第19話 準備?
くそっ……なんでこんなことになったーー!!
時は少しさかのぼる。
――朝。
よし!今日はダンジョンに行くぞ――
「ルーちゃーーん♡」
ドアが勢いよく開いた。
次の瞬間、母に抱きつかれる。
「おはよう!ルーちゃん!どこか行こうとしてるでしょ?
許しませんよ~?昨日言いましたよね?
“明日は一日中構う”って♡」
うげええええ。そんなことも言ってたような…?
(頑張ってください)
―――
その後。
高速で着替えさせられ、朝食を食べさせられ――
気づけば、馬車の中だった。
……いや早すぎるだろ。
外を見ると、すでに街の中心部。
完全に逃げ場なし。
(計画的犯行ですね。)
そして連れてこられたのは――商店街。
朝から人通りが多く、活気にあふれている。
露店の呼び込み、笑い声、食べ物の匂い。
……本来なら楽しめるはずの場所だが。
「……何か買うのか?」
一応聞いてみる。
わずかな希望を込めて。
だが――
入ったのは服屋。
その瞬間、すべてを悟った。
(終わりましたね。)
「きゃあああ!ルーちゃんかわいいー!!」
店内に響く歓声。
気づけば、店員までノリノリで参戦している。
目の前には――
山のような服。
しかも全部フリフリ。
「これ着てみて♡」
渡されたのはピンクのワンピース。
いや待て。
「いや無理だろ!?」
(似合いそうですね)
その後も――
黄色のフリフリスカート。
リボンだらけの服。
用途不明の装飾がついた謎の衣装。
試着、試着、試着。
終わらない。
逃げ場もない。
……精神が削られていく。
なんでこんなことになったーー!!
―――
現在。
……本来なら今頃ダンジョンで暴れていたはずなのに。
しくしく。
「はぁ……」
今の俺の最大の敵。
それは間違いなく――母だ。
(同意です。)
だが耐えるしかない。
母が満足するまで終わらないからな。
……午後、絶対ダンジョン行く。
――昼。
ようやく解放された。
外に出た瞬間、空気がうまい。
自由って最高だな。
(大げさではありませんね。)
服屋の後も――
アクセサリー、カバン、また服屋。
……思い出したくもない。
ちなみに全部買うって言われたが、全力で断った。
(似合ってましたけどね)
忘れろ。
すべて忘れろ。
なぜなら――
やっと自由だからだ!
「よし!まずは冒険者ギルドだ!」
父には手紙を渡してある。
勝手に動いたことにはならないはずだ。
門の近く――
確かにあった。
大きな建物。
人の出入りも多い。
◆アルヴェイン領・冒険者ギルド
中に入ると、視線が一瞬集まる。
……まあ慣れた。
そのまま受付へ向かおうとすると――
「あっ、ルーク様!」
聞き覚えのある声。
「やっぱりまた会いましたね!
実は私、ちょうどこのタイミングでこちらに移動になりまして」
ミュリエルだった。
……タイミング良すぎるだろ。
「……多分、王様の意図だろうな」
「かもしれませんね」
苦笑いで返される。
(完全に監視役ですね。)
そんな会話をしていると――
「おうおうおう」
後ろから声がかかる。
振り返ると――
いかにも“それっぽい”男。
「ぼくちゃん、この国の王様を悪く言うと首ちょんぱだぜ~?」
……出た。
どこにでもいるやつ。
よし、お前はモブDだ。
(ついにDまで来ましたね)
……いや待て。
これ普通に忠告じゃないか?
見た目に反していいやつか?
「大丈夫だよ。俺、王様と友達だから」
「はぁ?冗談でもやめとけって」
「本当なんだけど」
「それよりよく喋るな。小さいけど5歳くらいか?」
「まあそんな感じ」
「気に入った!俺様と仲良くしようぜ!」
「いいよ」
軽く頷く。
……意外と悪くないな。
――その時。
ミュリエルが小声で聞いてきた。
「……本当のこと、言わなくてよろしいのですか?」
「いいよ。変に怖がられても面倒だし」
それよりも。
「ダンジョン行きたいから手続き頼む」
「すでに済ませてあります。いつでも行けますよ」
「気が利くな」
ミュリエルは少し嬉しそうに微笑んだ。
――ついに。
ここまで長かった。
母という最大のボスを倒し。
ようやく辿り着いた。
「じゃあ、行ってくる」
ギルドを出る。
外の空気がやけに軽く感じた。
(自由の味ですね。)
今度こそ。
――ダンジョンだ。




