最終話 レヴォスたちよ、永遠なれ
そして、平穏な今に至る。
「レヴォス様。お茶でございます」
「ああ、ありがとう。フォルテ」
波一つない、静かで美しい湖畔。
いつものように、執事であるフォルテが温かい紅茶を用意してくれた。
俺はのんびりと釣竿を垂らしながら、芳醇な香りのするその一口をゆっくりと飲み込む。
あくせくとした戦いの日々は終わりを告げ、まるで陽だまりのような安堵感のある毎日。
「レヴォス様! 考えましたよー!」
突如として響き渡ったヒロンの大きな声によって、静寂に包まれていた湖畔の空気が一瞬にして台無しになる。
新しいこの領地であるガンディーノに、ヒロンがどうしても新しい名前を付けたいと張り切っていたのだ。
相変わらずの騒々しさに、俺は少し呆れながらも、つい苦笑いを浮かべてしまう。
「それで、なんて名だ?」
「ええとですね、『超神聖神国家レヴォス大明神』です! いかがでしょうか!?」
「……却下だ」
「そんなぁ!?」
目を輝かせて提案するヒロンに対し、俺は静かに首を横に振った。
普段は冷静沈着で理路整然とした考えを持つのに、俺のこととなると興奮して我を忘れてしまうのはどうしたものか。
さすがに『神』という文字が多すぎて、聞いているこちらが気恥ずかしくなってくる。
ヒロンはいったい、いつまで俺を神聖視し続けるつもりなのだろう。
「では、また考えてきます!」
バタバタと慌ただしい足音を立てて、ヒロンが帰っていく。
「レヴォス様、そろそろお時間かと。準備の時間もありますので」
「ああ、そうだったな」
俺は釣りを切り上げ、着替えのために部屋へ向かった。
用意されていた、真新しい礼服に袖を通す。
襟元を整え、鏡の前で深く深呼吸をして心を落ち着かせる。
コンコンとノックの音が鳴り、フォルテが部屋へやって来た。
「会場の準備が整っております」
「ああ、では向かうとするか」
ここガンディーノにおいて、最も大きな式典会場。
その扉を、フォルテが恭しく開け放つ。
俺は少しだけ早く打つ胸の鼓動を感じながら、その眩しい光の中へと足を踏み入れた。
視界に飛び込んできたのは、綺麗に飾られたたくさんのテーブル。
そして俺たちを祝福してくれる、たくさんの来賓たちの笑顔だった。
あの日の事を、俺は決して忘れていたわけではない。
もし生きて無事に帰ることができたら、褒美として何でも願い事をひとつ叶えるという、あの約束を。
その願いを、ついに今叶える時が来たのだ。
割れんばかりの温かな拍手の中を、俺はゆっくりと前を見据えて歩き出した。
言葉では足りないほどの感情が込み上げてくる。
頬が自然と緩みつつも、祭壇へと視線を向けた。
……しかし、本当に随分とたくさんだな。
そこで俺を待っていたのは、純白のウェディングドレスに身を包み、満面の笑みを浮かべた『たくさんの花嫁たち』だった。
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歴史の中に、レヴォス・ムーングレイという男がいた。
その男は、亡国であるエルヴァンディア帝国の公爵家に生を受けた。
だが、彼はある時から湖畔の都市に移り住み、生涯をその地で過ごしたとされている。
彼については、数多くの数奇な噂話が残されている。
異なる世界からやって来た転生者であったとか、はたまた世界を滅亡させようとした魔王であったとか。
だが、それらはあくまで彼の波乱万丈で奇異な人生を表現した、後世の比喩に過ぎないのだろう。
まず確かな記録として、レヴォスには驚くほどたくさんの妻がいたという。
そして、数え切れないほどのたくさんの子をなしたと伝えられている。
さらに特筆すべきは、レヴォスの妻たちが身分や出自、はたまた種族の壁すらも越えていたという事実である。
平民、貴族、王族に元王族、そして聖職者など。
人間だけにとどまらず、獣人や魔族、鬼族など、さらには精霊までも妻として迎え入れていた。
他国の人間であるかどうかも一切関係なく、彼はその全員を等しく、平等に愛していたと記されている。
レヴォスが深く愛したのは妻や家族だけでなく、領民たちのことも心から慈しみ、また領民たちからも絶大な信頼を寄せられ、愛し愛される領主であった。
だが、彼は決して温和なだけの男ではなかったという。
レヴォスの住む湖畔の都市には、魔族たちが跋扈する魔王領という危険な地域が隣接していた。
ある時、一部の好戦的な魔族が湖畔の都市へ向けて侵略を開始するという事件が起きた。
だが文献によると、なんとレヴォスはたった一人でその軍勢を返り討ちにしたという記述が残されている。
まるでお伽話のような英雄譚だが、彼の伝説はそれだけでは終わらない。
あろうことか、驚くべき速さで魔王領に住む魔族たちを完全に平定してしまったのである。
圧倒的な力と人を惹きつける魅力により、魔族たちからも恐れられ同時に王として崇められたレヴォス。
人々は彼を畏怖と敬意を込めて、こう呼んだ。
『魔王レヴォス』と。
その後、その土地は彼の偉大な名にあやかり「レヴォス」と名付けられることとなる。
レヴォスという国は大きく発展を遂げ、永きにわたる平和な時代が続いた。
彼の子孫たちは、生涯を通じてレヴォスの像を大切に扱い、その功績を語り継いだとされている。
レヴォスや、その愛する妻たち、そして苦楽を共にした仲間たちには、この他にも数え切れないほどの色々な逸話が残っている。
だが、それはまた、別のお話しである。
『エルヴァンディア戦記』より抜粋。
~完~




