表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盲目王子の専属侍女── 一歩先を導く侍女と追放王子の逆転劇  作者: チャーコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/76

18 報告という名の追撃

 執務室の扉を叩いたのは、夕食後まもなくだった。


「入れ」


 ニコラス・サルヴィが入室すると、第一王子ルチアーノ・ディ・ヴァレンティーノは、すでに椅子に腰掛けていた。書類は整えられ、姿勢も崩れていない。

 ――そして、ほんの少しだけ機嫌が悪い。


「報告がほしい」

「承知いたしました。どのような報告でしょうか」


 ニコラスが一礼した、その直後だった。


「……今日は、お前と彼女が出かけていたと聞いたが」


 来た。ニコラスは内心で頷く。


「はい。休日の買い物に」

「そうか」


 短い返事は、声の調子がわずかに硬い。


「……ロゼッタは、一人で行かせてもよかったのではないか?」

「殿下。休日に女性を一人で歩かせるほど、私は無粋ではありません」


 さらりと返す。

 そこに悪意はない。ただし、善意だけとも言わない。


「それに」


 少しだけ、報告口調を強めた。


「ロゼッタ嬢は買い物が非常に上手です。店の者とも自然に会話を交わし、周囲の反応も良好でした」


 事実である。事実だからこそ、続けた。


「髪を下ろしておられまして。普段は侍女の務めのためまとめていますが、休日は印象が異なります」

「……ほう」


 ルチアーノの反応が早い。


「柔らかなローズブラウンの髪が肩にかかり、光を受けると輝きが増していました。蜂蜜色の瞳もよく映え、第三者の目から見ても、大変愛らしい様子でした」


 一拍、間が空く。


「……用件は」

「すべて殿下用です」


 沈黙が落ちた。


「器、調理道具、エプロン。ご本人の物は一つもありません」

「……一つも?」

「ええ。欲しい物はすべて、殿下のためだと」


 ルチアーノは押し黙り、机の上の手を強く握った。


(撃ち抜かれましたね)


 ニコラスは、まだ終わらせない。


「それから」

「……まだあるのか」


 止める声だが、報告は止まらない。


「『年上の、うるさい侍女だったらどうしよう』と」

「……」


 今度は、喉が微かに鳴った。


「殿下が楽になるなら、私も専属侍女として嬉しいです、と」

「……ロゼッタが、そう言っていたのか」

「はい。実に頼もしいお言葉でした」


 ニコラスは、一呼吸置く。事務的な声のまま、告げた。


「殿下はお幸せですね」


 返事は、すぐには来なかった。


「……私は、そう見えるか」

「はい。第三者から見て、大変わかりやすい」


 ここで、ニコラスは初めて微笑む。


「ロゼッタ嬢の話題になりますと、表情と声の調子が変わられますので」

「……そうか」


 否定はなかった。顔が少し俯く。


(ああ、これはもう確定ですね)


 ニコラスは心の中で頷く。


(自覚していないのは、ご本人だけだ)


 もちろん、その評価を口にすることはない。ただ、心の中でだけ呟いた。


「以上が、買い物に関する報告です」


 ニコラスは一礼し、扉へ向かう。

 背後から、低い声が追いかけてきた。


「……お前は、楽しかったか」

「職務として、適切でした」


 嘘は言っていない。

 扉を閉めた瞬間、ニコラスはようやく息をついた。


(殿下)


 内心で、静かに肩をすくめる。


(それはもう、完全に『恋』です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ