第23話 なんか騒がしくない?
◆クリスタルラビリンス・入口前
ダンジョンの外。
重厚な扉の前に強制帰還された瞬間――
「……あれ?」
空気が、明らかに違った。
人が多い。
入口前の広場に、びっしりと。
冒険者、商人、見物人。
普段なら通り過ぎるだけの場所に、人だかりができている。
そして――
全員の視線が、一斉に向く。
――ルークに。
「なんか騒がしくない?」
(完全にあなたのせいです。)
「いや、なんで?」
そのとき。
「あっ!ルーク様!」
人混みをかき分けて、ミュリエルが走ってくる。
少し息を切らしながら、目の前で止まった。
「おかえりなさい!無事で何よりです!」
「ただいま。なんか人多くないか?」
「それは……」
言いにくそうに、ちらっと周囲を見る。
その間にも、ひそひそ声が飛び交う。
「さっきの配信の子だよな…」
「いや実物もっと小さくないか?」
「マジであのダンジョン一人で?」
「……あー」
ルークは、なんとなく察した。
「もしかして配信のせいか?」
「はい……大変なことになってます」
(“大変”で済ませていいレベルではないんですがね。)
◆冒険者ギルド内
扉を開けた瞬間。
ざわっ――
空気が揺れる。
中にいた全員の視線が、一斉に集まった。
カウンター前、テーブル席、壁際。
どこにいても、視線が刺さる。
「え、なにこれ」
「現在、ルーク様の配信が……その……」
「うん?」
「とても注目されています」
「へぇ」
(軽いですね。もう少し驚いてもいいと思いますよ。)
カウンターへ。
ミュリエルが書類を取り出し、手続きを始める。
周囲は静かだが、耳を澄ませば全員が会話を聞いているのが分かる。
「今回のダンジョンですが……」
一度言葉を区切る。
「クリスタルラビリンス、完全制覇扱いになります」
「完全制覇?普通と違うの?」
「はい。通常ボスに加えて――」
一瞬、周囲を見る。
「特殊個体、クリスタルロードの討伐が確認されていますので」
「クリスタルロード?」
(やはりあれはイレギュラーでしたか。)
「あー、最初のやつか」
「はい。あれは本来出現しない個体です」
「ラッキーだな」
(感覚がバグってますね。)
ミュリエルは小さく息を整え、続ける。
「それと――ランクについてなのですが」
「お、上がるのか?」
「はい。本来であれば試験や段階を踏みますが……」
ギルド内が、しんと静まる。
誰もが聞き逃さないように、息を潜めている。
「今回の実績により、特例昇格が適用されます」
「特例?」
「Fランクから――Cランクへ昇格です」
一瞬の静寂。
そして――
「はぁ!?」
ギルド中が爆発した。
「一気に3段階!?」
「ありえねえだろ!」
「聞いたことねえぞそんなの!」
椅子を蹴る音、立ち上がる気配。
ざわめきが一気に広がる。
「おー、結構上がったな」
(その反応なんですか。)
そのとき――
コツ、コツ……
奥から、重い足音。
騒がしかった空気が、スッと冷える。
人が自然と道を空ける。
現れたのは――
長身の男。
無駄のない体つき。
鋭い目つき。
ただ立っているだけで、周囲を圧する存在感。
「あの人……」
「ギルドの……」
小さなざわめき。
男はルークの前で止まる。
見下ろす。
じっと、観察するように。
「……お前が例のガキか」
「たぶんそうだな」
(肝が据わりすぎでは?)
一瞬の沈黙。
そして――
男の口元が、わずかに歪む。
「面白い」
それだけ言って、背を向ける。
そのまま何事もなかったかのように、奥へ戻っていった。
張り詰めていた空気が、ゆっくりと緩む。
「誰だあれ?」
「……この支部のトップクラスの冒険者です。
Aランク、ガルム・レイヴァルド」
「へぇ」
興味はあるが、それ以上でもない。それよりもすぐ帰っていったけど何のために来たかだけ気になる。
(本当にブレませんね。)
◆ギルド外
外に出ても、人は減っていなかった。
むしろ増えている。
遠巻きに見る者、こっそり近づく者。
完全に“見世物”状態。
「有名になるってこんな感じなのか?」
(もう“ちょっと有名”ではないんですがね。)
「まあいっか」
軽く伸びをする。
「今日は帰って休むか」
小さな背中が、人混みの中を抜けていく。
その背中を――
無数の視線が、いつまでも追い続けていた。
――同時刻・王都。
薄暗い部屋。
机の上に置かれた魔道具が、淡く光っている。
そこに映るのは――
一人の少年。
ダンジョンを軽々と攻略する姿。
「……なんだこれは」
椅子に座る男が、低く呟く。
指で映像を操作し、巻き戻す。
スライムの核を撃ち抜く瞬間。
迷路を迷わず進む動き。
そして――
あの“異常なボス”を前にした、余裕の表情。
「Fランク……ね」
小さく笑う。
「さすがに、その冗談は無理があるだろ」
もう一度、再生。
無駄のない動き。
迷いのない判断。
そして圧倒的な火力。
「……なるほど」
今度は、はっきりと笑った。
「“本物”か」
背もたれに体を預け、天井を見上げる。
「こういうのを待ってたんだよな」
楽しそうに目を細める。
「いいね」
ゆっくり立ち上がる。
「久しぶりに、ワクワクしてきた」
窓の外へ視線を向ける。
遠くを見るように。
「――会いに行くか」
その声には、確かな確信があった。
その名は――
ゼノス・フレイアーク。
世界一の配信者。




