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第7話 百十歳、最初の商品を見つけます

町から戻った翌日。


 わしは朝から考えていた。


(売れるものは何じゃ)


 孤児院には金がない。


 土地の問題。


 期限は一ヶ月。


 そして。


 わしは赤ん坊。


(条件が悪すぎるのう)


 前世なら。


 資金。


 人員。


 設備。


 信用。


 どれか一つでもあれば。


 何とかしようがあった。


 だが。


 今のわしには。


 何もない。


 いや。


(本当に何もないか?)


 孤児院を見渡す。


 古い建物。


 十人近い子供たち。


 森。


 セレナ。


 薪。


 古い工具。


 そして。


 昨日見た町。


(資源はある)


 金がないだけだ。


 商売とは。


 何もないところから。


 価値を作ることではない。


 すでにある価値を。


 見つけることだ。


(さて)


 何がある。


 何ができる。


 何を町の人間が欲しがっている。


 そこから考える。


     ◇


「レオン、今日も掃除する?」


 ミナが聞いてきた。


(掃除はする)


 だが。


 今日は。


 それだけではない。


「あぅ!」


 わしは。


 窓の外を指差した。


「外?」


「あぅ」


「遊びたいの?」


(違う)


 またか。


 わしは首を振る。


「じゃあ何?」


 ミナ。


 ロイ。


 リリ。


 三人が集まる。


(都合がいい)


 わしは。


 森を指差す。


「あぅ!」


「森?」


(そう)


 次。


 手を。


 何かを拾うように動かす。


「……拾う?」


(そう!)


「あぅ!」


 ロイが眉をひそめる。


「森で何か拾いたいの?」


(そうじゃ)


「木の実?」


 ミナ。


(近い)


 わしは頷く。


「やっぱり!」


(しかし木の実だけではない)


 森には。


 昨日。


 町で見た。


 売り物になりそうなものがある。


 薬草。


 木の実。


 樹脂。


 香草。


 干せる果実。


 薪。


 それから。


(あれじゃ)


 昨日。


 孤児院へ帰る途中。


 森の端で。


 妙な草を見つけた。


 葉を揉むと。


 強い香り。


 油分。


 そして。


 虫が寄ってこなかった。


(前世なら、清掃用品か防虫剤に使えそうな臭いじゃった)


 もちろん。


 この世界で。


 どう使われているかは分からない。


 だが。


 町では。


 香りのある油。


 薬草。


 石鹸。


 そういった日用品が。


 比較的高かった。


(なら)


 原料として。


 価値がある可能性はある。


 問題は。


 それを。


 どうやって説明するか。


(赤ん坊、不便すぎるじゃろ)


     ◇


「先生に聞いてみよう」


 ロイが言った。


(それが早い)


 セレナ。


 この森のことなら。


 かなり詳しいはずだ。


 弓。


 狩り。


 薬草。


 それから。


 何年。


 いや。


 どれくらいここに住んでいるのかは知らないが。


 森に慣れすぎている。


「先生ー!」


 ミナが呼ぶ。


 セレナが。


 奥の部屋から出てきた。


「何?」


「レオンが森に行きたいって」


「赤ちゃんが?」


(その言い方やめんか)


 セレナが。


 わしを見る。


「また何か企んでる顔ね」


(失礼な)


「あぅ」


「で?」


 ロイが説明する。


「何か拾いたいみたい」


「木の実とか?」


(やはりそうなるか)


 セレナが。


 少し考える。


「今日は近場ならいいよ」


「やった!」


「ただし」


 セレナの声が低くなる。


「森の奥には行かない」


「分かってる」


「最近、魔物が増えてるから」


(昨日も言っとったな)


 森の魔物。


 増えている。


 これも。


 少し気になる。


 だが。


 今は商売だ。


     ◇


 森。


 セレナ。


 ロイ。


 ミナ。


 リリ。


 そして。


 わし。


 抱っこ担当は。


 セレナ。


(楽ではある)


 わしは。


 森の中を見渡す。


 昨日の草。


 どこじゃ。


「木の実あった!」


 ミナが。


 赤い実を拾う。


「それは食べられる」


 セレナ。


「売れる?」


「安い」


(却下じゃな)


 ロイが。


 別の草を見る。


「これは?」


「薬草」


(お)


「高い?」


「普通」


(悪くはない)


「でも」


 セレナが続ける。


「乾燥させないと売れない」


(なるほど)


 手間。


 時間。


 保存。


 必要。


 それはそれで。


 悪くない。


 だが。


(もっと単価が欲しい)


 期限一ヶ月。


 少額を積み上げるだけでは。


 間に合わない可能性が高い。


 そして。


 見つけた。


(あれじゃ)


 木の根元。


 細長い葉。


 少し青みが強い。


 わしは。


 全力で指差す。


「あぅ!」


「ん?」


 セレナが立ち止まる。


「あぅ!」


「これ?」


(そう!)


 セレナが。


 草を一本摘む。


「……虫除け草?」


(名前そのままじゃな)


 葉を揉む。


 強い香り。


(やはり)


 セレナが。


 少し眉をひそめる。


「これがどうしたの?」


(値段じゃ!)


「あぅ!」


「食べられないよ」


(知っとる)


「毒もないけど」


(それも分かった)


「何に使うの?」


(それを聞いとるんじゃ)


 わしは。


 両手を擦る。


 そして。


 昨日見た。


 石鹸を思い出す。


 手を洗うような仕草。


 ミナが。


「手?」


(近い)


 次。


 虫を払うように。


 手を振る。


「虫?」


(そう!)


 セレナが。


 少し考える。


「……虫除け?」


「あぅ!」


「これで?」


(そうじゃ!)


 セレナが。


 草を見る。


「確かに虫は嫌うけど」


 そこで。


 言葉を止める。


「でも」


(ん?)


「これ、普通に森に生えてるよ」


(それは分かっとる)


「売れないと思う」


(なぜじゃ)


「みんな知ってるから」


(なるほど)


 そこか。


 価値がない。


 のではない。


 珍しくない。


 だから。


 そのままでは売れない。


(なら加工じゃ)


 原料として。


 そのまま売るのではなく。


 使いやすい形にする。


 前世。


 清掃業。


 日用品。


 同じことを。


 何度も見てきた。


 雑巾。


 洗剤。


 ワックス。


 消臭剤。


 中身は。


 それほど特殊でなくても。


 使いやすさ。


 保存性。


 見た目。


 そこに。


 価値が生まれる。


(これじゃ)


 わしは。


 草を指差す。


 次。


 袋。


 瓶。


 縛る。


 吊るす。


 必死に。


 身振り。


「…………」


 ロイが。


 真剣に見る。


「これを」


 草。


「束にして」


(そう)


「吊るす?」


(惜しい)


 リリが。


 ぽつり。


「乾かす?」


(それじゃ!)


「あぅ!」


 セレナが。


 わしを見る。


「乾燥させたいの?」


(そう)


「なんで?」


(そこからじゃ)


 乾燥。


 粉砕。


 布袋。


 香り。


 虫除け。


 保存。


 この流れを。


 赤ん坊が。


 説明しなければならない。


(無理じゃろ)


 わしは。


 頭を抱えたかった。


     ◇


 孤児院へ戻る。


 虫除け草。


 大量。


 ついでに。


 薬草。


 木の実。


 香草。


 色々。


「先生」


 ロイ。


「これ全部どうするの?」


「レオンに聞いて」


(無茶を言うな)


 ミナが。


 わしを見る。


「どうするの?」


(まず洗う)


 わしは。


 水桶を指差す。


「あ」


 ロイ。


「洗う?」


「あぅ!」


「その後?」


 次。


 布。


 並べる。


 指。


 外。


 太陽。


「乾かす?」


(そう!)


「あぅ!」


「レオン、本当に何か作るつもりじゃない?」


 ミナが笑う。


(その通りじゃ)


 セレナは。


 わしを。


 じっと見ている。


「…………」


(何じゃ)


「あなた」


 一拍。


「やっぱり普通じゃないわね」


(今さらか)


「あぅ」


「まあいいけど」


(いいんかい)


     ◇


 夕方。


 草を洗う。


 乾かす。


 それだけ。


 子供たちは。


 だんだん飽きる。


「これ本当に意味ある?」


 ミナ。


(ある)


「遊びたい」


(分かる)


「もう疲れた」


(それも分かる)


 前世。


 社員教育。


 何度もやった。


 単純作業。


 続けるのは。


 難しい。


(なら)


 楽しくする。


 役割。


 競争。


 数字。


 目標。


 わしは。


 ロイを指差す。


 次。


 ミナ。


 次。


 リリ。


 三人。


 それぞれ。


 別の籠。


「あ?」


 ロイ。


「分ける?」


(そう)


 そして。


 数を数える仕草。


「競争?」


 ミナの目が。


 光る。


(食いついた)


「誰が一番いっぱい集められるか!」


(そうそう)


「やる!」


 ロイが。


 ため息。


「単純だな」


「ロイもやるでしょ?」


「……やる」


 リリ。


「一番になる」


(意外と負けず嫌いじゃな)


 作業速度。


 一気に上がる。


(人間というのは面白い)


 同じ仕事。


 でも。


 見せ方一つで。


 動きは変わる。


     ◇


 夜。


 乾燥中の草。


 籠。


 三つ。


 ミナ。


 一位。


 ロイ。


 二位。


 リリ。


 三位。


「やったー!」


 ミナが喜ぶ。


「次は負けない」


 リリ。


 静かに燃えている。


(怖いのう)


 セレナは。


 そんな子供たちを見て。


 少し笑う。


「今日はよく働いたね」


「レオンがやれって!」


(また売るな)


「そう」


 セレナ。


 わしを見る。


 笑う。


「小さい監督さん」


(誰が監督じゃ)


 いや。


 実際。


 監督している。


「でも」


 セレナ。


 乾燥中の草を見る。


「これ、何にするつもり?」


(そこじゃ)


 明日。


 乾燥。


 粉砕。


 布袋。


 香り。


 虫除け袋。


 試作品。


(まずは形にする)


 売れるかどうかは。


 その後。


     ◇


 次の日。


 乾いた虫除け草。


(よし)


 色。


 香り。


 問題なし。


 わしは。


 布を指差す。


「袋?」


 ミナ。


(そう)


 ロイ。


 布を小さく切る。


 リリ。


 糸。


 ミナ。


 草。


「これ入れるの?」


(そうじゃ)


 簡単な。


 小袋。


 中に。


 乾燥した草。


 口を。


 糸で縛る。


 完成。


「……これだけ?」


 ロイ。


(これだけじゃ)


 だが。


 使いやすい。


 部屋。


 服。


 寝具。


 荷物。


 吊るせる。


 持ち歩ける。


 捨てやすい。


 原価。


 ほぼゼロ。


 加工。


 子供でもできる。


(悪くない)


 ミナが。


 鼻を近づける。


「変な匂い」


(まあな)


「でも嫌いじゃない」


 リリ。


 袋を見る。


「かわいい」


(そこも大事じゃ)


 前世。


 同じ性能。


 同じ中身。


 それでも。


 見た目で。


 売上は変わる。


「先生」


 ロイが。


 セレナへ渡す。


「これ」


 セレナが。


 受け取る。


「……虫除け草?」


「袋にした」


「誰が考えたの?」


 三人。


 同時。


 わしを指差す。


(だから売るな)


 セレナが。


 わしを見る。


「…………」


(何じゃ)


 袋。


 わし。


 袋。


 わし。


「これ」


 少し。


 笑う。


「売るつもり?」


(お)


 伝わった。


「あぅ!」


 声が出る。


「やっぱり」


 セレナ。


 袋を。


 もう一度見る。


「でも」


(ん?)


「これだけなら、売れない」


(なに?)


 わし。


 固まる。


「虫除け草は珍しくないし」


(分かっとる)


「布袋に入れただけ」


(……確かに)


 正論。


 悔しい。


 しかし。


 その通りだ。


「町で見たことないけど」


 セレナが続ける。


「一度買えば、誰でも真似できる」


(そこじゃ)


 模倣。


 競争。


 差別化。


 前世でも。


 何度も。


 経験した。


(なら)


 あと一つ。


 価値が必要。


 匂い。


 見た目。


 持続時間。


 別の効果。


(何か足せる)


 そして。


 わしは。


 昨日一緒に採ってきた。


 別の香草を見る。


(これじゃ)


 二種類。


 混ぜる。


 虫除け。


 香り。


 消臭。


 できるかもしれない。


「…………」


 セレナが。


 わしの視線を追う。


「まさか」


 香草。


 虫除け草。


 袋。


 見る。


「混ぜる気?」


「あぅ!」


「…………」


 セレナ。


 頭を抱える。


「本当に何なの、この赤ちゃん」


(百十歳の元経営者じゃ)


 言えるなら。


 そう答えていた。


     ◇


 試作品。


 二号。


 虫除け草。


 香草。


 少量。


 布袋。


 完成。


 ミナが嗅ぐ。


「あ!」


「どう?」


 ロイ。


「さっきよりいい匂い!」


 リリ。


「こっち好き」


(よし)


 セレナも。


 手に取る。


 鼻を近づける。


「……悪くない」


(じゃろ)


「それに」


 少し。


 考える。


「この香草なら、衣服の臭いも少し抑える」


(やはり)


 消臭。


 防虫。


 芳香。


 三つ。


(商品になる)


 わしの中。


 久しぶりに。


 商売人の血が。


 騒いだ。


(やれる)


 原料。


 森。


 加工。


 孤児院。


 売り場。


 町。


 価格。


 利益。


 頭の中で。


 勝手に。


 計算が始まる。


(待て)


 わしは。


 自分に言い聞かせる。


(ほどほどじゃ)


 今世は。


 仕事に。


 人生を捧げない。


 太く。


 短く。


 好きに生きる。


 そのための。


 孤児院再建。


 そのための。


 商売。


(そうじゃ)


 これは仕事ではない。


 わしが。


 やりたいから。


 やるだけだ。


 そう思った時。


 ミナが言った。


「名前つけようよ!」


(名前?)


「これの商品名!」


 ロイ。


「商品名って必要?」


「売るなら必要でしょ!」


(その通りじゃ)


 ミナ。


 手を挙げる。


「じゃあ私!」


(嫌な予感)


「むしよけくん!」


(却下じゃ!)


「えー!」


 ロイ。


「じゃあ」


 少し考える。


「森の香り袋」


(まともじゃ)


 リリ。


 小さく。


「おやすみ袋」


(ほう)


 確かに。


 寝具。


 枕元。


 使える。


 悪くない。


 セレナが。


 袋を揺らす。


「……森守り」


(ん?)


「森の香りで」


 一拍。


「虫から守るから」


 ミナ。


「それいい!」


 ロイ。


「いいかも」


 リリ。


「森守り」


(…………)


 悪くない。


 わしは。


 小さく。


 頷いた。


「あぅ」


「決まりね」


 セレナが。


 笑った。


     ◇


 こうして。


 わしの。


 異世界での。


 最初の商品が。


 できた。


 名前は。


 《森守り》


 原価。


 ほぼゼロ。


 材料。


 森。


 人手。


 孤児院。


 加工。


 簡単。


(悪くない)


 だが。


 一つ。


 重大な問題がある。


 商品は。


 作るだけでは。


 売れない。


(次は営業じゃ)


 前世。


 最初の仕事を取るため。


 何十軒。


 頭を下げたか。


 覚えていない。


 営業。


 得意。


 交渉。


 得意。


 価格設定。


 得意。


 わしは。


 自分の口を見る。


「……あぅ」


(…………)


 喋れない。


 また。


 ここに戻る。


「おぎゃあああああ!!」


「今度は何!?」


(営業できんじゃろがぁぁぁ!!)


 孤児院に。


 わしの泣き声が。


 響き渡った。


 人生二周目。


 初商品。


 完成。


 しかし。


 商売開始までの道は。


 思ったより。


 遠そうだった。

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