第13話 全員Let's go!
――しばらくたった後
結界はなんとか持ちこたえた。
……が、その代償は大きかった。
広い訓練場の床には、魔法団の面々が見事に倒れている。
さっきまで騒がしかった場所が、嘘みたいに静かだ。
唯一動いているのは――
「もう私、魔力なくなりました……!」
リュゼルが床に大の字になりながら叫んでいた。
「全員倒れてるじゃないですか……!さっきの魔力密度おかしいですよ!ちっさい魔法にどれだけ魔力込めてるんですか!」
声に元気はあるが、体は完全に限界らしい。
「え?ほんの少ししか入れてないぞ?」
(あなたの“少し”は一人分どころか二十人分ですね。)
「やっぱり魔力量の問題ですね……分けてほしいくらいです……」
リュゼルは天井を見上げながら、深くため息をついた。
周囲を見渡す。
倒れている魔法団員。
魔力を使い果たし、ぴくりとも動かない。
……さすがにやりすぎたか。
「こんな状態じゃ続きも出来ません。今日はここまでにしましょう。また明日です……」
「じゃあねールークくん……」
エルフェードが寝転んだまま、ひらひらと手を振る。
……いや。
さすがにこのままはまずいだろ。
「まだ帰らないぞ。」
全員の視線が、ゆっくりこちらに向く。
「俺のせいでこうなったんだ。医務室まで運ぶ。」
一瞬の沈黙。
そして――なぜか全員固まった…ように見える。
もともと動けてないけど。
……まぁいいか。
ルークは軽く手を上げる。
浮遊魔法。
ふわっ――
倒れていた魔法団員たちの体が、一斉に宙に浮かび上がった。
数が多い。
なら――
収納空間を展開し、その中に簡易ベッドを並べる。
一人ずつ、丁寧に寝かせていく。
その光景は、もはや作業というより工場の流れ作業に近い。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
まだギリギリ立てたらしいリュゼルが、必死に手を伸ばしてくる。
「私も入れてください!絶対入れてください!お願いします!!」
……元気じゃね?
(声だけですね。)
「分かった分かった。」
リュゼルも回収。
こうして全員収納完了。
ルークはそのまま医務室へ向かった。
◆医務室
白を基調とした静かな部屋。
薬の匂いがほんのりと漂っている。
「すみませーん。ちょっと大人数なんですが大丈夫ですか?」
「はーい……」
奥から女性が顔を出す。
そして――止まった。
「……えっと。今しゃべったの……あなた?」
「はじめまして。ルーク・アルヴェインです。
1ヶ月前くらいからいる。」
「……ああ、噂の子ね。」
納得したように頷く医務官。
「患者がいるの?」
「20人くらい。」
「……どこ?」
「今出す。」
収納空間を開き、一人ずつ取り出していく。
ベッドに並べられていく魔法団員たち。
その様子を見て、医務官は完全に呆れ顔になった。
「……ツッコミどころ多すぎない?」
「どこから人出てきてるの?なんで全員魔力切れ?……ルークくん何したの?」
(当然の疑問ですね。)
「まぁ……ちょっと魔法使ったらこうなった。」
「“ちょっと”でこうなるの?」
医務官はじっとこちらを見る。
「……今さらだけど聞くわね。何歳?」
「もうすぐ2歳。」
「えっ。」
間が空いた。
「体はどう見ても1歳以下なんだけど……ちょっといい?」
腕を取られる。
軽く触られ――
「……なにこれ。」
「赤ちゃんの筋肉じゃないんだけど。」
「あー、身体強化してるからじゃないか?」
「常時?」
「多分。」
医務官はしばらく黙り込んだあと、小さく息を吐いた。
「……このままだと身長伸びないかもしれないわよ?」
「別にいい。」
(永久赤ちゃんですね。)
「……まあいいわ。」
医務官は肩をすくめる。
話している間に医務室のベッドに出しておいた。
「運んでくれてありがとう。何かあったらまた来てね。……本当に色々ありそうだし。」
◆自室前
廊下に戻ると、見慣れない侍女が立っていた。
背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げる。
「ルーク様。王妃様がお茶会に招待されています。」
……お茶会?
まあいいか。
「わかった。行く」
◆庭園
王城の奥に広がる庭園。
手入れの行き届いた花々。
噴水の水音。
その中央に、テーブルと椅子。
そして――
たくさんの令嬢たち。
華やかなドレスに身を包み、楽しげに談笑している。
中心には王妃。
「いらっしゃい、ルーク。」
柔らかな笑みで迎えられる。
「お茶会って聞いたけど?」
「そうよ。」
ミレイユは優雅に紅茶を持ち上げた。
「あなたが作ったお茶がとても美味しいって噂でね。ぜひ飲んでみたくて。」
……広まるの早すぎないか?
(あなたは常に話題の中心ですからね。)
「そうそう。」
ミレイユがふと思い出したように言う。
「私には敬語いらないわよ。ミレイユって呼んでちょうだい。
シリウスと友達なんでしょう?なら私も友達になりたいわ。」
「いいよ。じゃあ普通に話す。」
「ありがとう。」
ミレイユは嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあお茶作るか?」
「その前に挨拶したら?」
「了解。」
ルークは軽く浮かび、魔法で簡易的な拡声器を作る。
「あー……こんにちは。」
令嬢たちの視線が一斉に集まる。
「ルーク・アルヴェインだ。今日は呼ばれて来た。
見た目は赤ちゃんだけど、まあ大体なんでも出来る。今日はお茶出す。」
パチン。
机とカップが整然と並ぶ。
香り高い紅茶が一斉に満たされる。
一瞬の沈黙。
そして――
「きゃー!!」
「可愛い!」
「すごい!」
「お茶美味しい!」
一気に場が崩壊した。
ミレイユも一口飲む。
「……本当ね。優しい味。」
満足そうに頷いた。
「今日はありがとう。もう時間だからお開きにするわ。また呼ぶわね。」
「了解。」
そのまま帰ろうとした――
「待って!」
「ルークくん!」
「私とも友達に!」
「抜け駆けはダメですわ!」
一斉に距離を詰められる。
ドレスの波。
香水の香り。
……近い。
というか――
苦しい。
完全に囲まれた。
(人気者は大変ですね。)




