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第124話 『スワンプ』



「暑いな……」


 (ひたい)ににじむ汗を拭おうとするが、思うように身体が動かない。


 カジノ都市に到着し、ようやくホテルの広々としたキングサイズベッドで寝ていた。

 しかし、なぜだ?

 なんで、俺のベッドに4人が寝ているんだ?

 

 左腕には、吸い付くように抱き着いて離れないクロエの感触。

 右側では、ルナリアが幸せそうな寝顔でしがみついている。

 

 それだけではない。

 身体の上には、魔族のジクナが猫のニャスパルを抱え込んだまま寝ていた。

 極めつけは、俺の頭を抱きかかえているルーシィだ。


 暑苦しい。

 四方八方を熱量のある肉体に囲まれ、身動き一つ取れない状況。

 

 そもそも猫のニャスパルが俺から離れないので、こうなってしまった。

 しかし寝なければ。

 不本意ながらも再び目を閉じる。


 明日には、極上のイベントが幕を上げる。

 少しの寝不足くらい、安い代償だろう。



 ――――――


 翌日の昼頃。

 ガゲルドとの約束の時間だ。

 

「レヴォス様。お連れの皆さま。こちらでございます」


 俺はカジノのオーナー、ガゲルドの案内で会場の中央へと足を踏み入れた。

 そこには、周囲に威圧感を放つ巨大なスロット台、『スワンプ』が鎮座していた。


「ふむ。これが、俺がジャックポットを引き当てるという舞台か」

「はい! 盛大に、かつ劇的に演出させていただきます! ……ただ、最初から当たりでは不自然ですので、少しの間、遊んでいただければと……」


 なるほど。八百長を隠すための小細工か。

 

「構わん。好きにしろ。だが、実際に打つのは俺ではない。連れのコイツだ」


 そう言って、俺の横にいたルーシィを指し示す。

 ルーシィは『スワンプ』に目を輝かせていた。

 

「ええ、どうぞどうぞ! ……では、公爵家の方が遊ばれると、周囲にお触れを出しても?」

「ああ。好きなだけ客寄せに使え」

「ありがとうございます! そうさせて頂きます!」


 ガゲルドは、最高のカモを捕まえたと言わんばかりの喜びようで、足早に部下へ指示を出しに行った。

 欲に目がくらんだ愚か者め。

 お前が呼び集めた観衆こそが、お前の破滅を見届ける立会人になるのだ。


「なあなあ! 本当に、私がこんな凄い台を打ってもいいのか!?」


 ルーシィが興奮のあまり、俺の服の袖をグイグイと引っ張る。

 スロット台を前にして、ルーシィのスイッチは完全に振り切れているようだ。

 

「ああ。俺が金を出す。好きなだけ遊べ」

「うっひょお! やるぞ、絶対にやってやるぞ! 今まで負けた分、絶対に取り戻すからな!」

 

 ルーシィが鼻息を荒くして台に座ると、『スワンプ』のリールが轟音と共に回り始めた。

 その爆音に引き寄せられるように、野次馬たちが次々と集まってくる。

 

「おい、あの『スワンプ』に挑戦してる奴がいるぞ」

「正気か? レートが1000倍だぞ。一瞬で大金が消えるって噂だ」

「どうせ、あいつらも大損するんだろうよ」


 観衆たちは、無責任な囁きを交わしながらニヤニヤと成り行きを見守っている。

 

 だが、その通りだ。

 今回、俺はこの台で『大損』をするためにわざわざ来たのだ。

 この盛大な敗北こそが、ガゲルドを絶望の淵へ叩き落とし、このカジノを奪い取るための決定打となる。


「だあああ! カスリもしねぇぞ! どうなってんだよ!」


 ルーシィが既に我を忘れてプレイしている。

 俺たちは、用意された特等席のソファに深く腰掛け、その無様な様子を優雅に眺めていた。


「レヴォス様、大丈夫でしょうか……?」


 執事フォルテが、俺に心配そうに耳打ちしてきた

 無理もない。

 フォルテたちには、この八百長の事を言っていないのだから。


「心配するな、フォルテ。お前はただ、目の前の喜劇を楽しんでいればいい」

「……畏まりました」

 

 フォルテ以外の面々は、煌びやかな光と爆音を放つ『スワンプ』の演出に、すっかり心を奪われているようだった。

 

 『スワンプ』の演出は派手だ。

 例えハズレても、まるで大当たりしたように爆音が響き、パネルが七色に光る。

 その偽りの期待感が、さらに群衆の興奮を煽り、カジノ全体の熱量を引き上げていく。

 

「当たれ! 当たれよおお!」


 ルーシィがイラつきながら、スロット台のボタンを叩く。

 そもそも、当たるはずが無い。

 お前は『アンラッキー・ルーシィ』なのだから。


 ふと、遠巻きにこちらを伺うガゲルドに目をやった。

 あの男、明らかに動揺しているな。

 冷や汗を流し、落ち着きなく指を動かしている。


 予定であれば、とっくに大当たりを引いているはずなのだろう。

 しかし何故か、『スワンプ』が当たりにならない。


 そして、ひたすら金が消えていく。

 何せ1000倍のレートだ。

 金が尽きるのも一瞬。


「最後の1回! 当たれぇぇ!!」


 ルーシィが、魂を削り出すような叫び声を上げレバーを引いた。

 リールが回転し、止まる。

 タン、タン、タン。

 残酷なまでに完璧なリズムで、バラバラの出目が揃った。

 

 予算は尽きた。

 予定通り、終わりだ。


「くっそぉ! なんでだよおおおおお!! どおじでだよおおおおお!!」


 フロアに、ルーシィの絶叫が響く。

 ルーシィは、まるでこの世の終わりを見たかのように椅子から崩れ落ち、床を拳で何度も叩きつけていた。

 

 実際にルーシィの賭け事への鬼気迫る感情を目の間にすると、少し引くな。

 隣を見ると、ルナリアたちがルーシィの姿に怯えて身を寄せ合っている。


 まあいい。一旦、終わりだ。

 俺はソファから立ち上がり、ゆっくりとルーシィの元へ歩み寄った。


「ルーシィ、残念だったな。今回は運がなかったようだ」


 俺はルーシィの肩をポンと叩いた。


「うっ……うう……ひっく……うわあああああん! もうお終いだぁぁ! 私の人生、お先真っ暗だぁぁ!!」


 ルーシィが、鼻水を垂らしながら子供のように泣きじゃくる。


「おい、泣くな。見苦しいぞ」

「だってぇ! あんなに、()()んだのに……!」

 

 ……こいつ、何を嘆いているんだ。

 今しがた吸い込まれた莫大な金は、全て『俺』の金だろうが。



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