第4話 1歳になりました
――次の日(1歳)――
ついに朝が来てしまった。
昨日試着した服を着せられながら、俺はぼんやりと思う。
……帰りたい。
(まだ出発もしていませんよ。)
まあでも。
よく考えたら――初めての外出だ。
今までずっと屋敷の中だったしな。
そう思うと、少しだけ気分が変わる。
王都に行けば、この世界の文化も分かるかもしれない。
街の違いとか、建物とか、人の流れとか。
……普通に楽しみだな。
(切り替え早すぎません?)
――王都へ向かう馬車の中。
思っていたより揺れない。
もっとガタガタするのかと思っていたが、道がしっかり整備されている。
窓の外には畑や小さな集落が見える。
……意外と発展してるな、この国。
(観察視点が完全に大人なんですよね。)
しばらくして――
王都が見えてきた。
でかい。
素直にそう思った。
高い城壁に囲まれた街。
門の前には人と馬車の列ができていて、活気がある。
中に入ると、さらに人が増えた。
店、露店、行き交う人々。
声が飛び交っている。
……すごいな。
(感想が急に年相応っぽくなるのやめてください。)
ふと視線を横に向けると、別の馬車が見えた。
中には――同じくらいの年の子供。
完全に赤ちゃんだ。
抱えられてるし、泣いてる。
……あれが普通か。
(当たり前です。)
◆王城
中に入ると、一気に空気が変わった。
静かで、広くて、無駄がない。
床も壁も綺麗に整えられていて、歩くだけで音が響く。
そして――
俺は歩いている。
一歳なのに。
(誰もそこには触れないんですね。怖いです。)
視線をめちゃくちゃ感じる。
二度見どころか三度見くらいされてる。
まあいい。
気にしたら負けだ。
案内されて広場のような場所で待機する。
どうやら順番に呼ばれて、王と会うらしい。
呼ばれた貴族たちは、数分で戻ってくる。
……確認だけって感じか。
そう思っていたら――
気づけば、俺が最後だった。
「ルーク・アルヴェイン」
呼ばれた。
……今、初めてフルネーム知ったんだけど。
(タイミングどうなってるんですか。)
まあいい。
俺はそのまま歩き出す。
扉が開かれ、謁見の間へ。
広い。
両側に並ぶ大臣たち。
奥には三つの席。
中央に国王、その隣に王妃、そして王子。
……威圧感がすごい。
騎士に導かれて進む。
母親は途中で止められていた。
どうやらここから先は一人らしい。
ざわざわと周囲が騒ぎ始める。
まあ原因は分かってる。
一歳が普通に歩いてるからだ。
(そこだけじゃなくて態度の方なんですけどね。)
騎士が止まり、俺も止まる。
その瞬間。
「静まれ。」
一言で、空気が止まった。
……すげぇな。
「ルークよ。」
国王がこちらを見る。
「私はこの国の国王、アレクシオン・グラン=ヴァルディアだ。」
低く、よく通る声。
「早速だが――」
目が細くなる。
「おぬし、我の言葉を理解しておるな?」
ざわっ、と空気が揺れた。
「……なんなら、話せるのではないか?」
……バレてる。
なんでだよ。
(情報網えぐいですねこの人。)
しかもこの流れ、拒否権なさそうだな。
国王が笑う。
「ほれ。話してみよ。」
……はぁ。
仕方ない。
一歩前に出る。
そして。
「――はじめまして。」
場の空気が、一瞬で変わった。
「ルークと申します。本日、一歳となりました。
このような場にお招きいただき、光栄に存じます。」
沈黙。
完全に止まった。
やりすぎたか?
(やりすぎです。)
「……くくっ」
国王が笑い出す。
「はははははっ!予想はしておったが……これは面白い。」
完全に楽しんでるな、この人。
「よい。気に入った。」
え?
「このあと、客間に来い。少し話をしようではないか。」
……は?
予定外なんだけど。
「本来なら顔見せだけで終わりでは?」
思わず口に出た。
「まあよいではないか。」
軽いなこの人。
王妃も王子も、興味深そうにこちらを見ている。
……決定っぽいな。
(完全に自業自得です。)
はぁ。
逃げられないか。
「……かしこまりました。」
こうして俺は――
ただの顔見せのはずだった謁見で、
なぜか“追加イベント”に巻き込まれることになった。




