第16話 ついに!
魔法の訓練は――
「もう教えることはありません!!」
その一言で、あっさり終わってしまった。
ついさっきまで騒がしかった訓練場は、どこか気まずい空気に包まれている。
魔法団のメンバーたちは、遠巻きにこちらを見ながらコソコソ話していた。
……いや、俺そんなに何かしたか?
(しましたね。)
……まぁいい。
ということで――
ついにやるぞ。
ダンジョン配信!
配信は前世で見てたが、まさか自分がやる側になるとはな。
ダンジョンだけど。
とりあえず詳しい人を探すか、と思って城の中を歩いていると――
まさかのリリアが詳しかった。
「リリア。ダンジョン配信者になるにはまず何したらいい?」
声をかけると、リリアは少し驚いた顔をしたあと、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。
「そうですね……」
少しだけ顎に手を当てて考え、
「まずはダンジョンに入れないと意味がないので――冒険者登録ですね!」
と、はっきり言い切った。
なるほど。
確かにそれがスタートラインか。
「じゃあ行ってくる。ちなみにどこ?」
「ここです!」
リリアが取り出した地図には、街の中心から少し外れた場所に印がついていた。
◆冒険者ギルド
外観は石造りで、いかにも“荒くれ者が集まる場所”って感じだ。扉もやたら分厚いし、傷だらけだしで、ちょっと圧がある。
「ここか……」
中に入ると――
酒と汗の匂い。
そして視界いっぱいに広がる、ガタイのいいオッサンたち。
……場違い感すごいな。
というか改めて思うけど――
俺、まだ1歳なんだよな?
(やっと自覚しましたか。)
受付まで歩いていくと、周りの視線が一斉に集まった。
ヒソヒソどころじゃない。
完全にガン見。
……まあ、赤ちゃんが普通に歩いて喋ってたらそうなるか。
受付のお姉さんに声をかける。
「冒険者登録をしたいんだが……」
――シン。
ギルド全体が静まり返った。
……え、そんな止まる?
(当たり前です。)
受付のお姉さんが恐る恐る身を乗り出してきた。
「すみません……
もしかして、ルーク・アルヴェイン様ですか?」
「そうだが、なんで名前を?」
そう答えると、お姉さんは慌ててカウンターの下から一枚の紙を取り出した。
「実は……こちらに紹介状が来ていまして。
国王様からです」
見せられた紙は、妙に光沢があって……というか、うっすら魔力を帯びていた。
ただの紙じゃないなこれ。
「持つだけで震えますぅ……」
受付のお姉さんの手が本当に震えている。
……そんなにやばいのか?
「まぁそれは置いといて!」
と、無理やりテンションを戻しながら続ける。
「冒険者登録をしたいんですよね?
本来は年齢的に無理なのですが……
国王様より強いと聞いているので、特別許可します!
歴代最年少ですね!」
ザワッ――
背後で一気に空気が動いた。
「国王より強いってマジかよ……」
「赤ん坊だぞ……?」
「いやあれ絶対普通じゃねぇだろ……」
(全部正解ですね。)
「ただしルールなので、Fランクから始めてもらいます。
こちらが冒険者カードです」
差し出されたカードは金属製で、表面には名前とランクが刻まれている。
ほんのり魔力も感じるな。
「身分証にもなるので常に持ってくださいね」
「ランクを上げるには?」
「基本は昇格試験ですね。ただ――」
受付の――名札を見ると“ミュリエル”と書いてあるお姉さんは、少しだけ声を落とした。
「特別な実績があれば、試験なしで上がる場合もあります」
「へぇ」
「もっとも、普通はありえませんけどね」
……なるほど。
じゃあその“ありえない”やつ、やるか。
「初心者用ダンジョンとかある?」
「はい、あります」
ミュリエルが地図を広げ、指で場所を示す。
「こちらですね。
名前は――《ミストフォレスト洞窟》です」
少し距離があるな。
歩くのめんどくさい。
……あ。
これ、いけるんじゃね?
人気のない路地に移動して、目を閉じる。
頭の中に“場所”を強くイメージする。
《ミストフォレスト洞窟》。
パチン。
軽く指を鳴らした瞬間、体がふっと軽くなった。
次に目を開けると――
見知らぬ山の前に立っていた。
……来たなこれ。
(来ましたね。)
入口は岩肌に埋め込まれたような巨大な扉で、横には看板と認証装置が設置されている。
《ミストフォレスト洞窟》
間違いない。
俺は冒険者カードを取り出し、装置にかざした。
ガチャッ――
重い音を立てて扉が開く。
中からひんやりした空気が流れてきた。
「おお……」
中は完全な洞窟。
湿った土の匂い、ぽたぽたと落ちる水音、足音が反響する空間。
……雰囲気いいな。
暗さは問題ない。
光魔法をほんのり灯すと、周囲が自然に見える程度に明るくなった。
しばらく進むと――
ぬるっとした動きの影。
「おっ」
初モンスター発見。
……スライム。
定番すぎる。
ぷるぷるしてるし、なんかちょっと可愛いな。
でも普通に攻撃したら消し飛びそうだ。
(もう結果が見えてますね。)
そういえば、さっき思いついた魔法がある。
名付けて――
「指水鉄砲」
(ネーミングそのままですね。)
手を銃の形にして、人差し指に意識を集中。
水を一点に圧縮して――
シュッ!
一直線に飛んだ水がスライムに命中。
――バンッ!
(弾け飛びましたね。)
……加減ミスった。
「すまん」
床にはキラッと光る小さな石が落ちていた。
これがドロップか。
とりあえず収納。
さらに奥へ進む。
洞窟は少しずつ霧が濃くなってきて、視界が白くぼやけている。
……その時。
カチッ。
「……あ」
足元から嫌な音。
次の瞬間、視界が歪んだ。
――ワープ。
気づいたら、広い空間に立っていた。
天井が高く、中央には巨大な影。
「……ボス部屋か」
(運がいいのか悪いのか分かりませんね。)
現れたのは――
クソデカゴブリン。
多分普通のゴブリンの何倍もある体格で、棍棒を肩に担いでいる。
……でも。
正直、弱そう。
「じゃあいくか」
指を構える。
シュッ。
――ドン。
一瞬で終わった。
ゴブリンは何が起きたかも分からず、そのまま崩れ落ちる。
静寂。
「……え?」
(ボスとは何だったのか。)




