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第188話 悪の存在・救世主。その者の名前は



 混乱する式典場。

 騎士たちが同士討ちをし、貴族たちが我先にと逃げる。

 

「アイリス! キリノ! ここから逃げるぞ!」

「ああ、わかった!」

「ひえええええ!」


 その混乱に乗じて、退却という決断。

 現状はあまりにも不利だ。

 女神の正体や、倒すための準備も出来ていないのだから。


 出口へと向かった時、背後にまとわりつくような殺気の視線を感じた。

 不快感に眉をひそめつつ振り返る。

 すると出口へと向かう俺たちを、空中に浮かんだ異形の女神が静かに見下ろしていた。

 

 やはり、今の狙いは俺たちラスボス候補か。

 ここでアイリスやキリノをラスボスにされたら、厄介な事態になる。

 

 『エル戦』において、覚醒するラスボスは一体だけだ。

 そしてラスボスが降臨した瞬間、他のラスボス候補はゲームから退場となる。

 要は『死』だ。


 ならば、アイリスたちをここで覚醒させるわけにはいかない。

 誰かが覚醒でもすれば、ラスボス以外だった俺とアイリスとキリノとルナリアが死ぬのだから。

 最悪の結末を想像し、俺は奥歯をギリッと強く噛み締めた。

 

 すると女神が操る無数の触手が、俺たち目掛けて一直線に伸びてくる。

 俺たちの手元に、まともな武器は無い。

 かといって、魔法で攻撃すれば触手の反撃を受ける。

 ……随分と厄介な相手だ。

 

「ならば、これはどうだ!」


 俺は胸のポケットに手を突っ込み、エルマから貰った一凛の花を取り出した。


「花よ、大木となれ!」


 樹木魔法を展開し、植物の成長を一気に加速させる。

 攻撃ではなく、身を守る盾代わりだ。


 ドン!ドン!ドン!

 

 一瞬の内に大木へと成長した花に、女神の触手が激突した。

 

「ふん、エルマに感謝しておくとするか」

 

 冷たく鼻で笑い、式典会場から素早く退散する。

 会場を見ると、女神が触手を伸ばして回りの兵士や逃げ遅れた貴族たちが、続々と女神の配下となっている。

 ……今、奴らを助ける手段は無い。

 

 攻撃を喰らえば、俺たちも女神の配下になる。

 かといって、こちらから攻撃すれば強烈な反撃を喰らう。

 もはや、あの女神こそが俺にとってのラスボスだ。

 

 城から脱出すると、そこにはフォルテやエルマたちが待機していた。

 それに、救出したエルレインもいる。

 

 火炎魔法が城の一部に直撃し、凄まじい音と共にさく裂する。

 城の塔が衝撃で無残に崩れ落ちていった。


「これでいいか」

「どうしましたの、レヴォスはん。なんで城を?!」

 

 キリノが目を丸くして聞いてくる。


「こうすれば、王都の民も避難するだろう。後はそれぞれの意思次第だがな。それより、俺たちも王都から出るぞ。さっさと馬車に乗れ」

「ま、待ってくれなはれ~!」

 

 俺はこういった緊急事態に備え、逃走用の馬車を多数用意してある。

 そのままアイリスやキリノを連れ、王都に待機していたメンバーを含めてグリンベルへと帰還した。


 ……全く、これからどうなるというのだ。

 

 ——————

 

 グリンベルでの作戦会議。


「こいつが、エルレインだ」


 俺が皆にエルレインを紹介した。


「……」


 状況を把握できず、エルレインはただ怯えたように目を泳がせている。

 

「お兄ちゃん! ほら、さっさと挨拶して!」


 エルマがエルレインの頭を思い切り殴り、挨拶を促す。

 殴られたエルレインが「うぐっ!」と、情けない悲鳴を上げた。


「ど、ども……エルレイン、です……」


 俺はエルレインにグリンベルの事を伝え、グリンベルの者たちには王都で起きた事を説明した。

 

 エルレインを救出できた事。

 だが、王や公爵とエルヴァンディア帝国が死に絶えて崩壊し始めた事。

 何より王を殺した人の姿をした『化け物』が、触手を操り人間を配下にしてしまう事だ。


 呆然と立ち尽くし、話を聞くグリンベルの民たち。

 強国エルヴァンディア帝国が、たった一瞬の内に崩壊したのだ。

 しかも、たった一体の『化け物』のせいで。


 さすがに今回は状況の変化が大きすぎた。

 王に加えて、父たち公爵や騎士団長まで死ぬとは。

 そして、何よりイレギュラーなのは女神の出現だ。


「ミサミサ。あの『化け物』の正体は何か知っているか?」

「いや、我も分からん……しかし、そんな化け物が王都に潜んでいようとはな」

 

 数百年を生きる大精霊ミサミサ。

 ならば何かを知っているかもしれないと思ったが、女神については全く知らないらしい。


 チュートリアル的な役割だったり、次に行く場所を教えてくれたりする。

 混沌とした世界を正してほしいと願う神。

 それに神という名称が、そういう存在なのだと勝手に認識していた。

 それ以上の追求は無かった自分に、少しばかり腹が立つ。

 

 チュートリアル的な役割だったり、次に行く場所を教えてくれたり……

 混沌とした世界を正してほしいという神。

 それにその神という名称が、そういう存在なのだと認識してしまいそれ以上の追求は無かった。


 ここまで帝国が壊滅するとは想定外だったが、想定外が起きるという『想定内』でもある。

 不安に陥って震える民の前で、俺は力強く声高に叫んだ。


「王や公爵、民を殺した異形の者。今から、その悪の存在を『魔王』と名付ける。明日、我らの存在を脅かす『魔王』を討つ!」


 「おおお!」と、歓声を上げるグリンベルの民。

 だが、女神を実際に見た者たちの反応はひどく悪い。

 

 なぜなら、あの女神を本当に倒せるのか自信が無いのだろう。

 絶望に顔を歪める者たちを見て、俺は口角を上げた。

 だからこそ、こいつを助けたのだ。


「エルレイン、こっちに来い」

「え? お、俺か?」


 おどおどと皆の前に進み出るエルレイン。


「この剣を持ってみろ」

「え、ああ……分かった」


 聖剣クラウトソラスを、エルレインの手に握らせる。

 すると、目を開けていられないほど眩く輝く聖剣。

 『エル』の血が、聖剣クラウトソラスに本来の強大な力を与えたのだ。

 

「皆の者よ、見ろ! その『魔王』を倒す、救世主である『勇者』のエルレインを! 聖剣の白き輝きこそが、『魔王』を討つのだ!」


「うおおおおお!!」


 目の前の奇跡に、大歓声を上げる民衆。


 勝算は、有る。

 聖剣などという名前をしているが、実際の所、この剣の効果は神聖なものではない。

 

 『エル』一族専用の、人間以外の万物を殺すための特攻兵器。

 それが聖剣の効果なのだ。

 

 ……ならば、相手が女神だろうが必ず殺せるはずだ。

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