4.生誕の儀
月日が経つのは早いものでもうすぐ5歳になる。
最近では毎朝のランニングも周囲からちゃんと『走っている』と認識されるくらいのペースで走れるようになり、ついでに専属メイドのセージュも一緒になって走るようになった。
メイド服のまま走るのはどうなんだろうと思わなくもないけど
「ところで、最近ずっとセージュが僕の側にいてくれるけど、ちゃんと休みは取れてる?」
「はい、ご安心ください。適宜休憩は取らせて頂いております」
休憩ではなく休日について聞いたんだけど。
この様子だと全然休みを取ってないっぽい。
セージュはまだ若いのにワーカホリック気味で心配になる。
折を見て1日休みを取るように取り計ろう。
「それよりラート様。来月は遂に生誕の儀ですね!」
生誕の儀。
それは5歳を迎えた子供を祝う行事だ。
なぜ生誕の儀なのに生まれてすぐに行わないかと言えば、乳幼児の死亡率に起因する。
この国、いやこの世界では生まれてから5歳になるまでに病気などで死んでしまう子供があまりにも多い。
もちろん貴族を始め裕福な家の子ならそこまででもないらしいけど、貧しい平民の子供は酷いらしい。
栄養失調によって免疫力が低下しちょっとした風邪や下痢で命を落としてしまう。
衛生面でも決して良くは無いので病気にもなりやすい。
(災害だけじゃなくそう言ったところも改善していきたいな)
病院建設や医療の充実、上下水道の整備、食糧自給率の改善。
やるべきことは沢山あるけれど、それにはお金も労力も沢山必要だ。
だから僕がやるというより国家事業として推し進めていくことになるだろう。
つまりお父様や王太子のお兄様の領分だ。
さて、生誕の儀を迎えると何が変わるかと言えば、一番は城の外に出られるようになることだ。
これまで僕は城の庭や、遠くても騎士団の訓練場までしか外出を許されておらず、城壁の外に出たことはない。
それは生誕の儀が外部へのお披露目を兼ねているから。
一応僕が生まれたことはすぐに城下にも発表されたらしいが、正式には生誕の儀を終えてから王の子供だと認められる。
これで僕も大手を振って城下に出れるし、もっというと住む場所も城の外の屋敷に移る。
「引っ越しの準備は順調?」
「はい、万事滞りなく。既にいつでもラート様を迎える準備は出来ております」
「儀式が終わったらそのまま屋敷に移り住むからね」
5歳で親元を離れるのはどうなんだろうと思うけど(言っても城まですぐなんだけど)、この国の方針で自助独立を促す意味もあるらしい。
屋敷の使用人はセージュを始め、今も僕のお世話をしてくれている人達が何人か付いてきてくれる。
彼女らにとっては王城から王子の屋敷に移るので栄転ではなく左遷に近いのかな。
「セージュ達は僕の屋敷で働くのは嫌じゃない?
今からでも王城勤務に戻すことは可能だと思うよ」
「ご安心ください。
今回屋敷の人員を決めるにあたり希望者を募った結果、あまりにも多かったので熾烈な争奪戦が行われた程なのですよ」
「そうだったの!?」
「城内での王子の人気は非常に高いのです。えっへん」
なぜか自慢げに胸を張るセージュ。
まぁ僕としては本人達が望んで来てくれた方が嬉しいし良い事だ。
そして月が替わって生誕の儀当日。
僕は馬車に乗って初めて城門から外に出て、隣の教会に向かった。
(う~ん近い。折角だからもっと城の外を見たかったのにあっという間だ)
教会の前に馬車が止まり、扉が開かれたのを確認して僕はゆっくりと馬車から降りた。
その瞬間、四方から大量の視線が僕へと向けられた。
僕の姿を一目見ようと集まってきた街の人達だ。
「「……」」
誰も一言も発することなく固唾を飲んで僕の一挙一動を見守っている。
ここで転んだりしたら一生笑いものにされそうだ。
僕は軽くこぶしを握りゆっくりと教会の中へと入った。
『これより生誕の儀を執り行う』
礼拝堂の中から教皇か司教か、まぁ教会のお偉いさんの声が聞こえてくるのを僕達は控室でじっと聞いていた。
僕達。そう、今日の生誕の儀を受けるのは僕だけではない。
同い年の貴族子女も一緒だ。
彼ら彼女らは初めての大舞台にものすごく緊張しているように見える。
傍らに控えるメイドが何とか落ち着かせようと必死だ。
「ラート様は落ち着きすぎです」
「そう? ってセージュ。魔力操作が不安定になってるよ」
「うっ、こんな時も続けるんですか?」
「こんな時だからだよ。
緊急時には今なんて比べ物にならない緊張感の中で活動することになるんだから。
それとほら。あっちにも落ち着いてる子は居るよ」
視線の先では銀髪の少女が優雅に佇み、お付きのメイドも後ろに静かに控えている。
他にも1人2人、呼ばれるその時をじっと待っている子がいる。
きっと躾けの行き届いた上位貴族の子供だろうな。
「皆様、ご整列ください」
係の人の指示があり扉の前に並ぶ。どうやらようやくお偉いさんのお言葉が終わるらしい。
並び順は家の爵位の順だ。
当然僕が先頭。続いて先ほど落ち着いてた子たちが並ぶ。その後ろにざっと30人程。
セージュ達メイドは部屋の隅でお見送りだ。
扉が開く。
同時にえも言えぬ異臭が流れてきた。
大勢の大人たちが付けている香水の臭いなのかそれとも教会特有の臭いなのか。
どちらにしても僕としては悪臭に感じたので魔力の膜で全身を覆ってガードする。
僕の魔力操作はだいぶ上達してきて、こうして物質のように変化させられるようになっていた。
意思一つで形も変わるし遠隔操作も出来るから結構便利だ。
(う~ん、これでもちょっと臭うな)
我慢していることを顔に出さないようにしつつ、会場の中央をゆっくりと歩く。
両側の大人たちの視線に負けずひな壇の教皇(仮)の前に立つ。
「この世界を創りし神々に今日と言う日を無事に迎えられた感謝の祈りを捧げなさい」
その言葉を聞いて僕達は片膝をつき軽く目を閉じながら両手を胸の前で組んで祈る。
……のは良いんだけど、僕の正面には教皇(仮)。神様に祈るんだからどいて欲しい。
祈るべき対象はこのおじさんの後ろに立っている神々の像なのだからはっきり言って邪魔だ。
そう思って僕はそっと魔力がおじさんの横を通り過ごさせて神々の像に流した。
すると。
ゴーン、ゴーン、ゴーン♪
重い鐘のような音が頭の中に響いた。
いったいどこから?
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
続いて今度は警鐘。これも発生源が分からない。
疑問に思ったけど今は儀式の最中だから顔を上げて周囲を見渡すことは出来ない。
じっと我慢。
と思っていたのだけど、脇で見守っている筈の教会の大人たちがざわつき出した。
「まさかこの光は!」
「おお間違いない。これは聖女の祝福だ!!」
ついでに目の前のおじさんが驚きの声を上げる。
そっと後ろを確認すると、僕のすぐ近くに居た少女が白い光を発していた。
聖女……だと……!?(プロットにはそんな単語出てきてないんだがっ!?)




