↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/92

第42話 百十歳、怪物と肩を並べます

『――共に』


 声が、頭の奥へ落ちた。


『奴を、もう一度眠らせる』


 次の瞬間。


 黒雷石が弾けた。


 青白い光が視界を塗り潰し、遅れて全身を熱が駆け抜ける。


「っ……!」


 思わず息を呑んだ。


 痛い。


 だが、これまでのような暴発とは違った。


 雷は無秩序に身体を焼いているのではない。


 血管をなぞるように腕を走り、胸へ集まり、そこから再び黒雷石へと流れ込んでいく。


 まるで。


 わし自身が、一本の道になったようだった。


(……わしを通しておるのか?)


『違う』


 雷葬獣の声が返る。


『お前が、繋いでいる』


(同じようなもんじゃろ)


 返事はなかった。


 余裕がないらしい。


 当然か。


 目の前の雷葬獣は、立っていることすら難しそうだった。


 その巨体には、地の裂け目から這い出した黒い根が幾重にも巻きついている。


 一本を雷で焼き切れば。


 また一本。


 爪で引き千切れば。


 さらに二本。


 地面の下から生えてくる。


 それらは獣の身体へ食い込み。


 まるで。


 地の底へ引きずり戻そうとしているようだった。


「レオン!」


 背後からセレナの声。


 振り返る余裕はない。


「レオン、その石を離して!」


(できるなら、とっくにやっとる!)


 指へ力を入れる。


 だが。


 動かない。


 いや。


 違う。


 離せないのではない。


(……離したくない?)


 何とも妙な感覚だった。


 この手を開けば。


 何かが。


 今度こそ、本当に終わってしまう。


 理由など分からない。


 それでも。


 そう確信していた。


     ◇


「マルタ!」


「分かってる!」


 マルタの怒鳴り声が響く。


 杖の先が地面を打つたび、わしらを囲むように淡い光の膜が生まれていた。


 その外側。


 黒い根が、蛇のようにうねっている。


「この子、大丈夫なの!?」


「そんなこと、あたしに聞くんじゃないよ!」


「何とかして!」


「今してる!」


 マルタが吠えた。


 珍しく。


 本当に余裕がない。


「カラリン!」


「う~ん!」


「精霊を散らすんじゃない! 坊やの周りへ集めな!」


「わ~か~っ~た~!」


 カラリンが杖を掲げる。


 いつもの眠そうな声ではなかった。


「み~ん~な~!」


 森へ向かって叫ぶ。


「レ~オ~ン~を~」


「ま~も~っ~て~!」


 一瞬。


 何も起きなかった。


 だが。


 やがて。


 青い光が一つ。


 次に緑。


 金。


 赤。


 小さな光が、森の奥から集まり始める。


(精霊……)


 以前。


 黒雷石へ近づこうとしなかった者たち。


 その精霊が今は、自分からわしの周囲へ集まっている。


『恐れていたのではない』


(何?)


『我を通じ』


 雷葬獣が苦しそうに続ける。


『地の底を感じていた』


 わしは一瞬、言葉を失った。


(……なるほど)


 黒雷石。


 封印の楔。


 雷葬獣の力を地上へ伝えるもの。


 だが。


 同時に。


 そのさらに下。


 あの黒い何かの気配まで。


 伝えてしまう。


(だから精霊は、石そのものではなく……その向こう側を恐れていた?)


『そうだ』


(先に言わんかい)


『話す力すら』


 一瞬。


 声が途切れる。


『残っていなかった』


「…………」


 文句を言う気が失せた。


     ◇


 ――ドクンッ!


 地の底が鳴った。


 今までで。


 一番大きい。


 地面が跳ねる。


「きゃっ!」


 セレナがよろめいた。


 マルタの張った光の膜に、黒い亀裂が走る。


「っ……!」


 マルタの口元から。


 赤いものが伝った。


「し~しょ~!」


「見るんじゃないよ!」


 袖で血を拭う。


「まだ破られちゃいない!」


(無茶をしとる)


 魔術のことなど。


 わしには分からない。


 だが。


 身体を削っている。


 それだけは分かった。


「マルタ!」


「自分の心配をしな!」


(口だけは元気じゃな)


 こんな状況なのに。


 少しだけ安心した。


     ◇


『レオン』


(なんじゃ)


『楔を戻せ』


(どうやってじゃ)


『我へ返せ』


(だからそれができんと言っとる!)


 黒雷石は。


 首から外れない。


 以前、無理に外そうとした時。


 火でも噴いたように熱くなった。


『外す必要はない』


(何?)


『そのまま持て』


(返せと言ったじゃろう)


『戻すのは、場所ではない』


 一拍。


『繋がりだ』


 ――トクン。


 黒雷石。


 そして。


 雷葬獣の胸元。


 ほぼ同時に。


 銀色の光が脈打った。


「…………」


(そういうことか)


 黒雷石。


 十二本の楔。


 あれは単に地面へ刺してあったのではない。


 雷葬獣の力を。


 森へ。


 地上へ。


 広げるための道。


 つまり。


(元の場所へ戻すのではなく、雷葬獣との繋がりを戻せばいい)


『そうだ』


(最初からそう言え)


『お前が理解するのが遅い』


(何じゃと?)


 こんな時だというのに。


 本気で腹が立った。


     ◇


 とはいえ。


 やることは分かった。


 問題は。


(どうやって繋ぐ)


 今。


 黒雷石と雷葬獣の間には。


 細い雷が走っている。


 だが。


 弱い。


 時折。


 今にも切れそうになる。


『もっと流せ』


(簡単に言うな)


『お前ならできる』


(根拠は)


『我が選んだ』


(それは根拠なのか?)


 今度こそ。


 返事はなかった。


(都合が悪くなると黙りおる)


 だが。


 考えている暇はない。


 ――パキッ。


 遠く。


 楔の一つへ亀裂が走った。


「……また!」


 マルタが顔を上げる。


 残る楔。


 あと僅か。


(急がんと)


     ◇


 わしは黒雷石を握った。


 考える。


 これまで。


 雷はどうやって出た。


 ロイを助けた時。


 ワイバーンを倒した時。


 瀕死の監視員を助けた時。


 術式など知らない。


 詠唱などしたこともない。


 ただ。


 いつも一つだけ。


 同じだった。


(助けたいと、思った)


 それだけだ。


 なら。


 今回も。


 それでいい。


 わしは雷葬獣を見る。


 巨大な。


 恐ろしい。


 一目見れば。


 誰だって怪物だと思うだろう。


 その身体は傷だらけ。


 古いものも。


 新しいものも。


 数え切れない。


 それでも。


 ずっと。


 この場所にいた。


 何百年も。


 誰にも知られず。


 怪物と呼ばれ。


 封印された災厄だと思われながら。


 一人で。


 地の底を押さえ続けていた。


(馬鹿じゃのう)


『……?』


(何でも一人で背負うな)


 黒雷石を握る。


(人を使え)


 前世。


 昔のわしにも。


 聞かせてやりたい言葉だった。


 会社も。


 仕事も。


 家族も。


 全部。


 自分で何とかしようとした。


 人へ任せることを覚えるまで。


 随分と時間が掛かった。


(お前一人でやるな)


 一度。


 息を吸う。


(わしもおる)


 ――トクン。


 黒雷石が。


 返事をした。


     ◇


 雷が爆ぜた。


 ――バチィィィッ!!


「レオン!」


 セレナの声。


 だが。


 痛くない。


 身体中を駆け抜ける熱は。


 不思議と。


 苦しくなかった。


 まるで。


 血そのものが雷になったようだった。


 わしの身体から伸びた銀雷が。


 雷葬獣へ。


 残る楔へ。


 大地へ。


 そして。


 森の奥へ。


 枝分かれしながら走っていく。


「……これは」


 マルタが息を呑む。


「術式?」


「ち~が~う~」


 カラリンが呟いた。


 彼女の目は。


 銀雷ではなく。


 その周りを飛ぶ光を見ている。


「せ~い~れ~い~が~」


 一拍。


「み~ち~を~つ~く~っ~て~る~」


(道……)


 精霊たちが。


 雷へ触れていく。


 焼けない。


 むしろ。


 光が重なるたび。


 雷は遠くへ伸びた。


 枯れかけた木へ。


 黒ずんだ花へ。


 魔力を失った土へ。


 銀の線が。


 森の中を。


 静かに走っていく。


     ◇


 ――ドクンッ!!


 地下。


 あれが。


 怒った。


 そう感じた。


 地の裂け目から。


 一斉に。


 黒い根が噴き出す。


 狙いは。


 わし。


「レオン!」


 セレナが。


 考えるより早く。


 わしを抱き込み。


 背中を向けた。


(馬鹿!)


 お前が受けたら。


 意味がない。


 そう思った。


 次の瞬間。


「触らせるかい!」


 マルタの杖が横薙ぎに振られる。


 白い光が。


 森を裂いた。


 ――ゴォンッ!!


 黒い根が何本も吹き飛ぶ。


「し~しょ~!」


「ぼさっとするんじゃない!」


「う~ん!」


 カラリンも杖を掲げる。


「み~ん~な~!」


「お~ね~が~い~!」


 精霊たちが。


 一斉に動いた。


 風が生まれる。


 わしらを包む。


 次に伸びてきた黒い根が。


 軌道を逸らされ。


 地面へ突き刺さった。


(…………)


 不思議だった。


 わしは今。


 一人ではない。


 セレナがいる。


 マルタがいる。


 カラリンがいる。


 精霊までいる。


 そして。


 雷葬獣も。


(悪くないのう)


 こういう戦い方は。


     ◇


 やがて。


 雷葬獣が。


 動いた。


 地に伏していた前脚が。


 ゆっくり持ち上がる。


 ――ズン。


 一本。


 次に。


 もう一本。


 ――ズン。


 巨大な身体が。


 少しずつ。


 持ち上がる。


 黒い根を引き千切り。


 何百年。


 そうしていたのか分からないほど。


 重たげに。


 それでも。


 雷葬獣は。


 立った。


「…………」


 近くで見ると。


 本当に。


 山のようだった。


 銀色の身体。


 無数の傷。


 ところどころ。


 削れた角。


 だが。


 その瞳だけは。


 まだ。


 死んでいない。


『――久しいな』


(何がじゃ)


『立つのは』


「…………」


 聞かない方がいい。


 そう思った。


 何百年。


 いや。


 何千年。


 そうしていたのか。


 その答えを。


 今は。


 聞く気になれなかった。


     ◇


『レオン』


(なんじゃ)


『来る』


(何が)


『下が』


 直後。


 ――ドクンッ!!


 地面が割れた。


「っ!?」


 亀裂から。


 黒いものが噴き上がる。


 霧。


 にも見える。


 液体。


 にも見える。


 影。


 にも見える。


 形がない。


 なのに。


 見た瞬間。


 身体が。


 拒絶した。


 逃げろ。


 触れるな。


 見るな。


 考えるな。


 本能が。


 叫んでいる。


 黒いものが触れた岩が。


 音もなく崩れた。


「避けな!」


 マルタの声。


 セレナがわしを抱いて飛ぶ。


 黒いものが。


 すぐ横を通り過ぎた。


(……何じゃ、あれ)


『まだ形を得ていない』


(あれが本体ではない?)


『あれは』


 一拍。


『指先にも満たぬ』


「…………」


(冗談じゃろ)


『冗談ではない』


(心を読むな!)


『今は繋がっている』


(そうじゃった……)


 非常に。


 面倒である。


     ◇


「雷葬獣!」


 セレナが叫んだ。


 銀色の瞳が。


 彼女へ向く。


 セレナの身体が。


 ほんの僅かに強張った。


 それでも。


 逃げない。


「あなた」


 一度。


 息を呑む。


「あれを」


 黒い亀裂。


 そこから溢れる。


 何か。


 指差す。


「ずっと一人で押さえてたの?」


『そうだ』


「どれくらい?」


 雷葬獣は答えない。


「……どれくらいなの?」


 長い沈黙。


 そして。


『知らぬ』


「…………」


『数えることを』


 ゆっくり。


『やめた』


 誰も。


 すぐには何も言えなかった。


 マルタも。


 カラリンも。


 セレナも。


 わしも。


(そうか)


 三百年以上前。


 古い記録。


 そのさらに前。


 エルフが。


 この森へ来る。


 ずっと前から。


(こいつは一人で、ここにおったのか)


 怪物として。


 災厄として。


 封じられた存在として。


 誰にも知られず。


 守っていた。


(報われんのう)


『報いなど要らぬ』


(だから心を読むな)


『聞こえるのだ』


(もうええ)


     ◇


「ねえ」


 セレナが。


 少しだけ声を落とした。


「私たちに」


 一拍。


「できることはある?」


 雷葬獣が。


 しばらくセレナを見ていた。


『ある』


「何?」


『楔だ』


 その視線が。


 わしの黒雷石へ向く。


『失われた繋がりを戻せ』


(この一つだけでか?)


『足りぬ』


「残ってる楔を守る必要があるってこと?」


 マルタが尋ねる。


『そうだ』


「失われた楔は?」


 雷葬獣。


 沈黙。


「場所は分かるのかい?」


『分かる』


 全員の空気が変わった。


「どこ?」


 セレナが尋ねる。


 銀色の瞳が。


 ゆっくり閉じられる。


『一つは』


 一拍。


『人の町に』


「…………」


『一つは』


『王の下』


(王?)


『一つは』


 僅かな。


 間。


『海を越えた』


「海……」


 セレナが呟く。


『一つは』


『死者の手に』


「死者?」


『一つは』


 今度は。


 長い沈黙。


『見えぬ』


(見えない?)


『そして』


 最後。


 雷葬獣が。


 森の一方向へ顔を向けた。


『一つは』


 一拍。


『今』


『こちらへ向かっている』


     ◇


「誰が持ってるの?」


 セレナが尋ねる。


『知らぬ』


「人間?」


『分からぬ』


「エルフ?」


『分からぬ』


「じゃあ何が分かるの?」


『楔だけだ』


(まあ、そうじゃろうな)


 だが。


 問題は。


 そこではない。


 楔を持つ何者かが。


 今。


 こちらへ向かっている。


 目的は。


 分からない。


     ◇


 その時だった。


 ――パキッ。


 嫌な音がした。


「……っ!」


 マルタが振り返る。


 残る楔の一つ。


 表面に。


 新しい亀裂が走っていた。


「また壊れる!」


『レオン』


(分かっとる!)


 黒雷石を握る。


 今度は。


 迷わない。


 雷葬獣。


 楔。


 森。


 繋げ。


(行け!)


 ――バチィンッ!!


 雷が地面を走った。


 亀裂の入った楔へ。


 絡みついていた黒い芽へ。


 直撃。


 ――ギィィィッ!!


 悲鳴。


 焼け落ちる。


 その中から。


 青い光。


「せ~い~れ~い~!」


 カラリンが両手を伸ばす。


 光が。


 その周囲をくるりと回った。


 そして。


 楔の亀裂が。


 止まる。


「……止まった?」


 セレナが呟く。


「今は、ね」


 マルタの息も。


 荒い。


(間に合った)


 そう思った。


 その瞬間。


 身体から。


 力が抜けた。


「あ……」


 視界が傾く。


「レオン!」


 セレナが抱き止める。


(これは……まずい)


 頭。


 重い。


 身体。


 熱い。


 以前。


 《孤王》を使った時。


 似た感覚。


(使いすぎたか)


『レオン』


(なんじゃ)


『休め』


(お前に言われたくない)


 雷葬獣が。


 一瞬。


 黙った。


『……そうだな』


「…………」


 思わず。


 少しだけ笑いそうになった。


     ◇


「……し~しょ~」


 カラリンの声。


 いつもと違う。


 マルタが振り返る。


「どうした」


「き~た~」


「何が」


 カラリンは。


 森の奥。


 一点を見つめていた。


「だ~れ~か~」


 杖が。


 震えている。


「せ~い~れ~い~た~ち~が~」


 一拍。


「み~ち~を~あ~け~て~る~」


(道を?)


 その言葉に。


 雷葬獣も。


 ゆっくり。


 森へ顔を向けた。


『――楔』


(何?)


『戻ってきた』


     ◇


 足音がした。


 一歩。


 また。


 一歩。


 急いでいる様子はない。


 むしろ。


 こちらが逃げないと分かっているような。


 ゆっくりとした歩み。


 セレナは。


 わしを抱いたまま。


 弓へ手を伸ばした。


 マルタは杖を構える。


 カラリンも。


 その隣へ立つ。


 そして。


 木々の隙間から。


 一人。


 現れた。


 黒い外套。


 深く被ったフード。


 顔は見えない。


 ただ。


 胸元。


 そこだけ。


 青白い光が漏れていた。


(黒雷石……)


 楔だ。


 間違いない。


『気をつけろ』


 雷葬獣の声が。


 低くなる。


(何じゃ)


 銀色の瞳が。


 人影を睨む。


『そやつ』


 一拍。


『人ではない』


「…………」


 人影が。


 ゆっくり顔を上げた。


 フードの奥。


 銀色の瞳。


 唇だけが。


 小さく笑う。


「――ようやく」


 声。


 男にも。


 女にも。


 聞こえた。


 視線が。


 真っ直ぐ。


 わしへ向く。


「見つけた」


 セレナの腕に。


 力が入る。


「何を……?」


 答えは。


 わしへ向けられた。


「第十三の器」


「…………」


(十三?)


 黒雷石。


 楔。


 十二。


 そう聞いた。


 なのに。


 第十三。


「レオン」


 セレナが。


 わしを抱き寄せる。


 雷葬獣が。


 低く唸った。


 その瞬間。


 地下。


 ――ドクン。


 地の底の何かが。


 まるで。


 その人物が来るのを待っていたように。


 大きく。


 一度。


 脈打った。


     ◇


(嫌な予感じゃ)


 もう。


 何度目か分からない。


 雷葬獣は。


 災厄ではなかった。


 黒雷石は。


 ただの封印具ではなかった。


 十二の楔。


 地下の何か。


 それだけで。


 わしらが知っていた話は。


 ほとんど。


 ひっくり返った。


 そこへ。


 第十三。


(聞いとらんぞ)


 黒い外套の人物が。


 一歩。


 こちらへ近づく。


 その時。


 わしの黒雷石が。


 ――トクン。


 脈打った。


「…………」


 いつもとは違う。


 恐怖ではない。


 警戒でもない。


 むしろ。


 どこか。


 遠いものを思い出したような。


 懐かしむような。


 奇妙な鼓動。


『――なぜ』


(何じゃ)


 雷葬獣の声。


 初めて。


 本当に。


 揺れていた。


 巨大な銀の瞳が。


 黒い外套の人物を。


 見つめている。


『――なぜ、お前が』


 一拍。


『生きている』


 黒い外套の人物は。


 何も答えない。


 ただ。


 ゆっくりと。


 笑った。


 その笑みを見た瞬間。


 理由も分からないのに。


 わしの背筋へ。


 冷たいものが走った。


 地下では。


 もう一度。


 ――ドクン。


 何かが。


 目覚めるように。


 脈打っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。