あとは退場するだけ。
なんだけど。
僕の頭の中ではまだ警鐘が止まない。
「では聖女の身柄は教会にて預かりましょう」
「待った!」
おじさんから少女に伸ばされた手を弾く。
これだと思った瞬間、身体が動いていた。
おじさんもまさか邪魔されるとは思ってなかったらしく酷く顔を赤くして怒っていた。
「邪魔をするな。何のつもりだ!」
「そちらこそ、何の権限があっての行動ですか。
わが国では教会に聖女を預けなければならないという法はありませんよ」
意識して強い口調で返す。
ついでに声に魔力も乗せてみた。
これで少しは威厳みたいなものが出ただろうか。
ちなみにそういう法があるかどうかは知らない。はったりだ。
「先ほどの光を見たであろう。
あれこそ神のご意思。聖女を教会で育てよという思し召しだ」
「随分な拡大解釈ですね。あの光はあくまで聖女であることの証明。
神は教会に預けろなんて一言も言ってないじゃないですか」
「ぐぬぬ」
いや5歳の子供に言われて簡単に口ごもるってどうなんだろう?
教会のトップに立つくらいなんだから頭は回るはずだけど。
それと他の大人たちがまだ動かない。
教会側なのか違うのか立場をはっきりしてほしい。
逆に僕の事も止めないみたいだから好きにやらせてもらおうかな。
「では確かめてみましょうか」
「なんだと?」
「神は彼女を教会に預けろと言っているのかどうか。
もしそうだとしたら神はあなたの行動を止めないでしょう。
そして逆であればあなたは彼女に触れられないはずです」
「ふっ、よかろう。
では私が彼女を捕まえることが出来たら神は私をお認めになったという事だ。
私を止められるのは神のみ。お前はそこで黙ってみているが良い」
僕の提案を聞きおじさんはニヤリと笑い、僕は言われた通りその場から動かない。
このおじさんの意図は明白だ。
神がそう簡単に動くはずもない。だから邪魔者の僕が動かなければ彼を止める人は居ない。
つまりこのおじさんも別に神を信じている訳では無いという事だ。
「さあ聖女よ。私の元に来るがよい」
「ひっ、い、いやっ!」
傍から見ると『ドスケベ変態オヤジに迫られる美少女』の図だ。
少女もそんな醜悪な顔で近づいて来る変態を見て後退っている。
他の大人たちは、やっぱり動かないな。どうなってるんだ?
まぁいい。
僕は黙っていろと言われただけだ。
「さぁさぁ、せいじょオグッ!?」
少女に手を伸ばしたまま固まる変態おじさん。
ビクビクと数回痙攣したかと思えばそのままドスンと後ろに倒れた。
頭を打ってそうだけどまぁいいや。
「どうやら神の御意思は示されたようです。
さぁみんな。退場しよう」
「「……」」
僕の言葉に従って子供達が退場していく。
その最後尾に僕と聖女の少女が続く。
と、少女がそっと僕に耳打ちしてきた。
「先ほどはありがとうございました。私怖くて動けなくなってしまって」
「それは仕方ないよ。あんなのに迫られたら僕だって嫌だ。
それにしても聖女だなんて大変だね」
「たいへん?」
なぜか変なものを見る目で見られた。
間違ったことは言ってない筈なんだけど。
「それより先ほど教皇が倒れたのは王子がやったのですよね」
「いやいやあれは神様の御意思だよ」
そう言う事にさせてほしい。
実際には魔力操作の応用で魔力を針のようにして変態おじさんの神経とか魔力回路とかにプスプスっと刺して麻痺させたんだ。
もちろん相手の魔力の方が強かったら簡単にレジストされた筈。
それが出来なかったということは変態おじさんの魔力操作がお粗末だったということ。
あの歳になってもあの程度ってどれだけ魔力操作の練習をサボってたんだろう。
僕はああはならないようにしよう。
それより。
「全員退場!」
会場の外に出る前に会場内に一声かける。
すると大人たちがようやく動き出した。
まるで傀儡のよう、あ、お父様とお母様は楽しそうに笑っている。
さっきまで動かなかったのはあの茶番を楽しんでいたようだ。
他の大人たちは若干目が虚ろなんだけど大丈夫?
視線を前に戻すと今度は先ほどの少女が他の子供達に囲まれていた。
「フォーリング侯爵令嬢。ぼくと友達になってください!」
「男爵家風情が邪魔よ。ティサ様とは私がお友達になるの!」
「俺は第2騎士団長の息子のガイエス。どうぞお見知りおきを」
まるで息を吹き返した金魚の群れのようにわちゃわちゃと例の少女に集まっている。
なるほど。あの子はティサ・フォーリングと言うらしい。
そんな彼らを横目に僕はセージュの元に向かった。
「ラート様。あれ止めなくて良いのでしょうか」
「大丈夫じゃない? 警鐘は止まってるしもうすぐ大人たちも出て来るし」
「え、警鐘??」
儀式の最中に鳴り始めた警鐘は変態おじさんが倒れた時に止まった。
つまりもう大丈夫だという意味、だと思う。
「それよりちょっと疲れたからもう帰ろう。新居の皆も待ってるだろうし」
「あ、はい。すぐに馬車をご用意しますね」
メイドを伴って早々に控室から出ていく僕を聖女の少女がじっと目で追っていた。




