第83話 隠れ蓑
その後の昼下がり。
学園の寮に居ると、パルコが拠点に手下を招集しているとアンズから報告があり、俺はパルコの拠点に再び潜入した。
物陰からこっそり覗くと、パルコを囲んでゴロツキどもが悪巧みの相談をしている。
パルコの様子は、『英雄』としての雰囲気は既にカケラもなく、その顔には悪党そのものの卑しいニヤけ面が張り付いていた。
「いいか、てめぇら。次はガキをさらって、俺がそれを助けてみせる。そうすりゃ、俺はまた英雄に返り咲きだ」
パルコが、バカげた計画を手下たちに向けて話していた。
だが、当の手下たちは不安そうな顔をしている。
一人が怖気づいた顔で、おずおずと口を開く。
「でも、アニキ。またあの邪魔な連中が出てきたらどうすんです……?」
どうやら、手下どもは俺たちに相当ビビっているらしい。
だが、パルコは余裕たっぷりに鼻で笑った。
「その時は予定変更だ。ガキをさらったまま、身代金を要求してやるよ。そのまま、この王都から逃げちまえばいい」
なるほど、盗賊らしい考え方だ。
下衆が考えることは、どこまでも下衆でしかない。
「なるほど……で、アニキ。いつやるんです?」
と手下がパルコに聞いた。
「……今だ。今すぐやる。ここ数日、奴らは姿を見せなかったんだ。今なら絶対に見つからねえ」
言ったそばから見つかっているんだがな。マヌケな奴だ。
――――――――
「いいか、てめぇら。今から俺が考えた作戦を言うぞ!」
王都の路地裏。
パルコ達がフードを深く被り、周囲を気にしながら手下たちと円陣を組んでいる。
正体がバレないようにローブを着ている様だが、そのコソコソした動きで逆に怪しさ満点だ。
俺は路地の角に隠れ、その様子をじっと観察していた。
「広場のガキをさらえ。一人じゃねえぞ、できるだけたくさんだ。着ている服をよく見て、金持ちのガキを狙うんだ。よし、行くぞ!」
「「「 へい! 」」」
手下どもが意気揚々と返事をする。
随分と張り切っているが、そのやる気が自分の首を絞めることになるとも知らずに。
まったく、滑稽だな。
「ふむ。あの発言だけで証拠は充分だな?」
「はい。充分です。私がこの耳でしっかり聞いたので、すぐに捕まえに行きます」
俺の問いに答えたのは、エルヴァンディア帝国の副騎士団長ボレルだ。
俺の父、騎士団を統べるグランディア・ムーングレイの配下でもある。
そして、ボレルは学園の教師も兼任している。
以前の学園の課題での貸しと、父の息子である俺の立場に付け込み、強引に連れてきた。
パルコたちが、顔をフードで隠し広場に向かう。
そしてキョロキョロと見渡し、狙う子どもを物色している。
「ボレルよ、行くぞ。ここで片づける」
「はっ」
ボレルを引き連れ、俺はパルコの前に立ちはだかった。
「おい、『英雄パルコ』。また会ったな」
「げっ!? て、てめぇ……!」
俺の顔を見た瞬間、パルコが飛び上がるほど驚いている。
そして、俺の後ろにいるボレルの姿を見た途端、その顔はみるみる真っ青になった。
なにせボレルは騎士団の甲冑を着ているのだ。
悪人というのは、騎士の鎧を見ただけで震え上がる。
俺の前にボレルが立ち、パルコを見下ろして言い放った。
「おい、パルコ! 英雄と嘘をついて民を騙し、金を巻き上げただけでなく、子供の誘拐まで企てるとは! 騎士団よ、こいつらを捕らえろ!」
ボレルの合図で、広場に隠れていた騎士たちが一斉に飛び出してきた。
「げぇ!? 騎士団だ! 逃げろ!」
パルコ、およびパルコの手下たちの抵抗虚しく、あっけなく騎士団に捕まった。
奴らを待っているのは、死ぬよりもキツイ一生の強制労働。
『英雄』として持ち上げられたパルコが、最後は『子供の誘拐犯』として捕まった。
民衆の前で、その化けの皮を剥ぎ取る。
一度こういった事を知れば、次に自称『英雄』が現れても、人々はまず疑うようになる。
それが安全に繋がるのだ。
「くそっ! なんで騎士団がこんな所にいるんだよ!」
パルコが喚きながら連行されていく。
その姿を見送り、俺はボレルに向き直った。
「ボレル、後は任せたぞ」
「はい、レヴォス様。奴らは騎士団で処分します。ですが、今回の手柄については……」
ボレルが、俺の手柄を奪う形になるのを申し訳なさそうに言った。
「構わん。全部、俺の父グランディアの功績にしておけ」
「……承知いたしました」
親の父の手柄になるのは面白くないが、俺の名前が出ないのは好都合だ。
自由に動き回るには、便利な『隠れ蓑』だからな。
「……レヴォス様。あともう一点、いいでしょうか?」
ボレルがさらに言いづらそうに眉を下げる。
「なんだ? 言ってみろ」
「その……レヴォス様、そろそろ学園に登校してはいただけませんか? お忙しいのは分かりますが、あまりにも休みすぎていて……」
……学園か。そういえば、全然行っていなかったな。
ボレルの情けないほど切実な顔を見て、俺は小さく肩をすくめた。
「……わかった。前向きに善処しよう」
「本当に、本当にお願いしますよ……」
副騎士団長とは思えないほど弱々しく溜息をつくボレル。
俺はその横を通り過ぎ、何も聞かなかったように人混みの中へと消えていった。




