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第14話 百十歳、何食わぬ顔で戻ります

『《ダイヤング》』


『残り時間――五十一分』


(まだ五十分もあるのか)


 寿命一年分。


 一秒でも無駄にはしたくない。


 だが。


 戦いは終わった。


 目の前には。


 倒れた五人。


 そして。


 青ざめた顔でわしを見る男。


「今日は帰れ」


「…………」


「次に来るなら」


 わしは男を見る。


「話のできる奴を連れてこい」


「……何?」


「わしは喧嘩がしたいわけじゃない」


 土地。


 セレナ。


 森。


 黒いペンダント。


 知らないことが多すぎる。


(まず情報じゃ)


 前世でも。


 分からないまま動くと。


 大抵ろくなことにならなかった。


「仲間を連れて帰れ」


 男はしばらく黙っていた。


 やがて。


「……後悔するぞ」


「その台詞」


 わしは笑う。


「百十年で何回聞いたか分からんわ」


「百十……?」


(また言ってしまった)


「気にするな」


「気にするだろ」


(もっともじゃ)


     ◇


 使者たちは。


 仲間を支えながら。


 森の奥へ消えていった。


(さて)


 問題。


 ここからじゃ。


 セレナ。


 子供たち。


 神崎という男を見た。


 そして。


 レオン。


 今。


 いない。


(このまま戻るのはまずい)


 わしは森へ入る。


 人気のない場所まで歩く。


『残り時間――四十八分』


(長いのう)


 解除。


 できんのか?


 そう思った瞬間。


 頭の中。


『《ダイヤング》を解除しますか?』


(できるんかい!)


 先に言え。


(解除じゃ)


『残り時間は破棄されます』


(…………)


 わし。


 止まる。


(何?)


 五十分近く。


 残っている。


 解除。


 できる。


 ただし。


 残り時間。


 消える。


(もったいない)


 寿命。


 一年。


 払った。


 なら。


 一時間。


 全部。


 使いたい。


 だが。


 この姿で。


 五十分。


 何をする?


「…………」


(筋トレ?)


 違う。


(走る?)


 それも違う。


 わしは。


 頭を抱えた。


(貧乏性が出とる)


     ◇


 だが。


 ふと思う。


(待てよ)


 今なら。


 喋れる。


 歩ける。


 文字も書ける。


 赤ん坊では。


 できないこと。


 全部。


 できる。


(なら)


 使わない方が。


 もったいない。


 わしは。


 孤児院とは反対方向。


 森の奥を見る。


 先ほどの男。


 言った。


『我々ですら近づかない場所がある』


(…………)


 行ってみるか?


 いや。


 やめる。


(情報不足で突っ込むのは三流じゃ)


 それより。


 やるべきこと。


 ある。


     ◇


 わしは孤児院の裏手へ回った。


 物置。


 誰もいない。


 中。


 入る。


 紙。


 探す。


(あった)


 古い紙。


 炭。


 そして。


 書く。


 ――金貨三十枚。


 ――土地。


 ――森。


 ――買い手。


 ――セレナ。


 ――緑の封筒。


 ――黒いペンダント。


 並べる。


(さて)


 関係。


 整理。


 まず。


 孤児院の土地。


 誰か。


 欲しがっている。


 そして。


 セレナ。


 昔。


 何かあった。


 追放された。


 使者。


 連れ戻そうとしている。


 さらに。


 黒いペンダント。


 使者が知っていた。


(偶然ではない)


 この土地。


 何かある。


 だから。


 金貨三十枚。


 それだけの価値。


 ある。


(なら)


 土地を売れ。


 ではなく。


 土地を買いたい。


 と言われていること。


 重要。


(向こうが欲しがっとる)


 交渉。


 できる。


 金がない。


 だから。


 弱い。


 とは限らない。


(相手が欲しいものを持っているなら)


 こちらにも。


 カード。


 ある。


     ◇


『残り時間――十二分』


(そろそろじゃな)


 紙。


 燃やす。


 証拠。


 残さない。


 黒いペンダント。


 見る。


「お前は何なんじゃ」


 返事。


 なし。


「神様も知らん」


 電撃。


 出る。


 使者。


 知っている。


 森の奥。


 何かある。


(面倒の中心じゃないじゃろうな)


 ペンダント。


 ――バチッ。


「痛っ」


(返事だけはするんか)


     ◇


『残り時間――十秒』


(来たか)


 わし。


 服。


 脱ぐ。


 ロイ。


 すまん。


 あとで。


 返す。


『五』


『四』


『三』


(しかし)


 この力。


 便利。


 でも。


 危険。


 一回。


 一年。


 今日。


 初めて。


 使った。


(癖にはできんな)


『二』


『一』


 ――ドクン。


 身体。


 縮む。


「っ……!」


 腕。


 脚。


 指。


 視界。


 低くなる。


 数秒後。


 そこにいたのは。


 大人。


 神崎源一郎。


 ではない。


 赤ん坊。


 レオン。


「あぅ」


(戻った)


 そして。


 重大な問題。


(…………)


 森。


 一人。


 赤ん坊。


(どうやって帰るんじゃ)


     ◇


「レオン!」


 しばらくして。


 声。


(お)


「レオン!」


 セレナ。


 森。


 走ってくる。


 わし。


 手。


 上げる。


「あぅ!」


「いた!」


 駆け寄る。


 抱き上げられる。


「もう!」


 強く。


 抱きしめられる。


「どこにいたの!」


(すまん)


「心配したんだから!」


「あぅ……」


「怪我は?」


 腕。


 脚。


 顔。


 確認。


「大丈夫ね……」


 セレナ。


 大きく。


 息を吐く。


(そんなに心配したのか)


 少し。


 胸。


 痛む。


 寿命。


 一年。


 使った。


 でも。


(まあ)


 この顔。


 見られたなら。


 悪くない。


     ◇


 孤児院。


 戻る。


「レオン!」


 ミナ。


 走ってくる。


「どこ行ってたの!」


「あぅ」


「心配した!」


 ロイ。


 少し離れた場所。


 腕組み。


「ほんとに勝手にいなくなるなよ」


(お前が置いていったんじゃろ)


 言いたい。


 でも。


 言えない。


 リリ。


 わし。


 抱きつく。


「よかった」


(…………)


 悪くない。


 帰る場所。


 ある。


 前世。


 長いこと。


 忘れていた感覚。


     ◇


「それで先生」


 ロイ。


 聞く。


「あの男は?」


(来た)


 セレナ。


 少し。


 黙る。


「……分からない」


「カンザキって人?」


「そう」


「強かった!」


 ミナ。


 興奮。


「すっごかったよ!」


(見とったのか?)


「矢をバーンって避けて!」


(バーンではない)


「それでビューンって!」


(雑じゃな)


「何者なの?」


 ロイ。


 セレナ。


 首。


 振る。


「知らない」


「先生の知り合いじゃないの?」


「違う」


「でも先生のこと知ってたよ」


「…………」


 セレナ。


 眉。


 寄せる。


「そこなのよ」


(まずい)


「私の名前」


 一拍。


「子供たちのこと」


(…………)


「それに」


 セレナ。


 考える。


「あの人」


 何か。


 思い出す。


「妙だった」


(何がじゃ)


「初めて会った気がしない」


(…………)


 わし。


 固まる。


「先生?」


「なんでもない」


(出た)


 いつもの。


 なんでもない。


 でも。


 セレナ。


 わし。


 見る。


「…………」


(何じゃ)


 じー。


「…………」


(見るな)


「レオン」


「あぅ?」


「あなた」


 顔。


 近づく。


「カンザキって人、知らないわよね?」


(知っとるどころかわしじゃ)


「あぅ?」


 首。


 傾げる。


 渾身。


 赤ん坊。


 演技。


「…………」


 セレナ。


 しばらく。


 見る。


「そうよね」


(そうじゃそうじゃ)


「赤ちゃんだもの」


(その通り)


 セレナ。


 離れる。


(助かった)


 その瞬間。


 リリ。


 ぽつり。


「でも」


(ん?)


「カンザキ」


 一拍。


「レオンと同じ匂いした」


「…………」


 わし。


 固まる。


 セレナ。


 止まる。


 ロイ。


 見る。


 ミナ。


 見る。


「同じ匂い?」


「うん」


 リリ。


 わし。


 指差す。


「レオンの匂い」


(おい)


「カンザキもした」


(待て待て待て)


 セレナ。


 ゆっくり。


 わしを見る。


「…………」


「あぅ?」


 わし。


 笑う。


 赤ん坊。


 笑顔。


「…………」


 セレナ。


 目。


 細くなる。


(まずい)


「まあ」


 セレナ。


 ため息。


「そんなわけないか」


(そうじゃ)


「赤ちゃんが突然大人になるわけないもの」


(全くじゃ)


 わし。


 心の中。


 全力。


 同意。


     ◇


 その夜。


 わしは籠の中。


 天井を見る。


(今日)


 寿命。


 一年。


 使った。


 セレナ。


 助かった。


 子供たち。


 無事。


 使者。


 殺さず。


 追い返した。


(十分じゃ)


 後悔。


 ない。


 だが。


 問題。


 増えた。


 土地。


 森。


 セレナ。


 黒いペンダント。


 謎の使者。


 そして。


(神崎)


 この世界。


 存在しないはず。


 だった。


 前世の。


 わし。


 今は。


 謎の男。


 として。


 セレナたち。


 覚えられた。


(…………)


 これは。


 今後。


 使える。


 レオン。


 赤ん坊。


 何もできない。


 神崎。


 一時間だけ。


 動ける。


 話せる。


 戦える。


(ただし一回一年)


 高い。


 便利だから。


 使う。


 それは。


 絶対。


 しない。


 命。


 使う時。


 選ぶ。


 それが。


 《ダイヤング》。


 太く短く。


 だからといって。


 雑に死ぬ。


 意味ではない。


(さて)


 明日から。


 また。


 孤児院。


 立て直し。


 戻る。


 金貨三十枚。


 期限。


 二十数日。


 でも。


 今日。


 一つ。


 分かった。


(この土地)


 ただの。


 土地ではない。


 なら。


 金貨三十枚。


 正面から。


 払う必要。


 本当に。


 あるのか?


(そこからじゃな)


 わしは。


 目を閉じる。


 その時。


 胸元。


 黒いペンダント。


 ――バチッ。


「あぅっ!」


(痛いわ!)


 やはり。


 こいつ。


 嫌いかもしれん。

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