第17話 表出ろ!
ボスも――弾け飛んだ。
というより、跡形もなく消し飛んだと言った方が正しい。
衝撃はあったはずなのに、肉片が飛び散るようなこともなく、ただ一瞬で粒子みたいに崩れて消えた。
……だからだろうか。
不思議とグロさは感じなかった。
(威力が高すぎて“そういう段階”を通り越してますね。)
足元に残ったのは、ひとつの大きな宝石。
スライムの時に落ちたものより、明らかに大きい。ざっと見ても三倍くらいはある。
表面はほんのり光を帯びていて、中に魔力が詰まっているのが分かる。
「敵の強さで変わる感じか?」
(おそらくそうでしょうね。)
とりあえず回収。
収納魔法に放り込んだ瞬間――
視界が歪んだ。
次の瞬間には、ダンジョンの入口に立っていた。
「……お、戻された」
強制帰還か。
まぁ確かにボス倒したしな。
「終わったか。早かったな」
(あなたが異常なだけです。)
洞窟の外は、さっきと変わらず静かだった。
ただ、ついさっきまでボス部屋にいたせいか、妙に現実感が薄い。
……まぁいい。
とりあえず報告しに戻るか。
◆冒険者ギルド
扉を開けた瞬間。
ギィィ――
中にいた全員の視線が、一斉にこちらへ向いた。
そして――ざわっ。
空気が揺れる。
「……もう戻ってきたぞ?」
「いやいや、さすがに早すぎだろ」
「30分も経ってねぇぞ……?」
(当たり前です。)
俺はそのまま受付へ向かった。
カウンター越しにミュリエルと目が合う。
――固まった。
完全にフリーズしている。
「……もしかして難しくて帰ってきちゃったんですか?
……それとも、もうクリアしたんですか?」
恐る恐る、という感じで聞いてくる。
「あーいや、終わらせてきた。初心者用にしても簡単すぎないか?」
「えっ」
ミュリエルの口がそのまま開いたまま止まる。
後ろではさらにざわめきが広がっていた。
「最速……?」
「いや最速どころじゃねぇだろ……」
「ソロで行ったよなあいつ……?」
(普通はパーティーで半日以上かかりますからね。)
「……最速ですね……」
ミュリエルがぽつりと呟いた。
まぁ記録とかはどうでもいい。
今は次だ。
「ダンジョン配信したいんだけど、この辺でおすすめのダンジョンある?あ、強いやつで」
その一言で、また空気が変わった。
「強い……?」
ミュリエルは一瞬考え込んでから、こくりと頷く。
「少し調べてきますので、お待ちください」
「わかった」
俺は近くの椅子に座った。
木製の椅子は少し硬いが、妙にしっくりくる。
周囲ではまだざわざわとした声が続いている。
――その時。
「おい、そこのお前!」
……来たな。
(テンプレですね。)
振り向くと、いかにもモブっぽい三人組が立っていた。
よし決めた。
お前らはモブA、B、Cだ。
装備はそこそこだが、雰囲気が軽い。
「あ?なんだよ」
「赤ちゃんのくせして最速クリアとか嘘だろ」
「誰かに手伝ってもらったんじゃないんでちゅか~?」
……は?
一瞬、空気が冷えた気がした。
(前にもありましたね、この流れ。)
「……お前ら、やっていいか?」
(どうぞ。)
「表出ろ」
そう言って立ち上がる。
三人は顔を見合わせてから、ニヤニヤと笑った。
「いいぜいいぜ。赤ちゃんが何できるのか見せてもらおうじゃねぇか」
――数分後。
ギルドの外にある戦闘エリア。
石畳の広場は結界で囲まれていて、観戦用のスペースも用意されている。
既に野次馬が集まり始めていた。
「おい、あのガキやるのか?」
「さっきの最速クリアのやつだろ?」
「面白くなってきたな……」
(完全に見世物ですね。)
その時、ミュリエルが走ってきた。
「ちょっと待ってください!」
息を切らしながら、間に割って入る。
「冒険者同士で無許可の戦闘は禁止です!
違反すると資格剥奪になります!」
なるほど。
「じゃあ正式に頼む」
「はい!……あとで申請通しますね!」
そして――小声で。
「正直、私もイラッときたので、ボコボコにしてやってください」
……いい人だな。
「準備いいか?」
「おうよ!」
三人はまだ余裕の表情で構えている。
……まぁいい。
軽くでいいよな。
「じゃあ――始めるか」
「赤ちゃんの攻撃はどうせしょぼいんだし何もしなくていいか」
――ブチッ。
一瞬、意識が途切れた。
いや、正確には――
“制御が外れた”。
ドンッッッ!!!
空気が爆ぜた。
次の瞬間、視界いっぱいに衝撃波が広がる。
石畳が抉れ、砂煙が一気に巻き上がった。
「……あ」
やばい。
やりすぎた。
煙がゆっくりと晴れていく。
そこには――
地面にめり込んだ三人の姿。
ぴくりとも動かない。
……死んでないよな?
「すごい状態ですね……」
後ろからミュリエルの声。
振り返ると、なぜかちょっと楽しそうな顔をしていた。
「大丈夫ですよ!
ここは過去の事件をきっかけに、“このエリア限定”で復活システムが導入されてますので!」
なるほど。
だからあんなに気軽に戦えるのか。
「それにしてもスッキリしましたー!」
めっちゃ笑顔だな。
(ストレス発散ですね。)
「……で、ダンジョンの件なんですけど――」
ミュリエルが気を取り直すように続けた。
その目は、さっきまでとは違って少し真剣だった。




