2.小さな一歩から
新連載記念の連日投稿♪(明日まで)
僕は目が覚めた翌日から早速活動を開始することにした。
と言ってもまだ3歳の子供だ。出来ることには限りがある。
今出来ることは、まずは何と言っても体力づくり。
災害救助には強靭な肉体が必要不可欠。
だからまず朝起きて朝食前に1時間のランニングを行う。
「えっほえっほ」
「まぁラート様。お散歩ですか?」
「うん」
ランニングのつもりが周囲からは散歩に見えるらしい。
それも仕方ない。なにせ大人にとって早歩き程度の速度なのだから。
でも焦りはしない。
大切なのは速く走ることでは無く長く走り続けること。
遅くても良い。その代わり膝などに無理な力が掛かっていないか確認しながら一定のペースで走る。
メイドのセージュは水とタオルを持って僕が転ばないかとハラハラしながら近くで見守っている。
仮に転んでも地面は芝なので大きな怪我をすることは無いんだけど。
むしろわざと転んで受け身の練習をすべきかな?
いやセージュに心配かけてまですることでは無いだろう。
ランニングを終えたら軽く汗を拭いて朝食へ。
肉体作りにはタンパク質を、という気もするけど、夢の中で見た常識がこっちでも全部通用するとは限らないし、この国の経済状況までは分からないので無理は言わない。
その代わり残さず綺麗に食べる。
「王子は好き嫌いせずに野菜も食べてご立派です」
「もしかして足りなかったでしょうか」
お世話をしてくれるメイドたちの言葉に『あっ』と思う。
綺麗に食べることは最低限の礼儀だと思ったけど、いやそれは間違ってないけど給仕する側からしたら満腹になったか分からないから困ってしまうのか。
実際の所、量は十分。追加でもう1皿あったら食べ切れなかったかもしれない。
「料理長に伝えて。
味にも量にもとても満足している。これからもよろしくと」
「はい。確かに」
給仕係のメイドに伝えれば彼女も笑顔で頷いてくれる。
でも料理長には今度散歩がてら直接お礼を言いに行こうかな。
食の礼はきちんとしたいし伝言と直接では価値が全然違うだろうし。
朝食を終えたら勉強の時間だ。
椅子に座って今日は簡単な算術と公用語と呼ばれる多くの国で使われている言語の読み書きが中心だ。
僕としてはただ座って教師役の壮年男性の話を聞いていただけなのだけど、なぜか先生が目頭を押さえ始めた。
「う、うぅっ」
「あの、先生? なぜ涙ぐんでるのですか?」
何か泣かせるような事をしてしまっただろうか。
こう文化の違いで彼の尊厳を酷く傷つけるような何かを。
心配顔の僕に気付いて慌てて目じりを拭う先生。
「失礼。王子があまりにもご立派なので感極まってしまいました」
「え、僕は普通に座ってるだけですけど?」
「それです!
普通、王子ほどの年齢の子供はじっと椅子に座ってることなど出来ません。
すぐに集中力が切れて椅子から立ち上がり騒ぎまわるのが普通です。
特に高位貴族の御子息は我々の言葉など聞いてはくれませんから手を焼くものです」
「もしかして、僕は子供らしくない?」
「いえいえっ。王子はとても優秀なお子様です」
もしかしたらあの夢に思考が引っ張られた所為で異端もしくは化け物だと認識されたのではと心配したけど、そこまで重く考える必要は無かったようだ。
そしてこの反応はこの先生だけでは無かった。
他の教科、絵本のようなものでこの国や周辺地域の情報をふんわりと教えてくれる先生も凄く感心した様子をしていた。
まぁ喜ばれてるんだからいっか。
「料理長~。今日もご飯美味しかったです」
「お、王子!? わざわざ調理場まで。
勿体ないお言葉です」
勉強の休憩時間に調理場へ顔を出してみた。
他にも城で働いている人達に挨拶して回ればみんな膝を折る勢いで挨拶を返してくれる。
まぁ幼児とはいっても王子だからね。
ただそれでもちょっと大げさな返礼だけど。
翌日の勉強内容は魔法について。
「魔法を行使するには大きく3つの要素があります。
それが魔力量、魔力操作、魔力変換です」
水に例えると魔力量は水を溜める池のようなもの。魔力操作は水を流す川。魔力変換は水車を回したりすることのようだ。
魔力は水より色々な物に変換できるらしいから応用は無限大だろう。
先生の説明は続く。
「魔力量は基本的に肉体の成長と共に増加します。
魔力操作は鍛錬時間に比例して上達するもので急に上達したりはしません。
魔力変換は変換対象への造詣の理解が必要です。
ではここで王子に問題です。
今後この魔法の授業で主に学ぶのはこの3つのうちどれでしょうか?」
「えっと……」
魔力量は学んで増えるものでは無さそうだから除外して。
魔力変換は魔力そのものではなく変換対象について学ぶ必要があるなら別の授業になる、かな。
つまり魔力操作だろう。
いやここは引っ掛け問題で一番無さそうな魔力量を増やすことかもしれない。
先生も「基本的に」と付け加えた通り、例外はある。それこそ先日の僕の熱病がそうだ。
それと王族に必須の能力を加味すると……
「魔力量ですか? 毒薬を飲んで瀕死の状態になることで毒に耐性を付けつつ魔力量を上げる訓練を行うのでしょうか」
「ヒィッ。王子、なんて恐ろしい事を。というか誰からその話を聞いたのですか。
確かに昔そのようにして魔力量を上げる秘術が用いられていたことはあります。
ですが今はあまりにも危険なので行われておりません」
「そうでしたか」
「正解は魔力操作です」
難しく考えすぎていたか。
「それで魔力操作はどうすれば良いのですか?」
「はい。順を追ってお教えしますね」
先生からは魔力の感じ方から始まり(これは先日お母様を見た時に分かった)、自分の魔力を自分の身に留めるやり方を教えて貰った。
通常、魔力と言うのは何もしなければ汗のように生き物の体内から放出されて大気中に霧散してしまうものらしい。
それに干渉して押しとどめる。
「自然体で、落ち着いて、ゆっくりと呼吸を一定のリズムで。
吸って、吐いて~、吸って、吐いて~」
「すぅ~、はぁ~、すぅ~、はぁ~」
先生と向かい合うように立って静かに魔力を体内に留める。
室内には二人分の呼吸の音だけ。
とても穏やかな時間だ。
時間が止まってしまった気さえする。
しかしその時、窓の外を鳥が飛んでいった。
「あっ」
一瞬気が逸れたら留めていた魔力が霧散してしまった。
なかなか難しい。
もう一度最初からだ。
「すぅ~、はぁ~、すぅ~、はぁ~」
「……」
「……?」
なぜか先生がじっと僕を見ている。
また何かやらかしてしまっただろうか。
「王子。そのままでお聞きください」
「はい」
「魔力操作の基本は今行っている呼吸です」
「はい」
「他の鍛錬法はこれの応用に過ぎません」
「はい」
「そして最も困難な鍛錬がこの呼吸と言われています」
「そうなんですか?」
確かに集中を切らさず続けるのは難しいけどそれだけだ。
最高難易度と呼ばれる程ではないと思うんだけど。
「その、面白味の無い鍛錬ですので継続して行える人はなかなかいないのです」
「続ければ強くなれると分かっているのにですか?」
「はい。強くなると言ってもすぐに実感出来るものでもなく『去年と比べたら強くなったかな』程度なのです。
若い方は数日で結果が出ないと飽きてしまいますから」
「そういうものですか」
なんて勿体ない話だ。
『継続は力なり』が本当に力になるというのにやらない選択肢はない。
僕なら毎日どころか毎時毎分毎秒、寝ている間もずっとやっていたいと思うほどだ。




