第123話 付きあう?
「して、レヴォス様。補給する物資はどのような物がご入用でしょうか?」
カジノのオーナー、ガゲルドが揉み手しながら俺に尋ねる。
「補給したいのは食糧だ。俺は旅の途中だと、先ほど言ったはずだが?」
「は、はい! それはもう、重々承知しております! 量の方はどれほど必要でしょうか?」
「量か。貴様が提供できるすべてを持ってこい」
「す、すべてでございますか?! ええと、確認いたしますので、少々お待ちください!」
俺の注文に驚愕したガゲルドが、慌てて近くのバトラーを呼び寄せた。
ガゲルドたちは必死に小声で相談しているようだが、筒抜けで聞こえてくる。
「公爵家様に、いかほど用意できるのだ!?」
「あまり用意は出来ないかと……しかし、四日後に食糧の配達が来ますので、それ以降であれば……」
「四日後に来るんだな!? で、では今出せるだけ提供して差し上げろ! カジノで提供する食事は切り詰めるんだ! わかったな!」
「は、はい!」
ガゲルドとバトラーの会話を聞く限り、このカジノ都市もちょうど食糧が尽きかけているらしい。
都市といいながら、自給率はほぼゼロ。
外から食糧なり、必要なものを持ってこなければいけない危うい都市。
……素晴らしい。
俺にとっては好都合だ。
ガゲルドは、にこにこと気持ちの悪い笑顔で俺に歩み寄って来る。
「レヴォス様。ご用意できるかと思います!」
「そうか。俺の馬車が預けている厩舎まで、全て運び込んでおけ」
「承知しました! 明日中には、対応させて頂きますので!」
俺は傲慢に頷き、横の席に座っているルーシィへと視線を向けた。
「おい、ルーシィ」
「ひゃい!」
まだ口の中に菓子を詰め込んでいるルーシィが、情けない声を上げて飛び跳ねる。
「お前が前にカジノで勝ったのは何日前だ?」
「えっ? えーっと……確か二日前ですけど……」
「それから、一切賭け事に勝っていないのだな?」
俺の再三の確認に、ルーシィはコクコクと何度も頷く。
二日前か。
となると、ルーシィの特殊能力『必勝』を発動できるのは明後日だな。
「ガゲルド、俺のための余興について明日やるぞ。今日は、個人的に楽しませてもらうとする」
「は、はい! 明日の為に準備をしておきます! ぜひ、ごゆるりとご堪能ください!」
それを聞き、俺は横にいるルーシィの首根っこを掴んで特別室を後にした。
背後では、ガゲルドやメイドにバトラーが深々と頭を下げている。
まず最初にすることは……ルーシィの紹介だな。
ルナリアたちは、すでに部屋に戻っているだろう。
「ルーシィ、ついてこい」
「え、あ、はい……!」
俺はカジノから出てホテルへと戻った。
ホテルの無駄に豪華な廊下を歩き、自室へと向かう。
そして自室の扉。
部屋の前に着き、鍵を開けて部屋に進み入った。
だが、後ろにいたはずのルーシィが部屋に入ってこない。
ドアの前で石のように固まり、突っ立っているのだ。
「どうした、さっさと入ってこい」
俺が促すと、ルーシィは肩をビクンと震わせた。
「あ、あの……私なんかが、こんな立派なところに入っていいんですか……?」
「ああ、問題無い。入れ」
ルーシィは、まるで罠にかかるのを恐れる獣のような足取りで、おそるおそる部屋へと入ってきた。
「フォルテ、いるか」
声を掛けても、静寂が返ってくるだけ。
フォルテたちは、まだ部屋に戻っていない様だ。
俺は構わず、広々としたリビングへと進む。
今回のホテルの部屋は、複数の寝室を備えた最高級のスイートだ。
中央のリビングは共用で、キッチンも完備されている。
「わ、私……男の人の部屋に入ったの、初めてです……」
ルーシィが頬を赤らめ、もじもじと指を動かしながら呟く。
期待と不安が入り混じったようなその様子に、俺は鼻で笑った。
最高級のスイートというのは一般人に無理ゆえ、豪奢な造りに驚いているのだろう。
「……そうか。まあ、その辺に座っていろ」
「は、はい……!」
ルーシィが借りてきた猫のようにソファの端に座った、その時だった。
ガチャリと鍵が回り、扉が開く。
フォルテやルナリアたちが帰ってきたようだ。
「レヴォス様、先にお帰りでしたか」
「ああ。フォルテ、ご苦労だったな」
「勿体なきお言葉に存じます。……して、そのお方は?」
フォルテの視線が、俺の後ろに隠れているルーシィを捉えた。
ルナリア、クロエ、そしてジクナも、一様に不審そうな目を向けてくる。
「こいつはルーシィだ。おい、ルーシィ。挨拶しろ」
俺が催促すると、ルーシィは皆の視線に耐えかねたのか、顔を真っ赤にしている。
ルーシィは緊張のあまりか、膝がガクガクと震えていた。
「え、えとあの……私、ルーシィです……! こちらのレヴォスさんと、お、お付き合いさせて頂いてます……!」
「「「 ……はっ? 」」」
皆の言葉が重なった。
こいつ、いきなり何を言ってるんだ?
お付き合い?
「おいルーシィ。俺がいつ、お前と付き合うことになったんだ?」
「え? だって、さっきレヴォスさんが私に言ってましたよね……? 『付きあえ』って……」
付きあえ……?
ああ、カジノの特別室へ向かう際か。
確かに俺は「付きあえ」と命じた。だが、それは「同行しろ」という意味だ。
それを恋愛感情の「付き合い」と履き違えるとは……救いようのない勘違いだな。
「お前なぁ――」
「ど、どういうことですか、レヴォス様ぁぁ!!」
俺の言葉を遮り、ルナリアの絶叫が鼓膜を突き破らんばかりに響き渡る。
「私たちが居ない間に、こんな知らない女を部屋に連れ込んで……一体どういうつもりですか!?」
クロエもまた、怒りのせいか唇を噛み締め、同じように叫ぶ。
その瞳には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
たしかに、俺も公爵家として浅はかだったかもしれん。
皆の言葉は、俺が『公爵家としての身構えがたるんでいる』という叱りの言葉なのだろう。
そもそもルーシィの勘違いだが……
しかも今回は俺の単独の旅ではないので、勝手な行動をするつもりもない。
皆と共に行動しているのだ。その自覚はある。
「待て、お前ら。お前らは勘違いをしているぞ。お前らがいて、俺がそんな事をするはずがないだろうが」
俺が冷徹なトーンで言い放つと、ルナリアとクロエはピタリと動きを止めた。
「……まあ、たしかにそうですよね。私という者がありながら、レヴォス様がそんな事をするはず無いですよね!」
ルナリアは途端に表情を輝かせ、自信満々に胸を張る。
「そ、そうですね。ふふ、レヴォス様の膝を借りた私としたことが取り乱しました。失礼いたしました」
クロエもまた、優雅に微笑みながら乱れた髪を整えた。
……とりあえず、勘違いだと理解したという事か?
微妙によく分からない発言が混ざっている気がするが、収まったのならそれでいい。




