第189話 褒美は何?
「レヴォス様。王都の方から避難民と思われる方々が流れ着いておりますが、いかがいたしましょうか? 現在は、グリンベルの外にて待機いただいております」
グリンベルの執務室にて、執事フォルテより報告が上がる。
王都は壊滅状態だ、そこから脱出する者がいても何ら不思議ではない。
行く宛もないだろう。無碍に追い返すわけにもいくまい。
だがグリンベルへと入るのであれば、確認は必要だ。
それに、明日は王都へ攻め入るための決戦の日。
空になったグリンベルに、悪意に満ちた者が侵入するのは避けねばならない。
「俺が見に行く。直接、見た方が早いだろうからな」
「承知いたしました。こちらになります」
フォルテとともに、その避難民がいるというグリンベルの外まで向かった。
そこには、思った以上の大量の避難民たちが集まっていた。
「これは、もはやグリンベルには入りきらんな」
「はい。徐々に、その数が増しているようです」
「ふむ、なるほど。これでは王都中の者たちが来てしまうかもしれんな。……ん? あの鎧を着こんだ奴らは……」
見慣れた鎧の奴らの姿があった。騎士たちだ。
避難民たちを誘導し、怪我人を運んだりしている。
そこで、見知った奴と目があった。
副騎士団長のボレルだ。
「レヴォス様!? ご無事だったんですか!?」
俺が生存していると分かったボレルが、目を丸くしてこちらへと走り寄って来る。
即座に、ボレルが俺の前で膝を折る。
「生きていたか、ボレル」
「レヴォス様、本当にご無事で何よりです……! お父上を、グランディス様を守り切れず、誠に申し訳——」
「気にするな。民を守って退却できたのならば、その功績だけで充分だ」
ボレルの言葉を遮り、言い放つ。
しかし、王よりもグランディスの事が先に出てくるとはな。
そもそも騎士は王を最優先で護るために居るはずなのに。
だが、今となっては王も父もいない。
帝国という国家の存在すら怪しい。
こういう時、最も上の位にいるものを縋ってしまうのも理解できなくはない。
騎士団統括のムーングレイ公爵家の生き残りの、この俺を。
ならば、その忠誠を利用するだけだ。
「それよりボレル。王都で何があった? 王たちを殺したあいつはどうなったのだ?」
「それが……」
ボレル曰く、女神は騎士や貴族だけではなく民たちも触手により続々と配下にしていったらしい。
今や王都はゾンビだらけだという。
ボレルは、なんとか生きている民だけでも王都から逃げ出したらしい。
女神は王都からは追いかけてこず、なんとか逃げ延びれたようだ。
「そうか……ボレル、我々はここにいる人員で明日、反撃に出る。お前たち騎士も手伝え」
「なんと!? あの化け物を倒せる算段があるのですか!?」
「ああ、ある。それより難民のための仮宿舎やテントの設営を手伝え。フォルテ、ここは任せる」
「はっ、承知いたしました」
女神を倒せると言い切る俺に戸惑うボレルをよそに、俺は街の中に戻っていく。
これからやることがあるからだ。
明日、王都に攻め入る者を集め、言わなければならない事がある。
——————
「皆。この緊急時に集まってもらったのは明日の『王都奪還作戦』を伝えるためだ。エルレイン救出作戦から、続けての重要な任務になる。何せ、王都が陥落したのだからな」
俺の、現実に起きた言葉に皆が意識を引き締めているのが分かる。
またもや、この大ホールに全員を集める事になるとはな。
前回のメンバーの他、今回はエルマの参加に続いて兄のエルレインも居る。
『エル戦』の主人公である兄妹だ。
「あの『魔王』の出現によって、今や状況は最悪だ。王都の中では、民も含めて魔王の配下となってしまっているという情報が入った」
その情報に、眉を潜める皆を見て、俺は続けて説明を続けた。
「だが、聖剣クラウトソラスを持ったエルレインがいれば問題は無い。何せ、あの『魔王』はエルレインを攻撃できないようだったからな」
「あの……ちょっといいか?」
オドオドとしたエルレインが挙手する。
「あの女、いったい何なんだ? 俺はあのまま殺されると思ったんだ……だけど、あの女が出て来て、俺を助けたように見えたんだけど……」
「そうだな、あの『魔王』はエルレインを助けたのは事実だろう。だが、それと同時に王都の人間を虐殺している化け物でもある。要は、エルレイン。お前を利用して世界を破滅に導く存在の可能性が高い」
完全なデマカセ。
だが、女神の本当の理由を知っている人間は俺以外にいない。
俺が転生者で、この世界はゲームで……と、真実を伝えたところで理解できないはずだ。
ならば、ここは女神を魔王とし、正当な征伐であることを表明した方が攻め入る皆の迷いが無くて済むというものだ。
「なるほど……あいつ、俺を利用しようとしていたのか!」
……エルレインも単純な性格で助かる。
「だが、今言ったように厄介な化け物だ。何せ、ここにいる俺たちすら、魔王の手先になる可能性があるのだからな」
仲間が敵となり、自分を襲う。
それは最も重くて、最も容赦ない事態だ。
だがらこそ、今言っておく必要がある。
「もしも、この中の誰かが『魔王』に操られ、我らを殺そうとしたら……」
皆の顔をぐるりと見渡す。
皆が俺の顔を見つめている。
「その時は、操られている者を迷いなく殺せ。仲間を救おうとして、自らが死ぬ事は許さん」
俺の言葉に、皆の間に動揺が走った。
だが、皆も分かっているハズだ。
仲間が元に戻るかもしれない。助けられるかもしれない。
そんな淡い期待にすがり、続々と女神の配下となってしまったら?
それこそ、本当の終わりだ。
「……だが、生きて帰還した者には、それ相応の褒美を用意しよう。俺に出来ることなら、何でもひとつ願いを叶えてやる」
絶対的な褒美。
志や、復讐心、意義など以外にも必要なモチベーション。
何せ、命を掛けるのだからな。
俺の言葉に、すかさず一人が挙手した。
賢者クロエだ。
「レヴォス様、その願いについて質問よろしいでしょうか」
「なんだクロエ、言ってみろ」
「例えば……例えばですよ? 願いとして、レヴォス様と婚姻を願う者がいたとしたら、その願いは叶うのでしょうか?」
……俺と婚姻?
そんな事を希望する者がいるのか?
いや、そうか。俺は公爵家だからな。
この爵位には、それなりの拍があるのも分かるが……
「俺は公爵家だが、今やそんな爵位はなくなったも同然だぞ。帝国が崩壊しているのだからな。だが、そんな事を望む者がいるのであれば、その願いは叶えよう」
「……なるほど。承知いたしました」
クロエが手を下げ、再び沈黙する。
だが、なぜか周りの者たちが口々に同じような台詞を口走った。
「なるほど……?」
「な、なるほどっ!」
「なるほど……」
「なるほどでございます!」
「なるほどねえ」
「なるほどなー!」
「ふふ、なるほどね」
「なるほどぉ!」
一体、なんなんだ?
もしや、もう何かの褒美を貰えるつもりなのだろうか。
俺は再度、気を引き締めるため皆に言い放った。
「重要な事をもう一度言っておく。褒美が欲しければ、死ぬことは許さん。絶対に生きて帰れ」
「「「「 はいっ! 」」」」
皆の威勢の良い返事が響き渡る。
……やはり、褒美の効果が出ているのだろうか?




