3.【閑話】メイドは見た
<セージュ視点>
私の名前はセージュ・ナギリア。
ディザスティ王国ナギリア子爵家3女。
去年から王城で働き始め、半年ほど前に第5王子付きのメイドに抜擢されました。
貴族の娘がメイドなんてしてて良いのかと思うかもしれないけど、私の家は名ばかりの貧乏子爵家だし、むしろ王城勤めは名誉なことです。
更に王子付きのメイドともなればメイドの中でもかなり高い地位と言っても過言ではない。
もちろん王子の権威を笠に着て傲慢に振舞ったら首が飛ぶんですけど。
さて、その第5王子ラート様はどのような方かと言えば、年齢で言えばまだ3歳。
(これがもう少し近いお歳だったら将来お手付きからの側室ルートもあったかもですが10歳以上歳が離れているので無理ですね)
こほん。
性格は物静かで柔らかいと言えば良いでしょうか。
上の第4王子がやんちゃな俺様王子なのに対し、ラート様は暴れたりもしないし無茶な命令もしてこない。
むしろ私達メイドがお世話をしたら笑顔でお礼を口にするほどです。
一体誰が教育したのでしょう。
「それね。去年まで居た乳母の影響だと思うわ」
同僚の先輩メイドによるとラート様の乳母がとても穏やかな女性だったらしい。
その乳母が体調を理由に職を辞する時に王子は泣き縋って別れを惜しんでいたというのだから王子も相当懐いていたのだろう。
乳母を失った王子は数日は臥せっていたようだけど、1週間も経たずに立ち直ったそうだ。
すごい。私だったら立ち直るのに1月は掛かってたと思います。
そんな仕えるとしたら理想的な王子が、突然熱を出して倒れました。
王城勤務のお医者様でも原因は不明。
解熱剤も効果なし。
私達メイドが交代で看病することになりましたが、時折うわ言を言う王子の汗を拭う事しかできません。
幼い子供が些細な怪我や病気で命を落とすのは良くある話。
王子もこのまま目を覚まさないのでしょうか。
私達が諦めかけていた3日目。
王子が目を覚ましました。
顔色も良く、熱もいつの間にか引いてるご様子。
私を含めメイド一同心から安堵したのを今でも覚えています。
ただ、話はそこで終わらなかった。
翌日から、いえ、目覚めてからの王子は以前とは少しだけ変わっていた。
優しいお心自体は無くなっていないし、むしろ強まったというか、以前が無地の優しさだとすれば目覚めてからは慈愛と呼びたくなるほど心の籠った優しさになりました。
他にも以前よりも活発に運動されるようになったりお勉強にも身が入っています。
魔法に関しては魔力操作を学んでからというもの、本当に1秒も切らさずに続けようと努力なさっていて王妃様が言っていたように大魔導士になるのも夢ではないかもしれません。
「セージュ。もし僕の魔力操作が疎かになっていたらすぐに指摘してね」
「は、はいっ」
すぐに。いや魔力操作の状態を確認するためには私も魔力をコントロールしていないといけないのですが。
つまり私も王子と一緒に魔力操作の訓練を続けることになりました。
いやこれ結構しんどいんですけど!
幼い王子が頑張っている手前、メイドの私が弱音を吐くことなんて出来ません。
誰かちょっと代わって。
くっ、みんなして目を逸らさなくても。
仕方ありません。これでも子爵家の末席。やってみせようじゃありませんか。
そうして1月、2月。
王子を見ていて凄いなと思うのは飽きて止めるという事が一切ない事。
魔力操作の訓練もそうですが朝のランニングも日々の勉強も、普通なら面白くもないしすぐに止めてしまったり手を抜きそうなものです。
しかし王子は一切変わらず全てに全力です。
「ラート様。ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか」
「うん、なあに?」
こてんと首を傾げながら返事をする仕草。こういうところは歳相応に可愛らしいんですけどね。
「ラート様はどうしてそこまで頑張れるのですか?」
「んっとね」
王子は頬に手を当ててちょっと考えて。
かと思えば先ほどのあどけない表情とは違う研ぎ澄まされた目で私を見返した。
「セージュは将来の目標ってある?
例えば来年にはこうなって居たい。5年後はこういう事を達成したい。みたいな。
もしくは結婚するならどんな人とが良いか、とかかな」
「え、えっとそうですねぇ~」
言われてぱっと思いつくことは……ない。
今の職場に不満はないし、結婚は……どうなんだろう。
両親からは悪い男に捕まらなければ自由にして良いと言われている。
理想を言えば、イケメンで、お金持ちで、侯爵家の跡取りとかだったら最高かな。
「イメージした?
じゃあそれは今のままでも手に入りそう?」
「どうでしょう。難しいんじゃないですかね」
「なら諦めちゃう?」
「それもちょっと……」
「だったら手に入るように頑張らないといけないよね」
「なるほど?」
つまり王子にも手に入れたい何かがあって、その為に毎日頑張ってると。
いやそれって3歳の子供が考えることなの?
これが王族というものなのか。
いや3歳で王族の自覚があったらそれはそれで凄いけど。
などと自問自答してたら気になってしまった。
「ところでラート様の将来の目標ってなんなんですか?」
「う~ん、さっき『ひとつ質問良いですか』って聞かれて答えちゃったから内緒。
というのは冗談で『世界中で災害で命を落とす人をゼロにする』こと」
「それは……」
無理では?
咄嗟に口から出そうになった言葉を慌てて飲み込んだ。
たとえ3歳の子供の戯言だとしても頭ごなしに否定するのは不敬だ。
だけど王子はそれも理解していました。
「もちろんゼロにするのが無理なのは僕でも分かるよ。
僕は神様じゃないからね。
でも出来る限りゼロに近づけたいと思ってる。
その為にやれることは全部やるよ」
その瞳は本気だ。
とても3歳とは思えない本気の覚悟を見た私は自然と膝を突いて頭を下げてしまった。
私の夢はこの方をお側で支えること。それでいい。
その為の努力をこれからしていこう。




