第98話 2024年5月1日:二つの始まり
朝、美久は就職活動の準備をしていた。
4年生の5月。本来なら就活で忙しい時期だが、美久の心は別のことでいっぱいだった。
祢古町での最後の別れから2日。あの時の胸騒ぎが、まだ消えない。
「今日も説明会か...」
スーツに身を包みながら、美久は憂鬱だった。
企業の説明会に行っても、心は祢古町にある。
猫カフェを開くという夢だけが、美久を支えていた。
同じ頃、祢古町では封鎖作業が始まっていた。
「今日から、新しい戦いが始まる」
黒猫が、町の見張り台で呟いた。
政府の車両が、山道を上ってくる。
重装備の作業員たち。
そして、町を囲むフェンスの設置。
「逃げる時が来た」
封鎖開始
午前10時
美久が企業説明会に参加している最中、祢古町では緊急事態が発生していた。
「全員、地下へ避難開始!」
少女の声が、町中に響く。
猫たちは、慌ただしく荷物をまとめ始めた。
でも、パニックではない。
以前から準備していた避難計画に従って、整然と。
午後2時
説明会から帰った美久は、ニュースで知った。
『山間部で不法占拠地域の強制撤去』
『住民の安全確保のため立ち入り禁止』
場所は明記されていないが、美久にはわかった。
祢古町だ。
「嘘...」
スマートフォンが震える手から落ちそうになる。
急いで祢古町関連の情報を検索するが、すべて削除されていた。
掲示板のスレッドも、ブログ記事も、YouTube動画も。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
「みんな...大丈夫?」
美久は、その場に座り込んだ。




