第11話 百十歳、儲かったからこそ計算します
「全部売れたって!」
朝からミナの声が孤児院に響いた。
(全部?)
わしはセレナの腕の中で目を開く。
昨日、店に預けた《森守り》五個。
それが全部売れたらしい。
「もっと欲しいって!」
「やったー!」
ミナが飛び跳ねる。
「お肉買えるね!」
(また肉か)
「全部使ったら意味ないだろ」
ロイが呆れる。
(その通りじゃ)
初めて商品が売れた。
嬉しい。
だが。
(喜ぶのはまだ早い)
孤児院には期限がある。
あと一ヶ月もない。
◇
その日の夕方。
町から戻ってきたセレナは、一枚の紙を机に置いた。
「土地の金額を聞いてきた」
(ようやくか)
「いくら?」
ロイが聞く。
セレナは少し黙ってから答えた。
「金貨三十枚」
部屋が静かになった。
「……多いの?」
ミナ。
「かなりね」
わしは硬貨を指差す。
「あぅ!」
「金貨の価値?」
ロイが気づく。
(そうじゃ)
「金貨一枚は銀貨百枚」
セレナが言う。
(…………)
金貨三十枚。
銀貨三千枚。
《森守り》を何個売ればいい。
頭の中で計算する。
(無理じゃな)
少なくとも。
今の商売だけでは間に合わない。
「ここ、なくなるの?」
リリがセレナの服を握る。
「…………」
「やだ」
小さな声。
「ここがいい」
わしは皆を見る。
(なら方法を変える)
金を全部稼ぐ。
それだけが解決ではない。
期限を延ばす。
分割。
交渉。
そして。
(そもそも、誰がこの土地を欲しがっとる?)
相手の目的が分からない。
まずはそこじゃ。
◇
その時。
コン。
コン。
コン。
扉が叩かれた。
全員の表情が変わる。
セレナが弓を取った。
「誰?」
扉の向こうから男の声。
「セレナ・アル――」
「その名で呼ぶな」
セレナが即座に遮る。
(今、何と言った?)
「失礼」
男の声が冷たくなる。
「では、追放者セレナ」
(追放者?)
セレナの顔から表情が消えた。
「何の用」
「迎えに参りました」
「帰らない」
「あなたの意思は関係ありません」
窓の外。
人影が動く。
一人。
二人。
三人。
(囲まれとるな)
どの人物も弓を持っている。
そして。
月明かりに照らされた横顔。
(……耳)
長い。
昨日の人影と同じだ。
「三日後のはずでしょ」
セレナが言う。
「予定が変わりました」
「勝手ね」
「今夜、帰還していただきます」
セレナが弓を構える。
「断る」
空気が張り詰めた。
◇
わしは小さな拳を握る。
昨日。
神から渡された二つのギフト。
《孤王》。
一人で戦う時だけ、超人的な身体能力を得る。
そして。
《ダイヤング》。
寿命一年と引き換えに。
一時間だけ。
肉体を全盛期へ戻す。
(まさか)
もらった翌日に使うことになるとは思わなかった。
だが。
まだ決めない。
一年。
軽いものではない。
百十年生きたからこそ分かる。
一年あれば。
色々なことができる。
(命を安売りする気はない)
まず話を見る。
戦わず済むなら。
それが一番だ。
だが。
もし。
セレナを無理やり連れていくなら。
子供たちに手を出すなら。
この場所を壊すなら。
(その時は――)
わしは扉を睨む。
第二の人生。
初めて。
自分の寿命を。
何に使うのか。
決める時が来るかもしれなかった。




