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第89話 別れの朝

翌朝、美久は帰る準備を始めた。


今回も一泊だけ。


まだ、人間の生活があるから。


大学もあるし、バイトもある。


「もう帰っちゃうの〜」


子猫が、不満そうに鳴く。


美久の膝から離れようとしない。


「また来るから」


「いつ?」


「う〜ん、2週間後?」


「遅い〜」


「もっと早く〜」


他の猫たちも、口々に言う。


でも、これが美久のペース。


人間と猫、両方の世界を大切にする。


どちらか一方じゃない。


両方があって、美久は美久でいられる。


荷造りをしていると、みんなが集まってきた。


そして、それぞれがお土産をくれた。


「これ、作った」


ミユキからは、不格好な編み物。


マフラー...のようなもの。


穴だらけだけど、心がこもっている。


「これ、拾った」


茶トラ青年からは、きれいな石。


河原で見つけたらしい、つるつるの石。


音符の形に見える。


「これ、大事」


黒猫からは、使い込まれたおもちゃ。


ネズミの形をした、古いおもちゃ。


「子猫の時から持ってた」


「え、そんな大事なもの...」


「いいんだ。美久になら」


美久は、すべて大切に受け取った。


一つ一つ、丁寧に包んで。


「ありがとう。宝物にする」


「大げさ〜」


でも、みんな嬉しそう。


自分たちの気持ちが、形になって伝わった。


見送り


「あっ!ちゅーるの包装紙回収しなくちゃ!」


美久は祢古駅のホームに向かい、ちゅーるの包装紙を回収した。


ベンチにあったCanon EOS R5の位置が少し変わっていたような気がした。


石碑の前では、みんなが見送ってくれた。


前回より、たくさんの猫人間が集まっている。


新入りさんも、遠巻きに見守っている。


朝日が、みんなを照らしている。


金色の光の中で、別れの挨拶。


「じゃあ、また」


「うん、また」


別れの挨拶は、シンプルに。


もう、特別なことじゃない。


日常の一部。


また会える、という確信があるから。


「これ、預かって」


少女が、一冊のノートを渡した。


表紙には、達筆で「交換日記」と書かれている。


「交換日記?」


「みんなで書くから」


「美久さんも、人間の世界のこと書いて」


「!素敵!」


また一つ、繋がりが増えた。


距離を超えた、心の繋がり。


美久は、車に乗り込んだ。


エンジンをかける。


バックミラーに、手を振るみんなの姿。


人間の手を振る者。


前足を振る者。


尻尾を振る者。


それぞれの方法で、別れを惜しんでいる。


「またね〜!」


美久も、窓から手を振る。


クラクションを軽く鳴らして、出発。


プップー。


軽快な音が、朝の空気に響く。

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