第22話 あれ、これで終わり?
◆クリスタルラビリンス・深部
「じゃあ探索ってことで」
ルークは何事もなかったかのように歩き出す。
背後では――
先ほど倒した巨大な結晶の残骸が、音もなく崩れ続けていた。
キラキラと光りながら砕けていく破片が、床に散らばっていく。
(あれを倒して探索続行は普通ありえないんですけどね。)
「ん?」
ふと視界の端に映る配信画面。
【視聴者:2,843】
「また増えてるな」
コメントの流れも、さっきとは比べ物にならないほど速い。
【さっきのボスなんだったの?】
【あれ中級じゃないだろ】
【てかなんで普通に進んでるの】
【帰らないの!?】
「え、帰るのが普通なのか?」
(普通はボス撃破=帰還ですね。)
「だって強制帰還されてないってことはまだ何かあるってことでしょ?
だから全部見て周る」
【全部!?】
【やばい】
【この子絶対おかしい】
――さらに奥へ。
通路は徐々に複雑になっていく。
左右に分かれ、さらにその先でも分岐。
上へ続く細い道、下へ沈むような通路。
完全な迷路構造だった。
「これがラビリンスってやつか」
ルークは壁に手を当てる。
ひんやりと冷たい結晶の感触。
透き通った壁の向こう側には――
ぼんやりと別の通路や空間が見えている。
「……先の道が見えるな」
(本来は光の反射で方向感覚が狂う構造なんですがね。)
「じゃあ近い方でいいや」
迷うことなく、最短ルートを一直線に進む。
【迷ってないのなんで?】
【マップ見えてる?】
【マップなんてあったけ?】
【え、チート?】
――その瞬間。
ゴゴゴゴ……!!
前方の通路が、重い音を立てて塞がれた。
同時に――
ズシン……ズシン……
床を揺らす重い足音。
現れたのは――
全身が結晶でできた巨体。
クリスタルゴーレムが5体。
それぞれが、鈍く光る腕を振り上げている。
「お、さっきより数多いな」
(完全に囲まれてますね。)
前後左右、逃げ道はない。
だが――
「まあ関係ないけど」
パチン
指を鳴らした瞬間。
ドゴォォン!!
足元の地面が一斉に隆起。
無数の土の槍が、四方八方から突き上がる。
さらに――
ゴォッ!!
風魔法で一気に加速。
ズドドドド!!
すべての槍が、正確にゴーレムの核を貫いた。
パリンッ
パリンッ
パリンッ
連続して砕ける結晶音。
5体すべて、ほぼ同時に崩れ落ちる。
「うん、やっぱまとめて倒す方が楽だな」
(発想が雑すぎます。)
【一瞬!?】
【えぐ】
【何したの今】
【強すぎ】
【視聴者:6,521】
「増え方おかしくない?…まあ嬉しいけど」
そのままさらに奥へ。
――空気が変わる。
ピリッ
肌を刺すような圧。
周囲の光も、わずかに揺らいで見えた。
「……これが本命か?」
(今度は“正規のボス”っぽいですね。)
広く開けた空間。
天井は高く、結晶が柱のように突き出ている。
中央には――
巨大な結晶の“核”。
そしてその周囲を――
無数の結晶片が、ゆっくりと浮遊していた。
まるで衛星のように、核の周りを回っている。
「さっきのよりシンプルだな」
ドクン――
核が脈打つ。
その瞬間。
ビュンッ!!
結晶片が一斉に射出された。
四方八方からの高速弾幕。
ビュンッ!ビュンッ!ビュンッ!!
「おっと」
ルークは最小限の動きで回避。
一歩ずつ、無駄なく位置をずらす。
だが――数が多い。
視界を埋めるほどの結晶弾。
「へぇ、ちょっとはやるな」
(普通はここで詰みます。)
「でも――」
ルークは一歩踏み込む。
そのまま、一直線に核へ。
結晶の弾幕の中へ突っ込んでいく。
【え!?突っ込んだ!?】
【避けながら進んでる!?】
スッ
スッ
スッ
紙一重。
すべての攻撃を“ギリギリ”でかわす。
「当たらなければ意味ないって」
そして――
核の目前。
キンッ
剣を一閃。
パキッ
中心にヒビ。
「やっぱここか」
さらに一歩踏み込み――
もう一撃。
パリンッ!!
核が完全に砕けた。
その瞬間。
ゴゴゴゴ……
空間全体の結晶が崩壊を始める。
浮いていた結晶片が次々に落下し、砕けていく。
ドォォォン……
静寂。
「……終わり?」
(あっさりしすぎでは……)
ピロンッ
【視聴者:12,947】
コメント欄が爆発する。
【終わった!?】
【早すぎる】
【意味わからん】
【Fランクってなんだっけ】
【この子誰!?】
「これで終わりっぽいな」
軽く肩を回す。
「じゃあ帰るか」
【え、あっさり】
【もっと見たい】
【配信終わるの!?】
「また来ればいいだろ」
(その“また”が普通じゃないんですよね。)
配信を切る。
光が消え、ダンジョンの静けさが戻る。
出口へ向かいながら、ルークはぽつりと呟いた。
「配信ってこんな感じでいいのか?」
(既に大成功だと思いますが。)
「まあ楽しかったし、いいか」
――この日。
無名だった一人の少年の配信は、
一気に世界中へと広まり始めた。
だが本人は――
その意味を、まだ何一つ理解していない。
(ここからが本番ですね。)




