第200話 全員集合!
「ちょっと! そんなにたくさん乗ったら列車が壊れてしまいます!」
クロエが想定外の過積載に顔を青くして両手を振り回す。
グリンベルにて、列車に乗り込まんとしている者たちが、我先にと列車に乗り込んでいた。
「仕方が無いですよ、クロエさん。クロエさんも、最初に乗りたいでしょう?」
満面の笑みを浮かべたヒロンが、列車の側面をバンバンと叩きながらたしなめる。
「当たり前じゃないですか! ……じゃあ、出発しますからね! 壊れても知りませんから!」
クロエは怒ったように頬を膨らませたが、その瞳は期待でキラキラと輝いている。
早く出発したいという欲求に負け、クロエが運転席のレバーを力強く引く。
ガタガタと重々しい音を立てて、列車が発進する。
だが、屋根の上にまで人が乗っている尋常ではない過重量のせいか、その歩みはひどくゆっくりとしたものだった。
「クロエ先生、もっと早く走らないんですか!」
ルナリアが身を乗り出し、待ちきれないというウズウズした気持ちを声に乗せる。
「無茶言わないでください! 本当に壊れてしまいますよ! そしたら徒歩ですよ、徒歩!」
たまらず、賢者クロエが悲鳴のような声を上げた。
皆、口々に文句を言い合いながらも、その顔は笑顔だった。
列車は進む。
希望を乗せて。
「ハァハァ……なんだか、あまりの期待と緊張に今にも死にそうです……」
軍師ヒロンは息を荒らげ、額に汗を浮かべていた。
極度の興奮がヒロンを包み込んでいる。
「今死んだら、もう蘇生できないですからね?」
聖女セレスが、冷静な声でピシャリと釘を刺した。
「しまった……余りに急いでいたもので、紅茶を忘れてしまいました。私としたことが」
執事フォルテが自分の荷物持っていない事に気づく。
執事であるはずのフォルテにとって、あり得ない失態に動揺を隠せていない。
「大丈夫ですよ! 無くたって何とかなります!」
メイドのコレットが、底抜けに明るい笑顔でフォローを入れる。
コレットの言葉が、場を和ませた。
「またガンディーノに行くんだなー? 旨い食べ物が楽しみだ! なあ、ニャスパルも楽しみだよな!」
「んにゃぁ!」
魔族のジクナは、よだれを拭いながら窓の外を眺めていた。
ジクナの頭の中は、美味しい食事への期待で満たされ、猫のニャスパルも同調するように元気よく鳴く。
「ギャンブルも楽しめるし……一石二鳥……!」
アンラッキー・ルーシィが、薄暗い笑みを浮かべて両手をこすり合わせる。
ルーシィの心の中では、次こそ勝てるという根拠のない自信が渦巻いていた。
「私も急いだから、いない間の宿題を出し忘れてしまいました」
司祭のポエテは、顎に指を付けて悩まし気に告げた。
教師としての責任感が、ポエテの心をチクチクと責め立てる。
「いいじゃん! 今だけ休みって事でさ!」
「あ、お兄ちゃん! 自分が宿題しなくて良かったと思ってるんでしょ!」
魔石の少年コドルが、無邪気に笑ってバンザイをする。
すかさず妹のフロウが、ジト目で兄を非難した。
元気な兄妹のやり取りが車内に響く。
「うーん、ギュウギュウで狭い……私、樹木から先に移動しますね!」
樹木の精霊ズリュールが、息苦しさと苦手な人間たちに耐えかねて列車から出ようとする。
「おい、ズリュール! お前だけ抜け駆けは許さんぞ! わしらと一緒に行くのじゃ!」
大精霊ミサミサが、慌ててズリュールの服を引っ張った。
自分一人だけ先に行かせぬぞ、大声を張り上げている。
「私の身体は大きいので……申し訳ないです。降りた方がいいですかね……?」
鬼族のグロウは、自分の大きな身体を申し訳なさそうに小さく丸めていた。
周囲への遠慮が、グロウの顔を曇らせる。
「あら~、気にしなくていいのよ。皆で行きましょ? グロウちゃん」
元王族のアリアが、慈愛に満ちた優しい笑顔でグロウの背中を撫でた。
その温もりに、グロウの表情がパッと明るくなる。
「ふふふ、本当にこの列車という乗り物は凄いね! まさに高度な文明だよ!」
元リンクショット公爵家のアイリスは、車内の設備を興味津々に見回していた。
未知の技術に触れる感動が、アイリスの知的好奇心を刺激する。
「本当に凄いですわ! これなら、実家までひとっとびで行けますわね!」
「本当に!」
「早い!」
紅蓮流のエリザが、故郷への思いを馳せる。
メイドのリンとレンも、主人に同調してぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「おいネクタ! お前は身体がデカいから列車から降りろ!」
「ひ、ひでえ! 姉ちゃん!」
プラムコット姉弟のアンズが、弟のネクタを蹴っ飛ばそうとじゃれ合う。
いつもの賑やかな喧嘩だ。
「早いナ!」
「凄いナ!」
コボルトとゴブリンが、窓に顔を押し付けて流れる景色に純粋な驚きを爆発させていた。
「ここをこうして……こうしたら、ちょっと空間が開けますよ! ほら、広くなった!」
ザオツリ国の王女フェリスが、テキパキと荷物を動かし、皆が快適に過ごせるように工夫を凝らす。
「おお! フェリス殿、お美事でございます!」
忍者のオコタが、その見事な手際に感服して深く頷いた。
やがて列車は進み、窓の向こうに巨大な施設が見えてきた。
かつて、カジノ都市として栄えたガンディーノだ。
「あれがヒロンさんの言っていたガンディーノ……! あそこに……!」
エルマが、期待と緊張の入り混じった声で呟く。
その胸の高鳴りが、握りしめた拳から伝わってくるようだった。
列車は終着点にゆっくりと止まる。
全員が降り立ち、徒歩でガンディーノへの入り口へと進んでいった。
「やはり、報告は本当のようですね……」
ヒロンが、目の前の光景を見て静かに呟いた。
そこには、カジノ都市ガンディーノへと掛かる立派な『樹木の橋』が架かっていたのだ。
彼がいなければ、その『樹木の橋』は架からない。
逆に言えば、『樹木の橋』があるからこそ、彼が間違いなくガンディーノに居るという証拠でもあった。
全員が、息を呑んで『樹木の橋』の先を見つめる。
そして、彼らの視線が一点に留まった。
橋の先には、一人の男が立っていた。
いつも見せる、冷徹な表情ではない。
大切な仲間たちを待ちわびていたかのような、どこまでも暖かく、優しい微笑みを浮かべて。
そこに立っていた者こそ、レヴォス・ムーングレイだった。




