第99話 最初の夢
2024年5月3日(金)深夜
封鎖のニュースから2日後、美久は不思議な夢を見た。
石畳の道。見覚えのある祢古町の商店街。
でも、地下にある。
天井は岩で、所々に明かりが灯っている。
「美久お姉ちゃん!」
子猫が駆け寄ってきた。夢の中では、2メートルの壁はない。
「みんな、無事なの?」
「うん!地下は意外と快適だよ」
周りを見回すと、確かにみんながいた。
黒猫、ミユキ、茶トラ青年...
みんな、元気そうに見える。
「心配かけてごめん」
黒猫が近づいてきた。
「でも、しばらくは地上に出られない」
「そんな...」
「大丈夫。いつか必ず、また会える」
ミユキが優しく微笑む。
「それまで、美久さんは美久さんの道を歩んで」
「夢で、時々会いましょう」
目が覚めた時、美久の頬は涙で濡れていた。
でも、安堵もあった。
みんな、無事だ。
■就職活動の迷い
2024年5月~7月
封鎖のショックで、美久の就職活動は停滞した。
でも、夢で猫たちに会えることが支えになった。
週に1度ほど、あの不思議な夢を見る。
夢の中では、地下の祢古町での生活の様子を見ることができた。
「図書館、作ったんだ」
「地下水も見つかったよ」
「新しい仲間も増えてる」
現実なのか夢なのか、美久には判断がつかなかった。
でも、確実に言えることがある。
夢から覚めた後、心が温かくなっていることだ。
■夏の決意
2024年8月
就職活動に行き詰まった美久は、ある決断をした。
「就活、やめる」
キャリアセンターの面談で宣言した。
「え?どうして?」
「自分でお店を開きたいんです」
「猫カフェですか?それは...現実的に考えて、資金は?」
職員の現実的な指摘に、美久は言葉に詰まった。
確かに、開店資金なんてない。
アルバイト代の貯金だけでは、到底足りない。
「...それは、これから考えます」
「もう少し現実的な選択肢も検討してみませんか?」
美久は複雑な思いで面談を終えた。
夢はある。でも、現実は厳しい。
■卒業論文
2024年秋~冬
美久は、卒業論文の執筆に集中した。
テーマは「人間と動物の共生における心理的距離の研究」。
祢古町での体験を、学術的な視点で分析する。
もちろん、場所や詳細は伏せて。
でも、そこで学んだことは、確実に論文に活かされていた。
夢での交流も続いていた。
冬の夢では、地下で雪まつりをする様子を見た。
「雪は降らないけど、白い布で雪を作ったの」
子猫が嬉しそうに報告してくれた。
そして、ある夜の夢で黒猫が言った。
「美久の夢、応援したいんだけどな」
「でも、お金がないから...」
「そうか...」
黒猫は考え込むような表情を見せた。
現実感のある夢だった。
■2025年3月:卒業式
2025年3月20日(木)
桜が咲き始めた大学のキャンパスで、卒業式が行われた。
美久は、両親と一緒に式に参加した。
「美久、おめでとう」
「ありがとう、お父さん」
「で、就職先は決まったの?」
母親の質問に、美久は深呼吸した。
「まだ...決めてない」
「猫カフェの話はどうなったの?」
「それは...資金的に難しくて」
両親は、安堵したような表情を見せた。
「それなら、ちゃんとした会社に就職しなさい」
「うん...」
美久は、力なく頷いた。
夢は夢。現実は現実。
その境界線が、くっきりと見えていた。




