七十六【魔人化 Ⅲ】
「こりゃ〜良いぜ」
撃ち放った張本人が驚く程の魔力波は、リルルやミルルとは比べ物にならない程バカデカい砲撃。
辺りの地面は衝撃で破壊され消し飛んでしまっている程。
この世界の半分でも破壊しようとしているつもりなのかと怒りを抑えることができなくなったルシファーは、残り少ない魔力を使ってクロウの動きを止めようとした。
しかし、その必要はなかった。
「――虚光結界」
「あ!?」
ジハードの声と共に聖神気法による結界が、辺りが闇夜とは異質な暗闇に包み込まれると、放たれた魔力波とクロウの姿を消した。
ルシファーの魔力が残り少ないことに気づいたのか、ジハードはあえてクロウ以外は結界の外に出して一人で止める気なのだろうと思ったルシファーはその場から離れようとした。
すると、空から翼を広げたミルルが現れルシファーの元へ下りてきた。
「ガイア様ー!」
ここはタスリーフ国のある大陸だが、国からこの場所まで百キロメートル以上は離れている。
龍人族のミルルでも容易く来れる距離ではない。
「ミルル、なぜここに……一人で来たのか?」
「いえ、ジハード様の背中に乗せてもらいましたにゅっ!」
本来の姿に戻ったジハードの背中に乗ってこの場所まで来たようだ。
ミルルはルシファーをジハードから頼まれた事とここへ来た理由を話し、クロウが蹴り飛ばした人外の元へ歩いて行った。
――その時、結界内では熾烈な戦いとなっていた。
クロウの放った魔力波は、宇宙空間まで飛び出す程の威力だったが、とてつもなく広範囲に広がった結界内での破壊で終わっていた。
[ドーン!ドーン!ドーン……]
龍の姿で空中で構えるジハードに対し、クロウも魔法で空を飛びながら魔力弾を連発していた。
固めた小さな魔力を無数に放っているだけなのだが、魔人となったクロウの魔力攻撃は凄まじいもの。
米粒程の魔力弾だが、一つ一つが原子爆弾並の威力があり、ジハードでなければ跡形もなく消えてしまう。
突如現れたジハードに魔力波を無駄にされたクロウは怒り、そのまま結界を解除させようと魔法で攻撃を乱発していた。
すると、魔力弾の爆撃を聖神気法での防御壁で跳ね除けていたジハードは、突然地面へ向かって降下し始めた。
何かを企んでいると思ったクロウは、魔力弾でなく新たに魔力を練り始めた。
すると、両腕を頭上高く上げたクロウの手に、大きな魔力の玉が出現した。
徐々に大きく膨れ上がる魔力玉は、空を覆い隠す程に巨大に。
聖神気法での小細工など何も通用しないように全てを消し飛ばそうと考えるクロウは、これでもかと魔力を練り込んでいる。
「これは防げるか?」
魔力玉を投下しようと構えると、地面にゆっくりと着地したジハードは戦う気がないのか、龍の姿のジハードを紫色の光が包み込んだ。
その光が凝縮したように小さくなっていくと、ジハードは人型の姿となった。
すると、今まで大きな龍の体で隠れていた恵華とリルルが姿を見せた。
しかし、二人共様子がおかしく、地面に膝をついて苦しんでいた。
「!?」
二人の姿を見て驚いたクロウは動きが止まった。
「やはり……姿を見るまで気付かないとは」
二人は今までジハードの背に乗っていたようだが、姿が隠れて距離もあったため、肉眼で確認することができなかった。
しかし、それでもクロウが恵華とリルルの生命力に気付かないはずがない。
そもそも、いくら突然結界を張られて逆上したからといってもジハードへの攻撃も異常だった。
見たところ理性はあるようだが、どこかおかしい。
「……」
魔法を放つ前に止まったクロウだが、魔力玉を引っ込めようとはしていない。
すると、両腕で魔力玉を上げる片方の腕を前に出して恵華とリルルに魔法をかけ、強大すぎるクロウの魔力にあてられ死にそうになっている二人の体に魔力を跳ね除ける防御膜を張った。
「ゴホッゴホッ……。
ハハッ、本当の魔人化って恐ろしいのね。
近付いただけで呼吸ができなくなるなんて」
完全なる魔人化を目の当たりにしたリルルは、恐れながらも喜んでいた。
自分がした事がほんの少しのきっかけであったにせよ、クロウが魔人になれた事がリルルは嬉しかった。
しかしながら、なぜ二人をここへ連れて来たのか。リルルは無事に回復したようだが、なぜすぐに自分の元へ連れて来たのかとクロウは疑問に思いつつ固まっていた。
あの時と同じ目と髪……でも理性を保ってる!
「ハァ……ハァ……クロ様!恵華のこと分かりますか!?分かるならすぐに元のクロ様に戻ってください!」
恵華は息を切らしながら声を張り上げて宙に浮くクロウに魔人化を解けと求める。
クロウファミリーは、魔人化について知っているとルシファーから聞いていたのだが、それはクロウが記憶の欠落を起こす前。
その時についてクロウは恵華に話を聞こうと思っていたのだが、今はどうでも良くなっていた。
「リルル、体は平気なのか?」
「恵華のおかげで一瞬で治ったわ!それよりも、早く魔人化を解いて下りてきて!」
やはり、恵華の不思議な能力はリルルのボロボロの体を完全回復させた。
クロウは少し安心したのか、漆黒の眼球で凶悪な顔からも、口角が上がり穏やかな表情を見せた。
しかし、クロウは魔人化を解こうとはしなかった。
「ジハード!二人を結界から出せ!続きをやるぞ!!」
なぜかクロウはジハードと戦いたくてしょうがない様子。
ジハードはため息を吐き、仕方がないとそのままの姿で紫色に輝く聖神気法を身にまとい臨戦態勢に入った。
しかし、二人を結界から出していない。
このままでは戦いにくいと、クロウは再度結界から出すように言うが、ジハードは断った。
「そこまで戦いたいのでしたら相手になります。
ですが、二人をここに残したままというのが条件です」
なぜジハードがそのような提案を出すのか分からず、クロウは自力で結界を壊そうと魔法陣を展開させた。
すると、魔人化したクロウを止めに来たであろう恵華が前に出た。
「ちょっと待ってクロ様!!クロ様が恵華達の前でその姿になった時の事……記憶が無くなる前日のお話!聞きたくないですか!?」
「……」
恵華の言葉にクロウは魔法陣を消し、魔力玉を上空へ蹴り上げてゆっくりと恵華達の元まで下りて来た。
「記憶が飛ぶ前日?何で今そんな話する気になったんだよ?」
「……話しておかないといけないからです!!」
不思議とクロウファミリーの全員が話そうとしなかったクロウが忘れている過去の話。
「今となってはどうでも良いけど、話してみろ」
……?
今となっては?何か思い出せたってこと?
クロウが質問しても自分で思い出してほしいと言ってほとんど過去の事を語らなかった恵華。
しかしながら、クロウが魔人化したという非常事態と会話が可能な今、話すしかない思ったようだ。
恵華はクロウの記憶が欠落する前日に何があったのかを話し始めた。
それは、修行前にルシファーから見せられたこの世界でバカデカいクレーターを作った時の話だった。




