第15話 百十歳、寝込みます
翌朝。
(…………)
目が覚めた。
正確には。
意識だけが戻った。
(なんじゃ、これ)
身体が。
動かない。
手。
重い。
脚。
重い。
頭。
痛い。
身体中。
熱い。
なのに。
寒い。
「……ぁ」
声すら。
まともに出ない。
(これは……まずいのう)
前世。
百十年。
生きた。
病気も。
怪我も。
それなりに経験した。
だが。
赤ん坊の身体で。
この体調不良。
(洒落にならん)
◇
原因。
考える。
昨日。
使った。
二つのギフト。
《ダイヤング》。
寿命一年。
代わりに。
一時間。
全盛期の身体。
これは。
神から説明された。
(なら)
この体調不良。
《ダイヤング》ではない。
可能性が高い。
(《孤王》か)
一人で戦う時のみ。
超人的な運動能力。
確かに。
昨日の身体。
異常だった。
矢が見えた。
六人を相手に。
ほぼ無傷。
だが。
(あれほどの力が)
何の代償もなく。
使える。
そんなに。
都合のいい話。
あるわけがない。
(神の奴……)
説明。
忘れたんじゃ。
ないだろうな。
特典そのものを。
渡し忘れる神。
(十分ありえるのが怖い)
◇
「レオン?」
声。
リリ。
籠。
覗き込む。
「起きてる?」
「……ぁぅ」
「…………」
リリ。
わしの額。
触る。
次の瞬間。
「先生!」
(お)
珍しく。
大声。
「先生!」
「どうしたの!?」
セレナ。
走ってくる。
「レオンが熱い」
「え?」
わしの額。
触る。
セレナの顔。
変わった。
「熱……!」
(やはりか)
「ロイ!」
「何!?」
「水!」
「分かった!」
「ミナ! 綺麗な布!」
「う、うん!」
一気に。
孤児院。
騒がしくなる。
(…………)
なんだか。
申し訳ない。
◇
「レオン」
セレナ。
わしを抱き上げる。
「分かる?」
「……あぅ」
「よかった」
声。
いつもより。
優しい。
冷たい布。
額。
乗せる。
(気持ちいい)
「先生!」
ミナ。
走ってくる。
「布!」
「ありがとう」
「レオン大丈夫!?」
(そんな顔するな)
今にも。
泣きそう。
「昨日は元気だったのに……」
ロイ。
水。
持ってくる。
「急に?」
「分からない」
セレナ。
わしの顔。
見る。
「昨日、森で一人になってたから……」
(…………)
「冷えたのかもしれない」
(違うと思う)
でも。
説明。
できない。
「レオン」
ミナ。
わしの手。
握る。
「死なないよね?」
(縁起でもないこと言うな)
だが。
声。
出ない。
代わり。
指。
少し。
動かす。
ミナの指。
握る。
「……!」
「大丈夫だって!」
ミナ。
笑う。
目。
少し。
潤んでいる。
(まったく)
心配性。
ばかりじゃ。
◇
昼。
熱。
下がらない。
むしろ。
上がっている。
(これは本格的にまずいか)
頭。
ぼんやり。
する。
身体。
鉛。
みたい。
セレナ。
ずっと。
そばにいる。
「先生」
ロイ。
「町から薬師呼んでくる」
「一人じゃ危ない」
「でも!」
「私が行く」
「レオンは?」
「…………」
セレナ。
迷う。
(行け)
わしなら。
大丈夫。
たぶん。
「私が見てる」
リリ。
言った。
「…………リリ?」
「レオンのそばにいる」
「私も!」
ミナ。
手。
上げる。
「俺もいる」
ロイ。
(お前ら)
わし一人。
寝込んだくらいで。
大袈裟じゃ。
そう。
思う。
でも。
(…………)
悪くない。
前世。
病気。
した時。
こんなに。
騒がれたこと。
あったかのう。
会社。
大きくなってから。
わしが倒れれば。
医者。
社員。
秘書。
いくらでも。
来た。
でも。
それとは。
少し。
違う。
(心配、か)
仕事。
ではない。
義務。
でもない。
ただ。
心配だから。
そばにいる。
(…………)
こういうのも。
悪くないのう。
◇
夕方。
セレナが。
町から。
薬師を連れて戻った。
診察。
終わる。
「病気ではなさそうだね」
「じゃあ何なんですか?」
「分からない」
薬師。
首。
傾げる。
「身体がひどく消耗してる」
(やはり)
「消耗?」
「そう」
薬師。
わしを見る。
「まるで」
一拍。
「身体の限界を超えて、何日も動き続けたみたいだ」
(…………)
確定。
ではない。
だが。
わしの中。
答え。
ほぼ。
決まった。
(《孤王》じゃな)
昨日。
数分。
使っただけ。
それで。
この状態。
(強いわけじゃ)
代償。
ある。
超人的な身体能力。
その負担。
使用後。
まとめて。
肉体に返ってくる。
そんなところだろう。
――推測じゃが。
(となると)
使い方。
考えないといかん。
《ダイヤング》。
寿命。
削る。
《孤王》。
肉体。
削る。
(どっちも気軽に使えんではないか)
神。
あとで。
文句。
言いたい。
◇
夜。
少しだけ。
熱。
下がった。
「…………」
セレナ。
椅子。
座っている。
(まだおったのか)
子供たち。
寝た。
でも。
セレナだけ。
起きている。
「……レオン」
(ん?)
「ごめんね」
(何がじゃ)
「昨日」
わしの。
小さな手。
握る。
「あなたを一人にした」
(…………)
「私がちゃんとしてたら」
違う。
そう。
言いたい。
昨日。
わしは。
自分で決めた。
寿命一年。
使った。
《孤王》。
使った。
誰かに。
やらされた。
わけではない。
(お前さんのせいではない)
だが。
喋れない。
だから。
わし。
指。
動かす。
セレナの。
指。
握る。
「…………」
セレナ。
少し。
驚く。
そして。
笑った。
「大丈夫って言ってるの?」
(そうじゃ)
「赤ちゃんなのに」
(中身百十歳じゃ)
「生意気」
(なんでじゃ)
セレナ。
わしの頭。
そっと。
撫でる。
「早く元気になりなさい」
(分かっとる)
「みんな心配してるから」
(…………)
目。
閉じる。
身体。
まだ。
しんどい。
でも。
少しだけ。
安心する。
◇
(しかし)
眠る直前。
考える。
《孤王》。
強い。
強すぎる。
だが。
使用後。
これほど。
消耗する。
(昨日は数分じゃ)
もし。
三十分。
一時間。
使ったら?
(…………)
考えたくない。
そして。
もう一つ。
気になる。
《孤王》を使った時。
わしは。
《ダイヤング》で。
全盛期の身体。
だった。
それでも。
これだけ。
反動。
来た。
(もし)
赤ん坊の身体で。
《孤王》を使ったら?
「…………」
嫌な予感。
する。
(下手をすれば)
死ぬ。
可能性。
ある。
便利な力。
ではない。
切り札。
それも。
本当に。
最後の。
切り札。
(覚えておこう)
太く短く。
生きる。
でも。
無駄に。
短くする。
つもりはない。
その時。
額。
布。
ずれる。
セレナ。
すぐ。
直す。
(…………)
温かい。
家。
家族。
前世で。
失ったもの。
この世界で。
もう一度。
手に入り始めている。
(なら)
簡単には。
死ねんのう。
わしは。
そのまま。
眠りについた。
翌朝。
熱が下がるまで。
セレナが一度も。
わしのそばを。
離れなかったことを。
この時のわしは。
まだ知らなかった。




