第12話 俺完璧だろ?
◆訓練場(魔法所)
王城の奥にあるその場所は、剣の訓練場とはまるで空気が違っていた。
広く整えられた石床の上に、いくつもの魔法陣が刻まれている。
空気はどこかひんやりとしていて、微かに光が漂っているようにも感じる。
あちこちで人が立ち、手をかざし、そして――
「……火よ、我が手に宿れ……!」
「風よ、集え――」
詠唱とともに、炎や風が発生していた。
……なんだこれ。
ルークはしばらくその様子を眺めていたが、やがて率直な感想が頭に浮かぶ。
効率悪くないか?
(普通は詠唱ありなんですよ。ここら辺の人がおかしいだけで。)
それにしても長いだろ、あれ。
そんなことを考えていると、隣でエルフェードがぱっと振り向いた。
「では!まず簡単な魔法からやりましょう!」
……テンション高いな。
「光は出せますか?ピカッて!」
説明雑すぎるだろ。
だがまあ、言いたいことは分かる。
ルークは軽く手のひらを上に向け、魔力を流す。
光。
ただし、圧縮して、密度を上げて――
ピカッッ!!
瞬間、訓練場が真っ白に染まった。
「つよっ!まぶし!」
「目が!?」
あちこちから悲鳴が上がる。
(初級をぶっ飛ばしてますね。調整ができてなくて訓練場に太陽が生まれました。)
「ルークくん!ストップですストップ!!」
エルフェードの声でようやく魔力を止める。
光が消え、視界が戻る。
……やりすぎたか。
そのとき。
ルークの視界の端で、別の“光”が揺れた。
さっき出した光とは違う。
もっと柔らかく、でも確かな存在感を持つ光。
それは、ゆっくりと形を変えていく。
丸から、人型へ。
『わ……たし……は……ひかりの……じょうい……せいれい……』
途切れ途切れの声。
だが、はっきりと“意志”がある。
『あなた……の……ひかり……きれい……ともだち……なりたい……』
……なるほど。
ルークは一瞬も迷わなかった。
「いいよ。」
(軽いですね本当に。)
「名前つけようか。……ルミエラ、とかどうだ?」
光がふわりと揺れる。
『ル……ミ……エラ……いい……』
「よし。よろしくな、ルミエラ。」
その瞬間、光がほんの少しだけ強く輝いた。
――背後で、誰かが息を呑む音がした。
「……すごっ……」
振り返ると、一人の女性が立っていた。
青いローブを纏い、目を見開いてこちらを見ている。
「すみません!私は副団長のリュゼル・ファーミアです!」
勢いよく頭を下げたあと、ぐいっと距離を詰めてくる。
「今、とてつもない魔力を感じて……って、え?」
視線がルミエラに釘付けになる。
「……近くに来て思いましたが、この魔力はまさか……」
「光の上位精霊。ルミエラ。」
「上位精霊!?」
声が裏返った。
「見たい!!でも見えない!!魔力足りない!!ああああ!!」
……怖い。
(テンションの方向がちょっと危険ですね。)
「ごめんねルークくん!この子、精霊大好きで!」
エルフェードがフォローするが、本人は床に手をついて悔しがっている。
……関わらんとこ。
「じゃあ説明いきますね!」
エルフェードが無理やり進行を戻した。
「この世界には属性があって、それぞれ得意不得意があるの!」
周囲では火、水、風、土――様々な魔法が使われている。
「ちなみにさっきの光は誰でも使える基本魔法!」
……誰でも?
(あの規模は誰でもじゃないです。)
「じゃあ全部試してみるか――」
「ちょっと待ったぁ!!」
復活したリュゼルが全力で止めに入る。
「さっきの見ました!?全部やったら国なくなります!!」
(また言われましたね。)
「まず制御を見せてください!製造魔法!」
製造か。
ルークは少し考え――ニヤリと笑った。
せっかくだ。
パチン。
指を鳴らす。
その瞬間、空間に魔力が広がり――
机が並び、椅子が現れる。
さらにカップとポット。
草魔法で茶葉を生成し、水で満たし、火で温める。
数秒後。
湯気の立つ紅茶が完成していた。
「どうぞ。」
沈黙。
「……」
「……すっご」
「かわいい!!」
「天才!!」
かわいいは関係ないだろ。
(最後だけは同意します。普通にすごいです。)
リュゼルが深く息を吐いた。
「制御、完璧ですね……」
さっきまで騒いでいたのに、一気に真面目な顔になる。
「では次、攻撃魔法いきます。」
切り替え早いな。
「絶対普通にすると城が壊れるので、結界張ります!全員で!」
しばらくすると
キンッ――
空間に透明な壁が展開される。
外と内が分断された。
……あれ?
これ声届くのか?
ルークは細く魔力を伸ばす。
糸のように。思いついたのは糸電だ。
それを
リュゼルへ繋ぐ。
「……聞こえる?」
「なっ……なんですかそれ!?」
「どの魔法やる?」
「無視ですか!?あとで絶対教えてくださいね!?」
(さらっと新しいことしてますね。)
「じゃあ水魔法!対象を包むやつ!」
ルークは近くの人形を見る。
水を集める。
球状にして――
内部に流れを作る。
ボン。
水が人形の頭を覆った。
……が。
(中で竜巻発生してますね。)
「頭なくなってますけど!?」
「え?」
「…次!水の刃!」
いやちょっと待て。
(嫌な予感しかしません。)
だがまあ、小さくすればいい。
風の刃を応用して、細く、薄く――
シュッ。
人形が綺麗に真っ二つになる。
……おお。
成功――
その直後。
刃がそのまま直進した。
結界へ。
……あ。
「ごめん!!」
ギィンッッ!!
結界が大きく歪む。
「ちょっと!?魔力密度おかしいんですけど!?」
リュゼルやみんなが必死に魔力を流し込む。
結界が軋む音が、空間に響いた。
(かわいそうに。)




