第13話 百十歳、孤王になります
「ここはわしが引き受ける」
そう言ったものの。
(さて)
相手は六人。
全員。
弓を持っている。
対するわし。
武器。
なし。
(ちと格好つけすぎたかのう)
「カンザキ……だったか」
先頭の男が言う。
「最後の警告だ」
「そうか」
「立ち去れ」
「断る」
「なら――」
男が弓を構えた。
「力ずくで排除する」
(交渉決裂じゃな)
◇
「待って」
セレナがわしの横へ出る。
「私も戦う」
(それでは困る)
《孤王》。
一人で戦う時だけ発動する。
セレナがいる限り。
使えない。
「必要ない」
「六人いるのよ」
「見れば分かる」
「武器もないじゃない」
「これがある」
拳を見せる。
「…………」
セレナ。
呆れた顔。
「馬鹿なの?」
(初対面の男に酷くないか)
「いいから」
わし。
森の方を見る。
「子供たちを頼む」
「でも――」
「セレナ」
名前を呼ぶ。
彼女の目が僅かに細くなった。
(しまった)
初対面の男が。
妙に親しげに名前を呼ぶ。
怪しい。
「……どうして」
セレナがわしを見る。
「私の名前を知ってるの?」
(聞こえとったからじゃ)
「さっきこいつらが呼んどった」
「…………」
「追放者セレナ、と」
「…………そう」
(危なかった)
セレナ。
まだ。
疑っている。
「とにかく行け」
「あなたを置いて?」
「わしは好きで首を突っ込んどる」
「…………」
「それに」
わしは笑う。
「一人の方がやりやすい」
これは。
本当じゃ。
◇
セレナは迷っていた。
だが。
森の奥。
子供たち。
いる。
やがて。
鞭をしまった。
「死なないで」
「善処する」
「それ、死ぬ人が言うやつよ」
(細かい女じゃな)
「分かった。死なん」
「……絶対?」
「絶対じゃ」
セレナ。
少し。
不思議そうな顔。
「変な人」
(お前さんには言われとうない)
そして。
走り出す。
森。
子供たち。
追う。
わしは。
その背中を見る。
(行ったか)
セレナ。
遠ざかる。
そして。
完全に。
戦場から離れた。
その瞬間。
――ドクン。
(来た)
心臓。
大きく。
鳴る。
『単独戦闘状態を確認』
『固有ギフト《孤王》』
『発動』
◇
「…………!」
身体。
変わった。
いや。
見た目。
変化。
ない。
だが。
(何じゃ、これは)
音。
聞こえる。
六人。
呼吸。
足。
地面。
踏む音。
弓弦。
軋む音。
風。
葉。
揺れる音。
全部。
分かる。
身体。
軽い。
《ダイヤング》。
それだけでも。
若い。
全盛期。
だが。
《孤王》。
発動後。
さらに。
別物。
(なるほど)
神。
超人的な運動能力。
そう。
言っとった。
(確かに)
超人じゃ。
◇
「放て!」
――ヒュッ!
三本。
矢。
同時。
(見える)
一本。
首。
傾ける。
二本目。
身体。
ひねる。
三本目。
一歩。
横。
避ける。
「…………」
使者たち。
固まる。
「今……」
「避けた?」
(わしが一番驚いとるわ)
前世。
こんな動き。
当然。
できない。
「もう一度!」
弓。
構える。
(いや)
待つ必要。
ない。
地面。
蹴る。
――ドン!
「!?」
一瞬。
距離。
消える。
弓兵。
目の前。
「悪いの」
「な――」
弓。
掴む。
奪う。
そのまま。
男の足。
払う。
「ぐっ!」
地面。
倒れる。
(おっと)
力。
強い。
(加減せんと殺してしまう)
そこ。
注意。
必要。
事情。
まだ。
分からない。
セレナを。
連れ戻そうとしている。
だから。
殺す。
それは。
違う。
(制圧で十分じゃ)
◇
「囲め!」
残り五人。
動く。
前。
二人。
左右。
一人ずつ。
後ろ。
一人。
(ほう)
連携。
悪くない。
警備会社。
やっていた頃。
何度も。
訓練。
見た。
人数差。
ある時。
一番。
やってはいけないこと。
囲まれる。
こと。
(普通ならな)
一人。
踏み込む。
短剣。
わし。
手首。
掴む。
捻る。
「ぐっ!」
短剣。
落ちる。
拾う。
投げない。
横。
捨てる。
(刃物は危ない)
次。
背後。
気配。
しゃがむ。
頭上。
剣。
通る。
そのまま。
足。
払う。
「うわっ!」
三人目。
拳。
来る。
(遅い)
避ける。
腹。
軽く。
押す。
――ドン!
「ぐえっ!」
男。
数メートル。
飛ぶ。
「…………」
(軽くじゃぞ?)
わし。
自分の手。
見る。
(これ)
思った以上に。
危険じゃな。
◇
数分後。
「ぐ……」
「何なんだ……」
地面。
五人。
倒れている。
全員。
生きている。
(よし)
たぶん。
大怪我。
なし。
(たぶんじゃが)
最後。
先頭の男。
一人。
残る。
弓。
構えている。
だが。
手。
震えている。
「化け物……」
「失礼じゃな」
「何者だ」
「さっき言ったじゃろ」
一歩。
近づく。
「神崎源一郎じゃ」
「そんなことを聞いているんじゃない!」
(じゃろうな)
男。
後ずさる。
「人間に……こんな動きができるはずがない」
(それはわしも同意じゃ)
「まあ」
肩。
回す。
「色々あるんじゃよ」
◇
わしは男の前で止まる。
「さて」
「…………」
「聞きたいことがある」
「答えると思うか」
「思わん」
「なら――」
「じゃが」
わし。
倒れている。
五人。
見る。
「もう戦う必要もないじゃろ」
「…………」
男。
黙る。
(交渉は)
相手。
逃げ道。
残す。
大事。
「わしはお前さんらを殺す気はない」
「…………」
「セレナを連れていく理由。それだけ教えろ」
「言えない」
「追放したんじゃろ?」
男。
僅かに。
反応。
「なのに」
わし。
続ける。
「今さら連れ戻す」
「…………」
「おかしいじゃろ」
沈黙。
(図星か)
「それから」
もう一つ。
「孤児院の土地」
男の目。
動いた。
(…………)
見逃さん。
「関係あるな?」
「何の話だ」
「下手じゃのう」
「…………」
「嘘をつく時は」
わし。
笑う。
「目を動かさん方がいい」
◇
男。
しばらく。
黙る。
そして。
「お前は」
低い声。
「何も知らないんだな」
「知らん」
素直。
認める。
「だから聞いとる」
「…………」
「この土地は何じゃ」
男。
わしを見る。
「ただの土地だと思っているのか?」
(やはり)
「どういう意味じゃ」
「セレナが」
一拍。
「偶然あそこに住んでいると思っているのか?」
(…………)
繋がった。
土地。
セレナ。
追放。
緑色の手紙。
全部。
別々。
ではない。
「詳しく話せ」
「それ以上は言えない」
「頑固じゃのう」
わし。
一歩。
近づく。
その時。
男の視線。
わしの胸元。
止まった。
「…………」
(何じゃ)
男。
顔色。
変わる。
「それ……」
わし。
胸元。
見る。
黒い。
ペンダント。
(これか)
転生した時から。
持っていた。
謎。
石。
「これがどうした」
「なぜ」
男。
一歩。
下がる。
「なぜお前が持っている」
(知っとるのか?)
「これは何じゃ」
「…………」
「答えろ」
「ありえない」
男。
顔。
青ざめる。
「それは……」
一拍。
「ここに存在していいものではない」
(何?)
次の瞬間。
――バチッ!
「っ!」
青白い。
電撃。
黒い石。
走る。
(またか!)
第一話。
わしの手から出た。
あの。
電撃。
同じ。
男。
完全に。
怯える。
「まさか……」
「何を知っとる」
「そんなはずはない……」
わし。
ペンダント。
握る。
神。
言った。
電撃。
知らない。
自分が与えた力ではない。
(つまり)
やはり。
別の何か。
この世界。
最初から。
わしに。
関わっている。
◇
『《ダイヤング》』
『残り時間――五十二分』
(…………)
そうじゃった。
寿命。
一年。
払っとる。
謎。
気になる。
だが。
一分。
惜しい。
「おい」
わし。
男を見る。
「最後に一つ」
「…………」
「このペンダント」
一歩。
近づく。
「どこで見た?」
男。
黙る。
やがて。
震える声。
言った。
「……森の奥」
(森?)
「どこじゃ」
男。
孤児院。
その向こう。
深い森。
見る。
「お前たちが住んでいる場所から」
一拍。
「さらに奥だ」
「…………」
「そこには」
男。
言葉。
詰まる。
そして。
「我々ですら近づかない場所がある」
風。
吹く。
黒い石。
再び。
小さく。
――バチッ。
光った。
(なるほど)
孤児院。
セレナ。
土地。
黒いペンダント。
そして。
森の奥。
(全部)
繋がっとる。
らしい。
わしは。
森を見る。
第二の人生。
商売を始めたと思ったら。
次は。
寿命を一年使って。
謎の連中と戦い。
今度は。
禁足地。
(忙しすぎんか?)
太く短く。
確かに。
そう願った。
(じゃが神様)
わしは。
心の中。
呟く。
(いくら何でも太すぎじゃろ)




