第12話 百十歳、寿命の使い道を決めます
孤児院。
玄関の前。
六人の男たちが立っていた。
全員。
弓を持っている。
そして。
長い耳。
(やはり、人間ではないようじゃな)
先頭の男がセレナを見る。
「最後に確認します」
「帰らない」
セレナ。
即答。
「これは命令です」
「知らない」
「抵抗するのであれば――」
男が手を上げる。
残りの五人。
一斉に弓へ手をかけた。
「強制的に連行します」
「やってみなさい」
セレナも弓を構える。
(まずいのう)
相手。
六人。
こちら。
セレナ一人。
しかも。
後ろには子供たちがいる。
「ロイ」
セレナが言う。
「みんなを連れて裏へ」
「……分かった」
「訓練通りに」
(よし)
昨日。
避難訓練をしておいてよかった。
ロイが年下の子たちを集める。
「行くぞ!」
「先生は!?」
ミナが叫ぶ。
「私なら大丈夫!」
(大丈夫な顔には見えんがな)
リリ。
動かない。
「リリ!」
ロイが手を掴む。
「行くぞ!」
「……先生」
「大丈夫」
セレナが笑う。
また。
その顔。
(嘘じゃ)
でも。
今は。
子供たちを安心させるため。
必要な嘘。
◇
子供たちが裏口へ向かう。
わしも。
ロイに抱かれている。
(…………)
このまま。
逃げる。
それが。
一番。
安全。
だが。
背後。
セレナ。
一人。
(六対一)
強い。
それは知っている。
森。
魔物。
簡単に倒した。
でも。
今回。
相手も。
訓練されている。
(さて)
昨日。
神からもらった。
ギフト。
《ダイヤング》。
寿命一年。
切り取る。
代わりに。
一時間。
全盛期の肉体へ戻る。
(…………)
いきなり。
使うことになるとは。
思わなかった。
だが。
まだ。
決めない。
寿命一年。
軽くない。
◇
「止まれ」
声。
背後。
使者の一人。
子供たち。
追おうとする。
――ヒュッ!
矢。
飛ぶ。
男の足元。
刺さる。
「子供に近づくな」
セレナ。
声。
低い。
「我々は危害を加えるつもりはありません」
「信用できない」
「ならば仕方ありません」
男。
動く。
二人。
左右。
セレナ。
弓。
一射。
一人。
避ける。
もう一人。
接近。
セレナ。
弓を捨てる。
鞭。
抜く。
――パァン!
「ぐっ!」
男の手首。
絡める。
引く。
転倒。
(強い)
だが。
三人目。
背後。
「先生!」
ミナ。
叫ぶ。
セレナ。
一瞬。
振り返る。
(まずい!)
その隙。
腕。
掴まれる。
「離せ!」
鞭。
振る。
だが。
もう一人。
加わる。
二人。
三人。
セレナを。
押さえ込む。
(…………)
わし。
拳。
握る。
◇
「レオン!」
ロイが言う。
「行くぞ!」
炭焼き小屋。
避難場所。
森。
向かう。
だが。
(待て)
このままでは。
セレナ。
連れていかれる。
わしは。
ロイの腕の中。
暴れる。
「あぅ!」
「どうした!?」
「あぅ! あぅ!」
「レオン!?」
わし。
近く。
茂み。
指差す。
「何?」
(下ろせ!)
「あぅ!」
「おむつ?」
(なぜじゃ!!)
「あぅうう!」
「分かった! 分かったから!」
ロイ。
困りながら。
わしを。
木の陰。
下ろす。
「すぐ戻るからな!」
(行け)
ロイ。
子供たち。
追う。
わし。
一人。
残る。
(…………)
ちょうどいい。
誰も。
見ていない。
◇
木の向こう。
セレナ。
押さえられている。
「離しなさい!」
「抵抗しないでください」
「誰が!」
「傷つけたくありません」
「だったら帰れ!」
(元気じゃな)
だが。
状況。
悪い。
わし。
目。
閉じる。
(本当に使うか)
一年。
春。
夏。
秋。
冬。
一年あれば。
色々。
できる。
前世。
百十年。
生きた。
だから。
分かる。
寿命とは。
数字。
ではない。
時間。
そのもの。
(…………)
だが。
わしは。
第二の人生。
決めた。
長く。
細く。
ではない。
太く。
短く。
生きる。
(それに)
目の前。
困っている人間。
いる。
助けられる。
力。
ある。
それを。
寿命が惜しいから。
使わない。
(それでは)
前世と。
何も。
変わらん。
わし。
小さな手。
握る。
(使う)
心の中。
唱える。
(《ダイヤング》)
瞬間。
――ドクン。
心臓。
大きく。
鳴った。
◇
(……っ!)
熱い。
身体。
内側。
燃える。
骨。
伸びる。
腕。
脚。
胴体。
視界。
どんどん。
高くなる。
ぷにぷにだった。
小さな手。
大きくなる。
指。
太い。
筋肉。
つく。
呼吸。
深い。
(これは……)
懐かしい。
この。
身体。
鏡。
なくても。
分かる。
神崎源一郎。
前世。
最も。
身体が動いた頃。
(……若い)
膝。
痛くない。
腰。
痛くない。
肩。
上がる。
(素晴らしいのう!)
思わず。
笑いそうになる。
だが。
すぐ。
気づく。
「…………」
裸。
(そうなるか)
赤ん坊の服。
当然。
使えない。
(これは想定外じゃ)
幸い。
近く。
洗濯物。
干してある。
(すまん、ロイ)
大きめの。
上着。
ズボン。
拝借。
少し。
小さい。
(まあいい)
裸より。
まし。
◇
その時。
頭の中。
声。
『《ダイヤング》発動』
『寿命――一年消費』
『残り時間――五十九分四十三秒』
(…………)
数字。
減っている。
(本当に一年払ったんじゃな)
妙な。
感覚。
後悔。
少し。
ある。
だが。
(もう払った)
返ってこない。
なら。
一秒も。
無駄にするな。
◇
「連れていけ」
使者。
セレナ。
腕。
拘束。
「離せ!」
「抵抗しないでください」
「絶対に帰らない!」
わし。
木陰。
出る。
「おい」
声。
出た。
(…………)
久しぶり。
言葉。
自分の声。
赤ん坊。
「あぅ」。
ではない。
普通に。
喋れる。
(ありがたい)
全員。
こちらを見る。
「誰だ?」
使者。
弓。
向ける。
セレナも。
わしを見る。
「…………誰?」
(よし)
分かっていない。
当然。
レオン。
赤ん坊。
今。
ここにいる。
男。
三十前後。
前世。
神崎源一郎。
同一人物。
思う方が。
おかしい。
(これは)
隠した方が。
よさそうじゃな。
「質問はこっちじゃ」
わし。
セレナを押さえている男。
見る。
「その女を離せ」
「関係者か?」
「まあ」
少し。
考える。
「そんなところじゃ」
「名前は」
(…………)
名前。
レオン。
駄目。
なら。
昔。
使っていた。
名前。
「神崎」
わし。
答える。
「神崎源一郎じゃ」
「カン……ザキ?」
使者。
聞き慣れない。
顔。
(当然じゃな)
セレナも。
眉。
ひそめる。
「あなた……」
「話は後じゃ」
「いや、誰なのよ」
(もっともじゃ)
でも。
説明。
できない。
「通りすがりの」
わし。
少し。
考える。
「爺じゃ」
「…………」
沈黙。
セレナ。
わしを。
上から下。
見る。
「どう見ても爺じゃないけど」
(そうじゃった)
「細かいことは気にするな」
「細かくない!」
◇
使者。
先頭。
一歩。
前。
「カンザキとやら」
「何じゃ」
「これは我々の問題だ」
「そうか」
「部外者は立ち去れ」
「嫌じゃ」
「…………」
「そこの女には」
わし。
セレナを見る。
「ちょっとした恩がある」
拾われた。
飯。
もらった。
名前。
もらった。
居場所。
もらった。
(十分じゃ)
「その借りを返す」
セレナ。
わしを見る。
「私、あなたなんて知らない」
「わしは知っとる」
「…………?」
(言いすぎたか)
使者。
弓。
構える。
「警告したぞ」
「そうか」
わし。
肩。
回す。
首。
回す。
(軽い)
身体。
本当に。
軽い。
前世。
全盛期。
そのまま。
ただし。
まだ。
《孤王》。
発動。
していない。
(まずは)
この身体。
どこまで。
やれるか。
確かめる。
神。
言った。
《孤王》は。
一人で戦う時のみ。
使える。
今。
セレナ。
まだ。
戦闘状態。
(なら発動しない)
それでいい。
まず。
セレナ。
逃がす。
「セレナ」
「……何」
「子供らのところへ行け」
「どうしてあなたが子供たちを知ってるの?」
(…………)
鋭い。
「細かいことは後じゃ」
「だから細かくないって!」
(面倒じゃのう)
わし。
使者たち。
見る。
「とにかく」
一歩。
前へ。
「ここはわしが引き受ける」
先頭の男。
弓。
引く。
「後悔するぞ」
(後悔)
わし。
少し。
笑う。
「もう寿命一年払っとる」
「……何?」
「こっちの話じゃ」
残り。
五十八分。
少し。
切った。
(さて)
寿命一年分の。
一時間。
そして。
第二のギフト。
《孤王》。
まだ。
眠っている。
わしは。
拳。
握る。
(まずは)
セレナを逃がす。
それから。
一人になった時。
《孤王》が。
どれほどのものか。
試させてもらおう。
セレナは。
まだ知らない。
目の前にいる。
正体不明の男。
神崎源一郎が。
ついさっきまで。
自分が抱いていた。
赤ん坊。
レオンであることを。
(まあ)
知らん方が。
都合がいい。
今のところは。




