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なんか知らんけど世界が騒いでる~転生したら最強赤ちゃんでした~[カクヨムに連載中]  作者: Kurara-Lunaria


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第10話 飛んでった

――2週間後(1歳)――


朝の空気が少しだけひんやりしている。


王城の石造りの廊下を、一定のリズムで歩く。


この二週間で、すっかり日課になった。


訓練場に通うこと。


最初は見られてばかりだったが、今はもう違う。


……多分。


(いや、見られ方の種類が変わっただけです。)


扉を押し開ける。


ギィ、と重たい音が響く。


中に入った瞬間――


空気が、少しだけ揺れた。


騎士たちの動きが、一瞬だけ止まる。


視線。


遠巻きに、こちらを見る目。


以前より、明らかに距離がある。


「……?」


違和感はあるが、まあいいか。


視線の先を追うと、訓練場の端に何かが積まれていた。


木剣の山。


折れたもの、ひびが入ったもの、真っ二つのもの。


見覚えしかない。


……あれ全部、俺か。


(ええ、ほぼ全てあなたです。ちょっとどころじゃない量ですね。)


少しだけ申し訳なくなる。


「……直せるかな」


ぽつりと呟く。


まだブレイザーもシリウスも来ていない。


時間はある。


やるなら今か。


木剣の山の前に立つ。


しゃがみ込んで、一本手に取る。


折れている断面。


木の繊維。


……いけそうだな。


(“いけそう”でやる規模じゃないんですよね、それ。)


ゆっくり立ち上がる。


軽く息を整える。


今回は範囲が広い。


さすがにそのままは無理だ。


魔法陣を使う。


足元に、淡い光が広がる。


細い線が、空中に描かれていく。


円。


その内側に、さらに複雑な紋様。


重なり合う構造。


魔力の流れを調整しながら、一つずつ組み上げていく。


……ここを繋げて。


ここを抑えて。


こっちは流す。


(ちょっと待ってください。普通は一生かけても辿り着かない領域なんですが?)


数秒。


いや、体感ではもう少し長い。


魔法陣が完成する。


淡く光るそれが、訓練場の床に静かに浮かんでいた。


「――よし」


小さく呟いて、発動させる。


ふわり、と光が広がる。


空気が震える。


次の瞬間。


木剣の山が、ゆっくりと光に包まれた。


折れていた断面が繋がる。


ひびが消える。


欠けていた部分が、元の形を取り戻す。


カラン、と音を立てて一本の剣が転がる。


その連鎖。


次々と、元通りになっていく。


やがて光が消える。


そこに残っていたのは――


整然と積まれた、無傷の木剣。


「おお」


思わず声が出る。


綺麗に直っている。


ほぼ完璧だ。


(“ほぼ”で済ませていい結果じゃないんですよそれ。)


そのとき。


背後に、気配。


振り返る。


ブレイザーとシリウスが立っていた。


いつからいたんだ?


二人とも、完全に固まっている。


「おーい」


軽く手を振る。


「大丈夫か?」


「「…………はっ」」


同時に戻ってきた。


シリウスが一歩前に出る。


「ちょっと待って」


指差しながら言う。


「今の、何?」


「木剣直しただけだけど」


「だけって何!?」


声が裏返る。


ブレイザーは、ゆっくりと口を開いた。


「……ルーク様」


「念のため確認させてください」


「今日もか?」


「今の魔法は……既存のものですか?」


「知らないな。自分で考えてやってるから多分違うと思う」


沈黙。


(“多分違う”で済ませるの怖すぎません?)


ブレイザーの視線が、床の魔法陣の残滓に落ちる。


そして、またこちらに戻る。


「……つまり」


「魔法の構造を理解した上で、再構築している……?」


「そんな感じじゃないか?」


シリウスが頭を抱えた。


「君ほんとに一歳!?」


「一歳だぞ」


「納得できる要素が一つもないんだけど!?」


(全面的に同意です。)


ブレイザーはしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……剣だけでなく、魔法もここまでとは」


「正直、想定外です」


遠くを見る。


ちょっと現実逃避気味だ。


「騎士にとって、魔法は補助であり強化でもあります。

ですがルーク様は……その両方が、規格外だ」


(“規格外”で収まってるの優しいですね。)


「まあいいでしょ」


区切るように言う。


「今日の訓練しよう」


自然に切り替える。


この流れでそれ言うのか。


シリウスが呆れた顔をした。


「切り替え早すぎない?」


ブレイザーも苦笑する。


だが、すぐに表情を引き締めた。


「……では、本日は実戦形式に入ります」


木剣を構える。


「私と模擬戦を」


「手加減は――」


「しない方がいい」


「「そうだな」」


(即同意ですね。)


全員うなずくな。


シリウスが一歩下がる。


「始め!」


声が響く。


同時に、ブレイザーが踏み込んだ。


速い。


だが――


遅い。


体が自然に動く。


わずかに重心をずらすだけで、軌道が見える。


剣が空を切る。


そのまま、横に抜ける。


無防備な側面。


軽く。


本当に軽く。


手刀を当てる。


――次の瞬間。


ブレイザーの姿が消えた。


「……あれ?」


視界からいなくなった。


(チョップの衝撃で吹き飛びましたね。かなり綺麗に飛びました。)


少し遅れて――


ドォン!!


遠くで音が響く。


シリウスが振り返る。


「おーい!?どこまで飛んだ今!?」


慌てて指差す。


「あそこ!!壁の近く!!」


見ると、小さく人影が見える。


……飛ばしすぎだな。


「普通に避けて、軽く当てただけなんだけど」


「軽くの基準がおかしいんだよ!?」


(本当にそれです。)


少しして。


ボロボロになったブレイザーが戻ってきた。


歩いているが、若干ふらついている。


「……ルーク様」


「ごめん」


先に言っておく。


「木剣だと危ないと思って。軽くしたつもりだった」


(“つもり”であれですからね。)


ブレイザーは空を見上げた。


数秒、何も言わない。


そして――


「……正直に申し上げます。

私が教える段階は、もう過ぎている気がします」


シリウスが頷く。


「うん。さっきまあまあ本気だったよね?」


「出せる範囲では」


「普通に負けてるよね」


「否定はしません」


静かに言う。


そのときだった。


「では――」


新しい声。


振り返る。


知らない男が立っていた。


無駄のない立ち姿。


だが、ブレイザーとは違う“抑えた強さ”がある。


「続きを、私が担当しましょう」


ブレイザーが頷く。


「ああ。適任だ」


「誰だ?」


男は軽く一礼した。


「副団長、ライナス・ヴォルクレインと申します。

私は“力を制御する戦い方”を専門としています」


なるほど。


確かに今の俺に必要なのはそれだ。


「頼む」


「はい」


ライナスは足元の石を一つ拾い、こちらに放った。


軽く投げただけだ。


受け取る。


「まずはこれを使います。

あなたは“普通に持つ”ことは出来る。ですが、少しでも力を込めると――」


「壊れる」


言われなくても分かる。


試しに、ほんの少し力を入れる。


バキッ


手の中で、石が砕けた。


破片が弾ける。


パラパラと周囲に落ちる。


(今の“ほんの少し”でこれです。)


気づくと――


三人とも、少し距離を取っていた。


さっきよりもさらに。


……なんで?


(危険だからです。)


ライナスが静かに言う。


「その“ほんの少し”を、限りなくゼロに近づける。

それが第一段階です」


なるほどな。


単純だが、難しい。


手の中の石の残骸を見る。


……まあいい。


「何回かやれば出来るだろ」


そう言って、次の石を拾う。


(軽いですね。本当に軽いですね。)


訓練場の空気は、完全に変わっていた。


期待と――


ほんの少しの恐れが混ざった視線。


その中心で。


俺はもう一度、石を握る。

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