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七十九【魔人化 VI】

 飛び出て来たのは三人の子供。

 やはり人外種であった。

 負傷して動けないクロウへ人外種ならではの素早さと筋力で殴る蹴るの容赦ない猛攻撃。

 限界突破の能力が正常に発動しているのならば、そんな打撃も腕で防ぐことも可能なはず。

 しかしながら、何もできずに一瞬のうちにクロウは血だらけとなり半殺しにされてしまった。


「怪我が深い……それとも能力が?クロ様!!」


 L,B導入剤の効果が切れていると思われる上に動くことができない無抵抗のクロウが半殺しにされている姿に、恵華は思わず走りだし助けに向かって行ってしまった。

 すると、周りでクロウに銃を構える者の中の数人が向かって来る恵華へ全員銃を発砲し始めた。


「恵華!!……クソッ!

 お前ら!全員その場から恵華を援護しろ!

 撃て!!」


 エドガー達はやむを得ずに隠れている場所から恵華に発砲する者達を撃ち始めた。


「エドガー!クロウはどうする!?さすがにあいつもこのままじゃ……」


 クリス達は恵華を助けようと必死に銃を乱射するが、人外種に囲まれて攻撃を受け続けているクロウも心配であった。

 クロウは人外種相手に半殺しにされ、恵華は四方八方からの銃撃を受けている。

 恵華はグラビティ・ウォールを装備しているため負傷する心配はないのだが、グラビティ・ウォールは体の神経と繋がっているため、発動にはかなりの集中力が必要となる。

 数発の銃弾ならまだしも、乱射される銃弾を受け止め続けるには体の全神経を集中継続させるためにどうしても足を止めてしまうことになる。


 くっ……これじゃあ動けない……早くクロ様の所に行かないと!


 エドガー達の銃撃に相手も応戦し始めたのだが、一向に恵華への銃撃は止まず動くことができない。

 しかも、なぜかこちらの銃撃が全く当たらないことにエドガーは気付いた。

 遠距離からの狙撃だからとしても、それなりの人数で十分に狙いを定めている。


「何なんだこいつら!まるで全員グラビティ・ウォールを装備してるみたいじゃねぇか!これは……人外の能力しかありえねぇだろ!」


 クロウを囲んでいる一人の能力なのか、他にも人外種が何処かに潜んでいるのか分からないが、銃を構えているどの者にも撃った銃弾は弾かれてしまっていた。


「クソッ!どうすれば……」


 人外種がクロウに襲いかかった時点で当初の作戦はほぼ中倒れ。

 続けて一番動きが素早くファミリーの中で唯一グラビティ・ウォールを扱える恵華が足止めを受けるのは非常にまずい。


 クロウはやられ、恵華は身動きが取れなくなり、一斉射撃によって幹部を含めた全員の隠れていた場所が明るみとなってしまった。

 進退窮(しんたいきわ)まった状態に為す術をなくし、当たらぬ銃を乱射しているだけ。

 すると、銃弾を防ぐだけの防戦一方だった恵華が動きだした。


「スゥー……フゥー……」


 グラビティ・ウォールが途切れないように全神経を注ぎ、大きく深呼吸を繰り返しながらクロウの元へ一歩ずつ歩きだした。

 それに対してエドガー達に応戦していた者達が気付き、追い討ちをかけるかようにマシンガンまで取り出し標的を恵華に変えて撃ち始める。

 その場にいるほとんどの者が恵華を狙い、エドガー達は野ざらし状態となった。


「恵華!!

 どうする……どうすればいいんだ!

 あいつらに銃は効かない……だったら!!」


 何か腹を決めたエドガーは、すぐにトランシーバーで仲間と連絡を取り合い、全員隠れていた場所から移動を始めた。

 恵華に注意が向いている今、隠れながら移動するエドガー達を追う者はいない。

 一歩ずつ着実に人外種に囲まれているクロウの元へ歩いて近づく恵華は、あと数メートルの所まで来ていた。

 しかし、限界も近づいてきていた。


[ツー……]


 恵華の両目と耳から血が流れ、歩く速度が落ち始めた。

 それでも、恵華は足を止めない。

 これは長時間使い続けた結果であることを分かっているからである。

 全神経をグラビティ・ウォールに集中し続けると、どうしても血管にダメージが入ってしまう。


 グラビティ・ウォールはドクが開発した"反重力発生装置"。

 クロウファミリーの中で装備できるのは唯一恵華だけ。

 人並み外れた鋭敏な神経、何事にも器用に熟す身体能力を持つ恵華だからこそ扱える代物。

 それでも長時間に渡る使用は負担が大きく危険であった。

 恵華なりのグラビティ・ウォールを発動させる"感覚"があるのだが、集中が途切れてその感覚を見失ってしまうと、自分で調節していた重力が思わぬ方向へ傾く恐れがある。

 そうなると、体外ではなく体内でグラビティ・ウォールを発動させてしまい、自分の骨から皮膚まで吹き飛ばしてしまうか潰してしまう可能性がある。


 そうでなくても、長時間使うことにより感覚にズレが生じ、今の状態のように脳に近い血管が破れて血が流れてしまうようなこともあるのだ。

 そんな危険があるのにも構わず、恵華は一歩一歩クロウの元へ歩き続けた。


「なんなんだこのガキはー!!

 おい、風使い!あの女を吹き飛ばせ!!」


 普通ならば疾うに蜂の巣状態になる銃撃の中を着実に向かってくる恵華に痺れを切らした男が、クロウを囲っている一人の人外種に命令を下した。


 すると、一人の子供がクロウへの攻撃の手を止めてゆっくりと歩いて男達に並びだした。

 外見は何処にでもいるようなただの人間の子供。

 けれども人外種に大人も子供も関係はない。

 普通の人間はない身体能力を持ち合わせ、中には幼児期に特殊能力が覚醒する者もいる。

 前方に子供が来たことに気付いた恵華は足を止めた。

 この子供が人外種なのはクロウへの打撃を見て分かっているのだが、どのような能力持ちかは分からない。


「くっ……」


 恵華は更に焦りだす。

 それは、この状態での回避は自殺行為でもあるからだ。

 人外種の能力が重力に引っかかる"物"であればこのままなんとか凌げられるかもしれないのだが、そうでなければどうしても避けるという行動に移さなければならない。

 そうなればグラビティ・ウォールを解除する事になるが、同時に全ての銃弾を受ける事となってしまう。


 やるしかないよね……!?


「オラァァァ!!」


 八方塞がりだと思っていたその時、恵華に向かい銃を乱射していた者達の影からクロウファミリーが一斉に飛び出した。

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