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第99話 危うい采配



 ザオツリ城、『王の間』。

 カイトバと宰相の目の前で、俺は不敵な笑みを浮かべつつ言い放った。


「ああ。フェリスの居場所なら知っている。情報料は弾んでもらうからな」

 

 俺の言葉にカイトバは色めき立ったが、宰相の目は冷ややかだった。

 胡散臭いものを見るような、不快な視線で俺を見ている。

 

「カイトバ様、騙されてはなりません。どうせデタラメ、褒賞目当ての詐欺師でしょう」


 宰相は目を細めつつ、俺を見下していた。

 

 疑り深い男だ。だが、それでいい。

 こんな得体の知れない奴の言葉を二つ返事で信じる方がどうかしているからな。


 だが俺は、さらに具体的な情報をエサとして放り投げた。

 

「そうか。では、こんなのはどうだ? 俺が見つけたフェリスとやらは、執事のロイド、それに数人の使用人と傷だらけの兵士を連れていたが……あれは人違いだったかな?」


「っ!?」


 宰相の顔から余裕が消え、驚愕に目が見開かれた。

 動揺を隠しきれず、指先を微かに震わせている。


「なんだ、それは!? おい、宰相! 今の情報は本当なのか!?」


「……ええ。我々が掴んでいる逃走時の状況と、完全に一致します」


「本当なんだな!? でかしたぞ、お前! おい、フェリスはどこにいる! 今すぐ言え!」


 カイトバの瞳には、輝きが宿っていた。

 

 なるほど、必死だな。

 フェリス本人から俺が聞いていない『何か』が、こいつらにはどうしても必要なわけだ。

 ならば、その情報から引き抜かせてもらおうか。


「待て。まずは確認だ。フェリスの居場所を教えたら、相応の報酬は用意できるのだろうな?」


「ああ! 望むものを何でもやる! だから早く話せ!」


「いいだろう。では、金貨1000枚。国家の行方を左右する情報だ、これでも安いものだろう?」


「分かった、約束する! おい、宰相! こいつに金貨1000枚を支払ってやれ!」


 カイトバが叫ぶが、宰相の表情は一気に曇り、苦虫を噛み潰したような顔になった。


「……その報酬は、フェリス様を捕らえた後だ。今は払えん」


「先に寄越せ。俺が持ち逃げするのが心配なら、フェリスを捕まえるまで俺を監禁するがいい。とにかく、先払いが条件だ」


「……駄目だ。それはできん」


 宰相は(かたく)なに首を振る。


 ほう、随分と余裕だな。

 あるいは、余裕がないのか。


 俺は、わざとらしく溜息をついてみせた。


「では、交渉決裂だな。残念だ。フェリスたちは今夜にでも街を離れると画策していたようだが、見逃すことにしよう」


 フェリスが逃げると言うのは、当然ハッタリだ。

 だが、焦り切った無能には、この程度の嘘が劇薬となる。


「何だと!? おい、宰相! 出し惜しみしている場合か! 今すぐ払え! フェリスを逃がすわけにはいかんのだ!」


「……カイトバ様、無理なのです。今のこの城には、即座に支払えるほどの財産がありませんので……」


 ほう……金がない、だと?

 確かに一般人からすると、遊んで暮らせる金額ではある。

 だが国という単位なのだ。


 たかだか金貨1000枚も出せないとはな。

 想像以上の困窮ぶりのようだ。

 

 もう少し、揺さぶってみるか。

 

「金がないなら仕方ない。では、フェリスとやらを捕まえた直後に必ず支払え。その約束をするなら、今すぐ居場所を教えてやろう」


「すぐには無理だ。だが捕らえた暁には、必ず払うと約束しよう。しかし小僧、もし嘘だったら……自分がどうなるか、分かっているな?」


 宰相が憎々しげに俺を睨みつける。


 『自分がどうなるか、分かっているな?』だと?

 余計な一言を。

 俺に喧嘩(けんか)を売るならば、買うまでだ。

 

 だが、こんな所でコイツを倒した如きでは駄目だ。

 お前が人生で積み上げたものを、根底から叩き潰してやるとしよう。


「ああ。では、教えよう。フェリスが潜んでいるのは、港の船の中だ」


「なっ、船だと!?」


 宰相の目が見開き、弾かれたように声を上げた。

 

 無論、完全に嘘なわけだが。

 俺が街で仕入れた断片的な情報を繋ぎ合わせただけのデタラメだ。


 酒場で船乗りが、『漁には出られない』と言っていた不満。

 要するに、船は使われていない。

 

 そして船は『国の管理下』にあるという事実。

 国所有の船の管理者がいたとしても、王家であるフェリスが使ったとて誰も不審がらない。

 

 最後に、『街の門を厳重に見張っている』という宰相の言葉。

 ならば、逆に監視が緩いのは港だ。

 逃げた少人数で船を動かすなど不可能だと端から除外しているのだろう。

 

 盲点を突かれたと思い込むには十分な材料だ。

 

「すぐに兵を出せ! 船を出させるな!」

「よし! フェリスめ、今度こそ逃がさんぞ!」


 宰相の号令に兵士たちが色めき立ち、カイトバは勝利を確信したように下卑た笑いを浮かべた。

 その様子を、俺は冷ややかに眺める。

 

「では、フェリスを捕まえるまで、俺たちはこの城で待たせてもらう。後で『知らぬ存ぜぬ』で報酬を踏み倒されては困るからな」


「ふん、勝手にしろ。おい、こいつらを客間に連れていけ!」


 宰相が乱暴に使用人を呼びつける。

 俺たちは使用人に導かれ、王の間を後にした。


 つかつかと廊下を歩き出撃の兵士たちの様子を眺めると、先ほどまで騒いでいた傭兵たちが準備を整え外に出て行った。

 なるほど、正規兵ではなく傭兵を使っているのか。


 するとなると、今この城には新王カイトバと宰相。

 それに傭兵が出払い、正規兵が守備を務めている。

 

 ……随分と危うい采配だな。

 

 門番はカイトバの事さえ、よく分かっていない様子だったのだ。

 そんな奴を、兵士が王と認めて命を掛けて守るとでも思っているのだろうか。


 国の混乱が昨日や今日の話しだとしても、詰めが甘い。

 甘い。甘すぎる。

 フェリスにしても、カイトバにしても、宰相にしてもだ。


 だが、俺にとってはやりやすい。

 漁業目当てで来ただけだが、まさかこんなに美味い話しが転がり込んでくるとはな。

 

 そんな事を考えていると、俺たちは客間へと着いた。

 通された客間は、手入れが行き届いていない寒々しい空間だ。

 椅子に腰を下ろしても、茶の一杯すら出てくる気配はない。

 

 使用人が退出し扉が閉まるなり、ずっと黙っていたルナリアが、我慢の限界といった様子で俺の顔を覗き込んできた。

 

「レヴォス様、あの! 一体どういうことなんですか? フェリスさんの居場所が船だなんて……」


「ああ、あれは嘘だ。あいつらがなぜフェリスを捕まえたいのか、その理由は(おおむ)ね把握できたからな。適当に泳がせておいただけだ」



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