七十八【魔人化 Ⅴ】
さすがのクロウも致命傷を負って胸を押さえ蹲っていると、至る方向から車や人が突如現れクロウを囲み全員銃を構えた。
エドガーはこの者達が何者なのか、何処かの組織の者なのかと様子を伺うが、離れているため人数がざっと二十人程ということまでしか分からない。
中には子供の姿もちらほら見受けられる。
大概このような者達と同行している子供は、皆能力持ちの人外種。
クロウに石を飛ばした人外種の仲間なのだろうか。
それよりも、この者達は場が静まりクロウが動きを止めたタイミングを見計らって出て来たようだが、これ程の人数が近くにいたのにクロウがこの場所へ来てから気付かない訳がない。
考えられるとすれば、クロウの生命力が弱ってしまい感知能力が鈍ったのか、人外種の能力で気配すら隠されていたのか。
どちらにせよ、クロウファミリーは非常に危うい状況となってしまった。
胸を撃たれたクロウも、いつの間にか膝を地面について蹲ってしまっている。
「体力がなけりゃこんなもんかよ。
情報通り来て正解だったな……おい!
隠れてんのは分かってんだ!全員出て来ねぇとこいつの頭を吹っ飛ばすぞ!!」
情報とはどのような情報が何処から流れたのだろう。
クロウファミリーがクロウの暴走から回避するために隠れていることを相手は知っていた。
何処からか見ていたのだろうが、クロウに銃を突きつけて恵華達に姿を見せるように言うが、この集団の目的が分からない。
クロウを殺すつもりで来たのならばすぐに殺せばよいものを、そうはしないとなるとクロウファミリー全員を殺すつもりなのだろうか。
幹部だけならともかく、何人もの部下達も隠れている中で迂闊な行動をとってしまうと、殺されるか人質となってしまう危険がある。
この者達を取り囲むように隠れているクロウファミリーは、なんとか一斉射撃で一網打尽としたいところなのだが、中央にはクロウがいる。
普段であるなら限界突破や不慣れな魔法も使えるので銃弾の雨からも容易く逃れてくれるのだが、今はそれが叶わない状況。
どうするかと瞬時にエドガーを始めにトランシーバーでやり取りをして、銃器を何も持たず一番動ける恵華が一人で出ていくこととなった。
「クロ様の様子がおかしい……恵華が行ってきます!」
いつもなら超人なる治癒力ですぐに回復するクロウが、いつまでも蹲ったまま動かないのがおかしい。
恵華はグラビティ・ウォールを身につけているため、銃弾など重力に引っかかる物であれば受け止めて弾くことができる。
それでも周りは不安であったが、とにかくクロウを助けたい一心で名乗り出た恵華に任すことになった。
なんとかクロウの所までたどり着ければグラビティ・ウォールを発動させて守り、全員で一斉射撃を行える。
たとえ人外種に邪魔せれようとも少しの隙さえ作る事ができれば、誰かがクロウを遠ざける事ができるはず。
恵華は両手を頭の横まで上げながら一人で出て行った。
「お前……ブランドンの犬だな。
奴から離れたのは知ってたが……まさかこいつに付いてたとはな」
「!?」
クロウに銃を突きつけている者達の数人は恵華を知っていた。
しかし、これでこの者達の正体が明るみとなった。
やはりマフィア組織の構成員。
しかも、恵華を見て"ブランドンの犬"と言ったということは、一時期常にブランドンと行動を共にしていたのを知っているという事になる。
しかし、ブランドンと共に表に出ることはあったが、他の組織の者の目に触れる場所にはほとんど行くことはなかった。
おそらくは、過去に一度だけ緊急時に各地のマフィアのトップが集まり各々の政府情報交換が行われる機密会合が行われた事があり、その時であろうと恵華は考えた。
それでも五つの組織が集まるということで、どこも数人の部下を引き連れ来ていた。
恵華はブランドンから離れず傍におかれていたのだが、それぞれの構成員は会合が行われた建物の中と外と、バラバラに警備配置につかされていたため何処の組織が恵華を見ていたのかは分からない。
「何処のどなたかは知りませんが、もう帰りますんで銃を下ろしてもらえませんか?」
「……」
この状況で笑顔を浮かべながら話す恵華に一人の男がクロウに向けていた銃を恵華の方へ構えだし、隠れている者全員出てくるように言ったはずが、一人だけ姿を現したことに疑問を抱いた男は恵華に向けている銃を発砲した。
[ヴゥゥーーン……]
グラビティ・ウォールを発動させ、銃弾は恵華の目の前で止まりゆっくりと地面に落ちた。
「……フン。
お前は人外なのか?」
男は分かっていたかのように鼻で笑うと、振り返ってクロウの元へ歩いて行った。
この者達は先程までの抗争を何処からか監視していたことから、今の発砲は恵華のグラビティ・ウォールを試しただけなのだろう。
しかし、それによってこちらの思惑が悟られてしまったようだった。
男は蹲っているクロウの正面立つと、頭に軽く前蹴りをして踏みにじるように足で擦り始めた。
「銃が効かないガキだけ出して何考えてるか知らねぇが、ナメてんじゃねぇぞ!!」
[ガスンッ!]
クロウは顔を蹴り上げられ、背中から地面に倒れてしまった。
そして、それが合図だったかのように周りに散らばっていた人外種と思われる子供達が一斉にクロウへ襲いかかった。




