七十七【魔人化 Ⅳ】
何処で何をやっていたかは話さなかったようが、クロウは時々長らくアジトを離れて単独行動していた。
ひどく疲労して帰って来るなり、組織内での派閥同士の抗争や政府の陰謀からなる人外種との戦いが連日連戦であったがために疲労困憊であった。
にも関わらず、クロウはブランドンから下された仕事を休まずに続けていた。
しっかりと休養を取れば良かったのだが、人外種が関わる事にはクロウは不可欠。
他の者だけで対処させる訳にはいかなったからだ。
そしてあの日、人外種が多く絡んでいると言われたとある大きな仕事を受け、クロウファミリーの全員で現場に向かう事となった。
それは幹部だけでなく、アジトに居るクロウに付いてきた部下達全員で向かうことに。
しかし、相手は話し合いにも応じずクロウのイラ立つ姿を見て、すぐに撃ち合いに発展してしまう。
「うるあぁぁぁー!!」
銃弾の雨の中で、クロウは特殊能力の限界突破使い相手を潰しまわり無双状態となっていたのだが、蓄積された疲労と特殊能力による生命力の激減で体の自由が利かなくなってしまった。
すると、魔法はもちろん特殊能力の発動もできなくなってしまい、持っていた銃で応戦していた。
それでも相手の人数が多過ぎる上に銃の効かない人外種もいた。
クロウは体力の限界の中で特殊能力を使ったせいか、気付くと目や耳、鼻から血が流れ出ていた。
「目から血が……銃をよこせ!!」
持っていた銃が弾切れとなってしまい、部下からマシンガンを受け取ってなんとか凌ぐのだが、それでは時間稼ぎにしかならない。
クロウの力が発揮できないその状況では相手の戦力の方が明らかに上で、気付けば部下の中に死傷者が現れ始めていた。
いつもならクロウが魔法で守っているところなのだが、それができない状況に数人の部下を失う。
「くっ……やっぱり」
それだけでなく、銃弾の雨の中には人外種の特殊能力だと思われる真空の刃までもが飛び交っている状況であった。
そして事件は起こる。
切羽詰まった状況の中で、クロウは立つこともままならない脚に、ドクの部屋から勝手に持ち出していたL,B導入剤を打ち込んで無理矢理限界突破を引き出した挙句、自我崩壊し暴走してしまう。
それはブランドンファミリーのアジトへアンナを助けに行った時と同じような形であったが、この時は完全に理性を失ってしまっていた。
元々、L,B導入剤での限界突破には欠陥があり実用性に欠けていた。
筋力だけなら凄まじい力を発揮できるのだが、脳内は真っ白となってしまう。
薬の副作用なのか、脳が限界突破に付いていけずに一点ずつの単純な思考でしか物を考えられなくなってしまう。
故に、理性を保っていられる時間が毎回ばらつきがあったので、特殊能力を引き出す実験以外では容易に使うことができなかったようだ。
なので、ストップをかける為の鎮静剤とセットでなければいけない代物であり、ドクとアンナからは単独での持ち出しと使用を禁止されていた。
しかしその日、クロウがL,B導入剤を持ち出したことを誰も知らなかった。
疲れている自分が周りの荷物になるのを恐れてなのか、以前から疲れ切っている時は使用を極力控えるようにと言われていたからなのか、打ち込む直前までL,B導入剤を持って来ている事を伏せていた。
「もう駄目だ!脚だけでも使う!後で拾えよ!!」
それを見たエドガーが驚き「やめろ!」と叫んだが、クロウは言うことを聞かずに脚に打ち込んだ。
体の一部にL,B導入剤を促し、その部分だけ限界突破を発動させて脳に支障のないようにとの考えなのだろうが、部分的に限界突破を引き出せるなどエドガー達は聞いたことはなかった。
そして、周りは地獄を見てしまう。
すぐにクロウが理性を失っていることに逸早く気付いた恵華が皆に知らせ、クロウファミリー全員その場から遠ざかり隠れたのだが、辺りが血の海となるには時間はかからなかった。
クロウが落ち着くまで隠れているしかいかなくなり、どうしようもなくクロウを遠くから覗き見ていた。
すると、辺りの人間や人外種を全て皆殺しにし、敵がいなくなったにも関わらずにクロウは辺りを徘徊して敵を探している。
唸りながら歩くその姿は、まるでゾンビのようで恐ろしかったようだ。
何もやりようのない状況に薬の効力切れで勝手に気を失ってくれたりはしないかと思う恵華達だったのだが、そこでクロウの暴走乱舞から辛うじて生きのびた男が起き上がり余計なことをしてしまう。
その男は徘徊するクロウに悟られないようにゆっくりと起き上がり、地面に転がっている握り拳程の石をクロウへ向かって投げようとしていた。
どういうつもりなのか、クロウが歩いている場所まで距離があり、しかも深手を負った体では届くはずがなかった。
しかし、投げるのではなく石を持った手をクロウのいる方向へ真っ直ぐ差し出した。
[……ッドン!!]
その男は人外種だった。
石をクロウの方へ向けると手の平から爆発が起こり、その石はまるで銃弾のように飛んで行った。
触れた物に対して爆発を起こす能力なのか、物を吹き飛ばす能力なのかは分からないが、その特殊能力で飛ばされた石はクロウの右腕に直撃した。
「!?」
クロウは負傷した腕には気にもとめずに、爆発が起こった方向をジッと見始めた。
人外種の男は物陰に隠れているのだが、その方向から爆発が起こり攻撃を受けたことは明らかであったので、クロウはゆっくりと歩いて向かって行った。
やはり自分の能力ではクロウに致命傷を与えられない、到底かなわないと思い死を覚悟した。
歩み寄るクロウの足音がすぐそこまで近づいてくると、遠くから一発の銃声が聞こえた。
[ッパーン……]
「え?今のって何処からですか!?」
恵華達は辺りを見回していると、クロウの動きが止まっていることに気が付いた。
見ると、クロウ胸から大量の血が流れ出ていた。




